―――とある街―――
「こんにちは、マクレガーさん。」
「……どちら様で?」
「これは、失礼。わたくし、クレイ・ハールストンと申します。どうか、お見知りおきを。」
どこか、ピエロのような雰囲気を醸し出すその男は、小奇麗なダブルのダークスーツを着こなしている。そして、若い。
「それで…、何の用です?」
それに比べて自分は、少しよれたグレースーツ。しかも、白髪混じりで初老だ。なんとも私は残念な見た目だ。だからだろう、目の前の若い、顔も身形も整った男に警戒してしまうのは。
「いえ、今回は確認しに来ただけですので、そう緊張なさらず。」
「確認……?」
「ええ、確認です。貴方が〝人形技師〟かどうかの、ね。」
ザワリ、と背筋に寒気が走った。にっこりと笑みを浮かべるピエロ-クレイ・ハールストン-という男は、感じのいい笑みから、どこか冷たいものがにじみ出ているかのようだった。
「それを…それを知って、どうするつもりなんだい?」
裏返ってしまった声から、きっと相手に対する恐怖や困惑が簡単に気付かれてしまったに違いない。
「貴方が、私の、いえ我々の考える『ヒト』になり得る『人形』、それを作ることができる人材の確保と保護。そのために知らないといけないわけなんですよ、シード・マクレガーさん?」
目の前の男の笑みは、一切崩れていないが、あまりにも冷たかった。そして、何より、自分のフルネームを発音を間違えることなく言い切ったという事実に、いよいよ本格的な恐怖を覚えた。
逃げ出すべきだろうか?
そんなことを思うも、きっと無駄な抵抗になるであろうと感じていた。
「貴方の噂は、よく聞きますよ?見た目-ハード-だけでなく、内面-ソフト-までも人間に近く、もはや『人形』というのも烏滸がましいとさえ言われる。世紀の天才技師。人形達に魂を吹き込む創造主。噂は噂を呼び、根も葉もない嘘になる。だからこそ、確認したいのです。噂は嘘ではなく、真実である……と。」
目に冷たい光を宿し、どこか興奮したような表情で、その男は問い詰めてくる。だからだろうか、じりじりと無意識に後ずさってしまっていた。男はそのことに目敏く気づき、後ずさってしまった分を埋めるように歩み寄ってくる。
「―――マスター?」
「っ!!?」
小さな少年のような声に、私は思わず飛び上がりそうになったが、すぐに自分が作った人形の声だと気づいた。そういえば、ここは自分の家の前で、今、声をかけてきたのは確かまだ行き先が決まっていない4番目の子だったような。
頭の中を過った瞬間だった。男は、ニヤリともニタリともとれるような笑みを浮かべ、「ふむ」と一言もらすと、表情を整えてからまた口を開いた。
「今回は、これでお暇させていただきます。貴方も何かしら用事があるでしょうから。」
ニコリ、と最初に見たような笑顔を浮かべると、男は軽く会釈をしてから去って行った。
男の姿が見えなくなると、ガクン、と足の力が抜けてへたり込んでしまった。あまりにも緊張してしまっていたのか、それとも想像以上に恐怖を感じていたのか、私にはわからなかった。
人形少年のパタパタと駆け寄ってくる音と、私を呼ぶ声がなぜか遠く聞こえた。




