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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
エル・アリアノーズ戦記 最終章
67/81

ep.65 王都急襲戦(中)

本日の更新は前回ep.64より始まっております。よろしければそちらをご覧になってからお読みくださいませ。






 王城の構造は、外門が二層、内門が一層。戸口型の外門は衝車などの攻撃を防ぎ、うまく機能しているといえる。

 逆に内門は丁寧な作りをした巨大な門である為に、どちらかと言えば国民に対する誇示に近い面があった。


 その内門の内部に二千の兵士が駐屯させてある。


 進入してくる魔剣使いを排除しろ。


 突拍子もない命令に聞こえるが、この世界では一つの常識でもあった。魔剣使いはどんな力を使うかさえ分からない。なれば数で潰すのが定石であったからだ。この内部であれば、敵を取り囲み袋叩きにすることが出来る。


 であればこその、この場所であった。


 先ほど命令系統から緊急体勢が敷かれた。外に、居るはずの魔剣使いが確認出来なかったというのだ。ならばどこからか現れる確率が高い。


 魔剣使いを倒すというのは一種の名誉でもあったから、様々なものに飢えた王都兵は、魔剣使いの到着を今か今かと待っていた。


 その、瞬間。


 十メートルはくだらない鉄の門が、盛大に破砕された。


 いや、違う。内門に大量の剣閃が迸り、次の瞬間巨大な力で吹き飛ばされたのだ。


「出たぞおおおおお!!」


 大声をあげるは、城門付近の兵士たち。

 だが、彼らには誤算があった。



 鉄の門が破砕されたその向こう。数人が佇む中で、戦闘に立つ男二人。

 暴風を纏う剣を握り、獰猛な笑みを浮かべた茶髪の男と。

 静かに瞳を閉じながらも、そのうねり狂う剣は血を求めているとしか思えない黒髪の男。


「足、引っ張るんじゃねえぞチンピラワカメ」

「それは俺の台詞だ……マッスル馬鹿が」

「「上等!!」」


 瞬間速度はいかほどか。


 二人が地面を蹴った瞬間、十数人の兵士が宙を舞う。

 地面が破砕され、大地が戦慄く。

 鋭く光る剣閃は、獲物を求めてひた走る。


「オラオラァ!! 根性足りてっかぁ!?」

「唸れ、俺の生ける剣よ!!」


 轟音と共に爆砕する城壁、強かに打ち据えられて吹き飛ぶ兵士たちはただのエッセンスでしかない。


 彼らの求めるはただ一つ。


「へぇ! テメエの魔剣もなかなかじゃねえか!! ま、俺の方がすげえがな!!」


 剣先に蓄えられた巨大な風球が地面を抉りながら城の方へと吹き飛んで。


「ハッ……くだらん。それで本気か!」


 どこに逃げようと追いつめる黒き鞭が、ついでとばかりに城壁を破壊する。


「ほざけ!! こっちが本気よ!!」

「ほう、俺の魔剣に敵うほどか?」


 跳躍した二人の魔剣が同時に煌めく。


「"天地開闢"!」

「"変幻自在"!」


 内門内部の大地を、最大の"暴力"が粉砕した。





「……えげつないな」


 思わず竜基はつぶやいた。今ので七、八割の兵士は倒れたのではないだろうか。そうでなくとも、ふらついているに違いない。戦意を喪失した者も含め、かなりの数に上るだろう。


 とにかくすさまじいの一言だった。二人の魔剣使いが暴れる間、ライカの護衛で全員は城の方に突き進んだ。城に入る扉もご丁寧に破壊されており、軌跡をみる限りガイアスの風弾がぶち当たったに違いない。


 そそくさと内門内部をくぐり抜け、リューヘイとガイアスを待つ。一頻り暴れた彼らは特に汗をかいている様子もなく、まだピンピンしていた。

 とはいえ、油断は禁物だ。いつ危険が訪れるか分からない以上、これ以上魔剣使いの魔力を消費させる訳にはいかない。


 と、その時だった。


「よっしゃ、じゃ、ウチも頑張ったるで!」

「そうだね。僕らも頑張らないと、黒き三爪の名が廃るよ」


 長刀を持ち出すヴェルデと、投げナイフを数本掴んだケスティマ。

 彼らが扉の前に立つ。


「本当に、良いの?」

「ええんです。ウチらも、あんたみたいな人が王になる国なら大歓迎や。せやから、協力したる。魔剣使いとの戦いが起きたら、ウチらもなにも出来ひんし、ここが勝負所には一番ええんや」

「そうだね、ヴェルデがあなたたちのお世話になったのは事実。恩を返すよ」


 困惑するアリサに、振り返って笑うは黒き三爪の二人。

 ライカの護衛で進む最中に、彼らが言い出したことがこれだった。

 これだけ数を減らした敵兵からなら、この扉の入り口を守ることくらいは出来る、と。

 それでも数百が残っているというのに、彼らの戦意は高かった。


「ヴェルデ、ケスティマ。大丈夫なのか?」

「兄ちゃんがいれば、そっちは大丈夫やろ。ウチはウチに出来ることをするだけや」

「先輩は心配しないでください。むしろ普段先輩の策に巻き込まれる方が、危険です」


 からからと楽しげに笑う二人の視線はリューヘイに向いて。どこか深い絆があるように、周りからは思えた。


「けど二人だけじゃ厳しいか……魔剣使いは温存だし……なら僕がやるしかないかぁ」

「グリアッド?」


 アリサの隣に居たグリアッドが前に進み出る。腰に差した短剣を引き抜いて、振り返った。


「クサカ、ガイアス。あ~ちゃんをよろしくね~」

「うむ、命に代えても守ってみせようぞ!」

「おう! 任せろ! お前も根性だ!」

「あはは、根性は僕にはあわないかな~」


 のらりくらりとした雰囲気は崩さずに、グリアッドは扉の前に立つ二人に合流する。


「グリアッド! ……死なないで」

「あ~ちゃんに言われたら、死ぬわけにはいかないな~。さてお二方、足を引っ張らないようにするから、よろしくね~」

「ほんなら、気張るで!」

「短剣と投げナイフだと、相性も良さそうですね」


 グリアッドが扉の前に立ったその時、敵兵が入り口に殺到する。

 次々に斬り伏せながら、ヴェルデが声をあげた。


「さあ、最終決戦行くんやろ!? 頑張ってこいや! 王女サマ!!」


 彼女の長刀捌きは圧巻の一言だった。本当に、これなら三人で敵を押しとどめてしまいそうなくらいに。


「……いこう、彼らを信じて」

「……分かったわ」


 竜基の言葉に頷き、アリサは身を翻す。グリアッド、ケスティマ、ヴェルデを置いて、彼らは走り出した。

 最終決戦の場に向けて。


















 城内の廊下を駆ける。アッシア王、ミモザ王后にはもはや権力は無い。狙うはエリザただ一人だった。

 そのエリザは、ファリンの前情報では玉座の間に居るとのことだった。

 どういうつもりかはわからないが、彼女が玉座の間に居ることが出来るという時点で、今の彼女の持つ力がわかる。王城は、エリザのものなのだろう。


「……罠だと思うか?」

「おそらくは。ただ、こちらに居る魔剣使い三枚を彼女が考慮に入れていると仮定すると、相手にはまだ魔剣使いが居る可能性が高い。エリザの影武者を置き、空城計で外に逃げたにしては……特に仕掛けが施された形跡も無い。十分に勝算があるのか、それともヤケか。……いや、おそらくは前者なのだろうと思う」

「……読めないな」

「ああ、読めない。けれど、突貫を仕掛けたのはこちらだ。今慎重さを持つのは、かえって愚かだ」


 並走するリューへイと言葉を交わす。アリサを抱えて走るクサカと、その横をライカとガイアスが挟んでいる。

 凸字型の陣型を即席で作り、ひたすら玉座を目指していた。


「そこの階段上って!」

「了解!」


 アリサが、生まれ育った自分の城を案内するナビゲーターの役目を果たしている。このおかげで、かなり早く玉座に到着することが出来そうだった。敵を三人がくい止めてくれているとはいえ、あまり長時間のんびりとやる訳にはいかない。外で戦っている国の民を少しでも早く解放するべく、急ぐ必要があったのだ。


「その扉の向こう!! そこが玉座よ!!」

「承知したぁ!!」


 リューへイが叫びと同時に魔剣を展開、荘厳な木製の扉を粉砕する。


 その向こうには、玉座の前に佇む一人の少女の影があった。白とグリーンを基調としたドレスに身を包み、羽毛付きの扇子をもって。

 しなやかなブロンドを背に流した少女だった。


「……エリザ」

「あら、アリサ。ずいぶんと早い到着なのね」


 その会話だけで、すぐにわかった。赤いカーペットの向こう、あの椅子の前に立つ人間こそ、エリザ・ラ・フォリア・アッシアなのだと。


「いったい、なにを考えている」


 クサカの小さな呟きは、この広い玉座の間に反響した。

 彼の言う通り、無防備な姿でその場に立つ彼女はどこか不気味だ。

 まるで、囮になっているかのような……。


 そこまで察したのは、なにも竜基だけではなかった。周囲に警戒を敷き、魔剣使い三人は抜刀する。だが、気配は感じない。

 どういう、ことだろうか。


「……エリザ、どういうつもり?」

「あら、どういうも何も……あなたがさんざんに計画を壊してくれたから、今からここで皆殺しにしてあげようと言うのよ」

「っ!?」


 くすくすと笑うエリザの影からゆらりと現れたのは、一人の男だった。何者だろうか、翡翠色の髪を短く切った、鋭い目をした男だ。


「やぁ、みなさん。会うのは初めてになるかな?」

「……誰だ」

「あっはは、こりゃ、結構ご挨拶だな」


 ひょうきんに、ぽりぽりと後頭部を掻くその男。だが、油断も隙も無い。構えるガイアスとライカとは対照的に、一歩前に進み出たのはリューヘイだった。


「ウルフレーダ。こんなところで何をしている」

「おっと、誰かと思えばリューヘイ殿。あ~、なるほどなるほど。そりゃ、ここまで簡単に進入を許す訳だ」


 ぽん、と手を打って快活に笑うウルフレーダという男。その出で立ちはまるで騎士のようだったが、竜基はともかくアリサすら、面識はない。

 唯一顔を知っているらしいのは、目の前のリューヘイのみのようだった。


「……ウルフ、どういうこと?」

「なぁに。目の前に居るあの黒髪の目つき悪いのは、大陸最強クラスの魔剣使いってことだよ」

「……それで、あんなに、イレギュラーが……!」

「そう怒るなってエリザ。さて、戦いを始めるのも良いが、オレは別に熱くなる必要はないかなーって思ってるんだが。どうかね?」


 アリサは彼の言葉に眉をひそめた。あのエリザと親しげに会話を交わしていることもそうだが、彼の言動はいちいち意味が不明すぎる。


「……その前に、ちょっと良いか」

「んむ? おやぁ、これまた黒髪。しかもリューヘイ殿によく似てるなぁ」

「……エリザ。なんでこんな風に国を滅茶苦茶にしたんだ?」

「おっと、無視か。こりゃ参ったね」


 ウルフレーダの茶々は眼中になし。竜基の視線はただ一人、エリザに向けて注がれていた。

 そんな彼の問いかけに、エリザは小さく肩を竦めた。


「……貴方が、森の少年賢者、ね。ほんと、貴方のせいですべての計画が台無しだわ」

「これだけやっておいて、台無しか。お前にはさんざん苦しめられたけど、結局何がしたいのかなんて見えて来なかった。どういう、つもりだったんだ?」


 まるで種明かしを要求するような、竜基の口調。

 だが実際のところ、エリザのやってきた数々のことには説明のつかない部分が多い。その癖竜基たちを苦しめることだけはきっちりとこなしてくるその歪さは、彼女の風貌も相まって謎を深めるばかりだった。


「何がしたかったか、か」


 エリザは小さくウルフレーダを一瞥してから、面倒臭そうに口を開いた。


「そんなに難しくないわよ。私はただ単純に、女として幸せになりたかっただけ」

「……は?」





 空気が、凍った。






「今、なんて?」

「だから、女として幸せになりたかったの。ふつうの、女の子として。それには王族の肩書きが邪魔じゃない」


 こいつは、何を言っているんだ?


「……お、お前は……ただ、単純に……ただ王族の権利を放棄するためだけに……こんなことを……?」

「別に最初からそんなつもりじゃなかったけれど。ただ雲隠れするのも悪くはないかなって思っていたけど、ウルフが色々教えてくれたわ。愚かな王や、これからの未来。このアッシア王国に対する、意趣返しの仕方」

「意趣……返し……!? これだけのことをやって……ただの、それが、意趣返しだって……!?」


 思わず、拳を握りしめる竜基。


 それは、そうだ。こんなことを考えている人間が相手だったなど、竜基には想定出来やしない。

 窓の外からは、戦いの喧騒が遠くからでも聞こえる。


 必死に戦い、明日の日を拝むただそれだけの為に剣を振るう人間たちを差し置いて、この女はただただ自己満足の為だけに力を行使した。


 権力乱用なんてレベルじゃない。


 こいつは、こいつは……。


「お前は…………お前は……」


 ふるえる声で、揺れる瞳で、竜基はエリザを睨み据えた。思い返すのは、多くの戦い。


 最初の、山賊が発生したのも、あの村が苦しめられたのも。


 ヒナゲシが戦場に駆り立てられ、父親を失ったのも。


 あの時村の皆が助けてくれなければ、死んでいたかもしれない戦いも。



 全部全部、この女の考えの為に起きたことだとしたら。



 ただの、意趣返しなのだとしたら。



「お前は!! 人の命を!! 国を! 民を! 何だと思ってるんだ!!!!」



 叫ぶ。慟哭す。


 この女の悪ふざけで散っていった命の数はいかほどか。苦しめられ、心を痛めた人間の数はいくらに上る。


 竜基は今、生まれて初めて感じるほどの怒りを覚えていた。


「あら、別にどうも思ってないわよ。何で私がそんなこと考えなきゃいけないの?」



 エリザの口が、そう言葉を吐いた瞬間のことだった。



「殺す!!!!!」


 総毛立つような殺気。それを感じた瞬間には、玉座に打ち据えられる大量の黒き蛇。横を見れば、血走った瞳で玉座を睨むリューヘイが、抜き身の"変幻自在"を発動させたところだった。


「お、おいリューヘイ……まだ殺すべきじゃ……」

「うるせえ!! あんな悪魔を……生かしておけるかよ……!!」

「……ま、まあそうかもしれぬが……」


 エリザという女の身勝手さを、少しは知っていたクサカだが。それでもリューヘイの憤りを止めることはできなかったらしい。


 だが。


「あっぶないなーリューヘイ殿ぉ」


 煙が晴れた向こう。見事に粉砕された玉座の前に、飄々と佇む男と、抱きかかえられた王女エリザ。


「ウルフレーダ……!」

「まあそう怒るなって。アッシア王国が消えればいいと思ってるのは、あんたも一緒だろ?」

「それ以上その口を、開くんじゃねぇ……!」


 血に飢えて唸りをあげる黒き蛇は、限界だとばかりに地面に数度その身を叩きつけていた。その度に部屋に亀裂が走る。


「おっと、戦いになっちゃうかぁ。仕方ないね。……じゃ、出てきていーよ」

「……やっとか」


 ウルフレーダの呼びかけに従い現れたのは、一人の壮年の男だった。丸坊主にした、焼けた肌の男。背に持つは、ライカのそれとは違う両刃の斧。


「じゃ、殺し合おうか」


 ウルフレーダが、得物を手に取る。手袋のようなそれを、竜基は知っていた。


「あれは、ただのグローブじゃないのか」

「……ウルフレーダの武器は、そのグローブの指先につけてある糸。つまり、鋼糸だ。近づいたら切り刻まれる、マッスル馬鹿とそこの童女は相性が悪い。俺が出る」

「……じゃ、あのおっさんが俺の相手か」

「あたし、サポートやるよ……リューキほどじゃねえけど、だいぶトサカにきてやがるんだ」


 竜基とアリサ、そしてクサカを下がらせて、魔剣使い三人が前へ出る。やる気というよりは殺意満々の三人の会話は、和やかながらどこか殺伐としていた。


「サポート?」

「あたしの……バーストだ。見せてやるよ」


 ニヤリと笑い、ライカは言った。


「なるほど、頼りにしている」

「俺の弟子なら、出来て当然だ」


 戦いが、始まる。

次話更新は本日8/10(日)23:00です。

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