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魔剣戦記~異界の軍師乱世を行く~  作者: 藍藤 唯
エル・アリアノーズ戦記 最終章
66/81

ep.64 王都急襲戦(上)

 前回までのあらすじ



 とうとう攻勢に転じた、アリサ王女率いるエル・アリアノーズ軍。リューへイやエイコウの助力もあって、王都にまで差し迫ることが出来た。しかし王都攻略の直前にあって、竜基に残る一つの不安。それはアリサがゲームと同じ、「すべてを失った傀儡女王」への道をたどっていないかどうかということだった。その一抹の恐怖を胸に、しかして竜基は進む。王都での最終決戦は、魔剣使いを三枚擁するこちらが王都を少数精鋭で急襲する電撃戦。黒き三爪(リューへイ・ケスティマ・ヴェルデ)に加えてライカ、ガイアス。そしてグリアッドとクサカの護衛を加え、アリサと竜基の二人は革命に決着をつけに挑む。



 こちらですね、というケスティマの案内に従い、地下へ潜入する扉をくぐった一同。指揮系統を委譲し、王城との戦いとの同時進行で内部制圧に向かう。魔剣使いが三人も居るからこそ出来る力技だった。


 ケスティマを先頭にして、一行は地下道を進む。

 以前使っていた経路は破壊せざるを得ない状況であったと、彼は苦笑して言っていた。


「……エリザ、か」

「どうしたの?」


 ライカとクサカの護衛のもと進む、非戦闘員二人組。アリサと竜基の二人は、暗闇の中をゆっくり王都のほうへと向かっていた。


 ふと思いついたような竜基の物言いに、アリサは首を傾げる。


「いや、結局、頭が回る奴で、国を潰したいらしいことしか、分からなかったからさ」

「……ああ、エリザのことね」


 今回最大の敵ともいえるエリザに対し、竜基もアリサもあまり話題にあげてはこなかった。その理由はいくつもあるし、彼女単体の話をしなくともその傾向だけで戦いでは問題がなかった。


 だからこそ、結局根本には迫れていなかったように、竜基は思っていた。


「なあ、アリサ。結局エリザって、どういう奴なんだ?」


 その問いかけは、洞窟内に妙に響いた。


「……エリザ・ラ・フォリア・アッシア。アッシア王国第一王女にして、私の姉。ここまでは、良いわね?」


 滔々と語り出したアリサ。歩みは進めながらも、全員が彼女の声を聴いているようだった。リューヘイなど、黙考するように腕を組み瞳を閉じて、完全に聴く姿勢だ。


「ああ、そこまでは分かってる。問題はあのリッカルド王子や王妃との差……かなり強い目的意識があって動いているように見える点だ」

「……詳しいことは、私にも分からない。けれど彼女は昔から、あの愚王の娘とは思えないほど賢かった。わ、私はほら、お母様の子だから」

「いや、アリサの話はいいよ。分かってるって」

「ぅぅ……それで。エリザは何かをずっと考えているようだった。私が十歳の頃にはミモザ妃とも口をきかなくなっていたし……あの愚王が倒れたという話も、絶対あの人が絡んでいる気がする」

「なるほど……強かながら、彼女が国を破滅に導こうとする理由については?」

「……分からない。けど、一つだけ分かるとすれば、彼女は元から、"国"なんて眼中になかった、ということかしら」


 一国の姫としての自覚が足りなかったのか、それとも自覚した上で彼女は国を捨てたのか。


 いずれにしても、王侯貴族としての義務を放棄した考え方であることに違いはなかった。


「王族っていうのは、その暮らしの保障と、敬われるその立場と引き替えに民を導く義務がある。それを……彼女は怠った。いいえ、端から考えてなど居なかった」

「……その思考には、バックがついている、って話だったな」


 納得して、竜基が頷く。だが彼の発言にぴくりと眉を動かした者が一人。リューへイだった。


「なんだそれは」

「……彼女の取る戦術と、見合わない力の使い方。そこから分析した推測。あの歪な虚像の裏には、必ず傀儡師がいる。エリザのバックには、何者かの意志がはたらいているんじゃないかって」

「……」


 竜基の視線には、何が込められている訳でもなかった。しかしリューへイは目を閉じる。リューヘイ自身、その"バック"に思い当たる節があったからだった。


 いや、そうでなくてはわざわざ国を混乱に陥れるだけの"王族暗殺"などという依頼を受けはしない。


「別に責めてはないさ。……リューヘイさんがその依頼を受けていなけりゃ、ここまでスムーズに戦いを進めることは出来なかった。たとえあんたの依頼主が他国の首脳であろうと、気にはしない」


 その竜基の言葉に、ヴェルデは思わず竜基を振り向いた。なぜ、そんなことを知っている。そう言いたげな彼女に拳を降りおろすリューヘイ。


「あだぁ!?」

「……少しは無感情を貫けないのか」

「ヴェルデのせいで、カマかけが見事にはまりましたねー」


 先頭を行くケスティマは、ひょうひょうとした足取りで洞窟を進みながら言った。彼も彼で、結構肝が据わっている。ヴェルデはやっと状況を理解して頭を抱えた。自分が派手なリアクションをしたせいで、裏がとれてしまったのだと。


「うああああ! 兄ちゃんぅぅ……ウチは、ウチはアホな奴やあああああ!!」

「……あ~、別にヴェルデさんがリアクションしなくても、リューヘイさんが黙って目を閉じた時点でわかっていたことだから大丈夫」

「え? 兄ちゃんが?」


 リューヘイに抱きつくヴェルデが、竜基の声にはっとしたように顔をあげる。リューヘイもまた同様に、なぜそれだけでわかる、と言いたげな視線を向けていた。


「なんでそれだけで分かるん?」


 その視線が、竜基には痛かった。


「……さぁ、なんで……だろうね」


 そんなもの、過去を知っているからに決まっていた。十五年間共に過ごした相手の癖くらい、知っているのだから。


 だが、今の竜基に記憶に関して立てられる手だてはない。それが無性に、くやしかった。


 遠い目をした竜基に、ポンと置かれる手のひら。


「ハッハッハ、よく分からんがリューキ、しみったれた顔をするんじゃあねえよ! これから戦いが始まるってんだ、勝つ為にも、根性きばった顔しろや!」

「そんなこと言ったってな」


 そんな気分にはすぐにはなれない。そう反論しようとして彼を向けば、満面の笑みで両肩を叩くガイアス。


「……おまえさんに、いろいろあるのは分かってら。けどよ、がんばろうぜ。ここを生き延びなきゃぁ、何の解決にもなりゃしねーよ」

「……ガイアス、おまえ」

「ハッハッハ、なーんつってな!! ほれ軍師、根性・根性・根性!!」


 両手を腰に当て、胸を張って洞窟内で叫ぶガイアス。出口も近くなり、その大声に、ポーカーフェイスも忘れてあわてて振り向くケスティマと、そして。ちらりと、ガイアスは竜基をみた。


 仕方なさげに、竜基も嘆息して。


「根性! 根性! 根性ぉ!!」

「ハッハッハ! すっっっきりしただろう!!」

「……わるいな。ありがとう」

「気にすんな! ハッハッハ!」


 竜基が復唱したことに満足したか、のっしのっしと前へ進もうとする、ガイアス。

 ふと、竜基は思う。ここで全滅してしまったら意味がないのだと。


「……ガイアス」

「むっ!?」


 振り向く彼に、一言。


「お前も生き延びろよ」

「おう! あったりまえよ!!」


 楽しげに笑う、"竜基の記憶にはない魔剣使い"に、念を押すようにそう言った。




「皆さん、着きましたよ」


 しばらくして、洞窟の行き止まりにたどり着いた一行。見上げれば、どこか蓋らしきものがしてある天井。


「ここが、僕らのアジトの真下になってます。バレている様子はないので、とりあえず上りましょう」


 ケスティマが懐から、流れるような所作で投げナイフを壁に刺していく。踏み段のようになったそれに、ケスティマはひらりひらりと軽い身のこなしで上っていき、ゆっくりと蓋を開いた。光が差し込み、竜基は手で庇を作って目を細めた。


「……大丈夫です。敵の様子はなし。とりあえず縄ばしごをおろします」


 状況確認が終わったのか、ケスティマはするりと姿を消すと、すぐに縄ばしごが投げ込まれた。最初にリューヘイが軽くひっぱり、加減を確認してから登り始めた。続くように、ヴェルデやグリアッドも縄はしごに手をかける。


「んじゃ、先行くな、リューキ」

「おう」


 にへら、と笑ってライカも大斧を片手に、軽々と右手だけで登り始めた。背中に魔剣を背負ったガイアスとはまた違い、彼女の力はいったいどうなっているのかと疑問符さえ生まれる。


「じゃあ、私たちも行きましょう。……リューキ、先に行って」

「え?」

「ほ、ほら、わ、私スカートだから」

「む、なんじゃお嬢。一年前まではそんなことあまり気にしなかったから儂がわざわざ言っていたというのホグァ!?」

「……よけいなこと言わないの」


 頬を紅潮させたアリサに、何かを察した竜基は無言ではしごを上っていく。なんだか、ふれてはいけないような気がしていたからだった。


「っと」


 竜基が出た時には、アジトの中に既にほとんどのメンバーがそろっていた。後からクサカとアリサが出てきて、全員。テーブルや椅子が無造作に置かれたこの場所は、いつかファリンの治療に使われた部屋なのだと、竜基は知らない。


「……揃いましたね」


 勢ぞろいした面々をみて、ケスティマは小さくつぶやくとアリサに目を向けた。そのアイコンタクトに頷いて、彼女は口を開く。


「これより、王城急襲作戦を行います。必ずこの戦いで悪しき国を滅し、『豊かで優しい国』をきっと、作りましょう。みんなが居なかったら、こんなに早く実現させることなんてできなかったから。だから、頑張りましょう。あとちょっとだけ、力を貸して」


 小さく頭を下げたアリサが、顔をあげると。みんながみんな、様々な表情を浮かべていた。


「あとちょっと、なんて辛気くさいこと言うなよあーちゃん」


「そーじゃな、まだまだ隠居は出来ぬよ」


「リューキさえ取らなければあたしはいつまでも付き合ってやるよ」


「ウチらもウチらで誇りがある、やったるで!」


「そんなたいそうなものは抱えていませんが、僕も協力します」


「フン……」


「なにかっこつけてんだよチンピラワカメ。頑張ろうぜアリサ様!」


「……ずいぶんとまあ、個性豊かなメンバーが揃ったな。アリサ、俺たちが付いてる。絶対に成功させよう」


 周りをみれば、頼もしい面々が揃っていた。


 思わずアリサは笑みを深めて、頷く。


「みんな、ありがとう」


 す、と手をのばして、口を開いた。


「じゃあ、行きましょう! 国を変える為の戦いへ!」


 彼女の声に応じるように、声が上がり。


 ケスティマが状況把握の為に外に出て、あわてて戻ってきた。


「敵の二千は、王城内門に集結。おそらくは我々の姿が外の戦闘に無いことを把握し、急襲に備えている模様」

「……まあ、予測出来た範疇のことではあるな」


 仕方ないかとばかりに頷く竜基。どうしようかと顎に手を当てて悩もうとしたその時だった。


 二人の影が、竜基の前に。


「なぁに、ただの兵士が二千人だろぉ? 俺の根性にかかれば造作もない!」

「……なにも考える必要はない。粉砕する」


 拳を鳴らすガイアスと、腕を組むリューヘイ。



 味方であれば、これほど頼もしいコンビはない。


 竜基は、一つ頷くと、笑って言った。


「まあ、そうだよな。よし分かった」





 正面突破だ。 

次話更新は本日8/10(日)22:00です。少々お待ちください。

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