ep.63 最終決戦に向けて
ルー率いる王都軍を撃退し吸収したアリサ軍が、王都までに至る道程でぶつかる障害は無くなった。
竜基の元に、アリサの元に、次々と方々のアリアノーズ軍勝利の報が届いていく。
厭戦気分の高まった王都軍は、北方、南方でも敗北を喫し、逆に次々と規模を拡大させたアリサ軍が王都へと結集していった。
「北方戦線! 王都北砦を破り、規定位置へと到着いたしました!」
「よくやった、ハルト殿にもそう伝えてくれ」
「ハッ」
「南東戦線! 規定位置へと到着いたしました! こちら側に寝返った兵士も多数! 吸収して戦線へと加えております!」
「ご苦労だった、戦いに備えてくれ!」
「ハッ!」
続々とかかる伝令に、凶報はない。しかし油断はできなかった。
まだ戦いは終わっていないのだし、これからどんな手を仕掛けられるのかもわからない。
そして、もう彼らの前には今までさんざんに辛酸をなめさせられてきた王城だけしか残っていないのだから。
王都より離れて数里の位置に陣を敷いたアリアノーズ軍本隊は、今は他方面の情報を耳に入れつつ丁寧に部隊配置を確認していた。
竜基とアリサ、護衛のグリアッドに加え、クサカとシャルルを合わせた面々は幕舎に集って最終確認へと移っている。
「ルーを撃破した今、俺たちの前にあるのは大きな壁がただ一つ。これを乗り越えることで、アリサ王女の……そして我々の悲願が叶う」
竜基は、王都内部の地図を開きながら全員に向けて作戦立案を行っていた。この後必要になる人材と、攻城戦の妙を考えながら。
自然、竜基に視線が集まる。彼の主とて、信頼に満ちた瞳で見ているのだ。もう、負けるわけにはいかない。
周囲の注意を把握して、竜基は徐に口を開いた。
「そもそも通常、攻城戦を何の策略もなしに行うのは愚策です。大いなる犠牲の上に勝利をつかみとったとしても、なにも得られるものはありません。そもそも、消費少なく勝利することこそが我々にとっての真の勝利なのですから。勝ち得た先に国力を回復させることができなければ、意味がない」
「失礼。つまりそれは、何かの策を使うということでしょうか?」
シャルルが挙手して竜基の真意を問う。竜基の口上は確かに、少し要領を得ないものだった。
「然り。しかしながら、通常の策ではまかり通らないでしょう。偽撃転殺することも、方々に頑丈なこの王城相手では難しい」
「となれば、食料でしょうか?」
「兵糧攻めも一度は考えました。確かに敵に食料は乏しいでしょう。逆に、我々にはそれなりの蓄えがある。持久戦に持ち込むことができれば、いずれは勝利を掴むことができるかもしれません」
「では……」
「いえ。持久戦のネックは大きく分けて二つあります。一つは、先ほども言ったように我々とて大きな余裕があるわけではないこと。そして二つ目は、時間が必ずしも我々に利するというわけではないからです」
時間の経過が、勝利に繋がらない。そう取れる竜基の発言に疑問符が生まれる。
この会話の流れから、持久戦でなくてなにをするつもりなのだろうかと。
と、その時、幕の外から声。入りなさいというアリサの声に従って現れたのは、頼れる武官の面々だった。
「呼んでるっつーからきたけどよ、あたし何もわかんねーぞ?」
「はっはっは! 根性さえあれば何とでもなる!」
「……ちょ、ウチこいつらの相手すんのきついんやけど」
ライカ、ガイアスの魔剣組に加え、黒き三爪の一人ヴェルデ。彼らの登場に加えて、さらに次々と幕舎の中に人が集まってくる。
セイヴェルン卿に加え、その息子であるハルト。そして、エイコウ。
「ひっさしぶりだYO! 元気してた!?」
「ああ、おかげで助かったよエイコウ」
「はっは、照れるYO! でも、がんばるNE!」
アリサだけは訳知り顔だが、ほかのメンバーはこの人数が一同に期することなど考えてはいなかったようだ。
不思議そうな表情は、当然「呼んだ張本人」である竜基へと集まってくる。
そして。
「ちょ、先輩、押さないでください!」
「お前が遅い」
最後に現れた二人組。彼らを目にした数人の目の色が変わる。
「でやがったなチンピラワカメ!!」
「何だマッスルバカか。……竜基、状況を説明しろ」
「兄ちゃん! 戻ってきてたんやね!」
リューへイと、ケスティマ。久々の合流ともあって、ヴェルデが嬉々としてリューヘイに抱きついていた。
「リューヘイ殿、今までどこへ?」
「セイヴェ領陣営の露払いだな」
「YO! リューヘイ強くて助かったYO!」
エイコウ、リューヘイ、ケスティマの三人が、セイヴェ領ハルト陣営を支えていたのだから北は順調だったのだろう。彼らの雰囲気に、疲労は感じられなかった。
一応面識のあるものないものが顔をあわせ、一通り落ち着いた頃に。
竜基は一言、声を出す。
「ファリン」
「はい、リューキさま」
「うん、だんだん噛まなくなってきたな」
「ひゃ、ひゃいっ!」
「……もうちょっとか」
天幕の上から降ってきた黒装束の少女に全員の視線が集まる。
彼女は相変わらずテンパりながらも、竜基から目をはなさずに命令を待っていた。
「王都軍の状況は?」
「はい、兵力は各城門に丁寧に配置されております。ほか、王城本丸にも2000。加えて魔剣使いらしき影と、エリザが共に中央に」
「……ありがとう」
聞いたか? と。竜基は周囲を見渡して言った。
「これから始まるのは最終決戦だ。そこに、何の躊躇もいらない。……セイヴェルン卿、そして、ハルト殿」
「はっ」
「はい!」
北陣営の親子が、そろって声をあげる。
「シャルル殿を支え、連携を加えてすべての城門からの攻撃を開始してください。シャルル殿、総帥下での実地はお任せいたします」
「わかりました、アリサ殿の力になれるよう、奮闘いたします」
「待って、リューキ。どうするつもりなの?」
シャルルが頷き、竜基は言葉を進めようとしたが、それよりも先にアリサからストップがかかった。彼が先にアリサに伝えていたことと、今話していることは食い違う。
だが、竜基は苦虫をかみつぶしたような表情で、アリサに向き直った。
「アリサ王女。危険です。我々のしようとしている作戦には、やはり貴女をつれていくことはできません」
「リューキ殿? アリサ王女と、何か?」
シャルルの問いかけに、竜基は小さく頷いた。
「ケスティマ殿の案内で王都地下道をすすみ、魔剣使い三人を含む少数精鋭での中央急襲、エリザの首を取る。これが、俺の描いた道筋です」
「中央急襲!? ……そうか、魔剣使い三枚を運用するのであれば、通常の攻城戦を行うよりも遥かにそちらの方が早い」
「そういうことです。もし万が一エリザが他国と連絡をとっていた場合……いえ、その可能性はむしろ高いのですが、それが行われた場合に我々に体力が残っていなければなりません。建国したばかりの国を奪われるわけにはいかないんです。そう考えると、持久戦なんか出来やしない」
「持久戦よりハイリスクでも、やらねばならない、ということですか」
「はい」
先ほど持久戦を却下した理由が明らかになり、納得の色を浮かべる一同。だがその中にあってたった一人、アリサだけが首を振る。
「だめよ、私もつれていきなさい。足手まといにはならないわ。これだけは……これだけは私の目の届く場所で、決着をつけなければならないって私言ったはず。リューキ、命令を聞きなさい」
「……しかし」
アリサ王女の身を考えれば、彼女をつれていくことなど出来やしない。それでも彼女がこんな風に意地になってまでいるところを見ると……難しい。
「……いえ、確かに一度決めたことですし、わかりました、つれていきましょう。勝手なことをして申し訳ありませんでした」
「リューキ殿!?」
「わかれば、いいのよ」
諦めたように竜基が賛同したことに対して、周囲から非難の声が飛ぶ。それはそうだろう、掲げるべき主が自ら危険な場所に飛び込むなど、ふつうは容認できることではないのだから。
しかし竜基は、アリサの思いを知っていた。
だから、無碍に断ることはできなかったのだ。先ほどしれっとはずしたのが、最後の抵抗だったといえる。
「しかし、王女。条件があります」
「なに?」
「クサカを護衛に。貴女に何かがあっては軍が崩壊します。それだけは、絶対に」
「うむ、儂が命をかけてお守りしよう!」
「……わかったわ。けど、クサカも死なせないから」
少しばかり不満そうに、しかししっかりと頷いたアリサ。
「じゃあま、僕の先導で地下道から王都急襲……いや、王都奪還作戦かな?」
「頼みますよ、ケスティマ殿」
「ええ、もちろんです」
周囲の面々を見つめる。
王都奪還作戦、突入組の面々は
ライカ、ガイアス、リューヘイ、クサカ、ヴェルデ、リューキ、ケスティマ、グリアッド、アリサ。
「さあ、行きましょう。豊かで優しい国を作るために」
「本当に、くれぐれも前にでないようにしてください」
「分かってるわよ……あと、もう口調なおして」
「……戦いが始まるんだがなあ」
強気な主従が幕舎をでる。その後を、次々に続く戦士たち。
総力戦が、強者のぶつかり合いが、エル・アリアノーズ戦記最終決戦が、始まろうとしていた。




