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華甲二年の再会  作者: 有嶺 哲史
第一章 春、夏、秋
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第4話 オジキの妻の過去

 オジキの妻は若い頃、比良野や有嶺と同じIT会社の同じ事務室で働く普通のOLだった。

その容姿はとても普通ではなかった。

清楚な天女のごとき美しさの中に、極めて大きな眼が深い印象をもたらし、鼻も素晴らしく高い西洋婦人的なメリハリがあった。

有嶺が見た、生きた女性では生涯最高の容姿に違いなかった。

有嶺が入社したばかりだった頃職場の先輩たちに馴染めず苦しみ迷っていたが彼女の姿見たさに出勤を続け、結果的に入社時の精神的危機を乗り切った。

ところがその異常な美しさはひょんなことから人間関係に不慣れな有嶺に、社内のほぼ全ての若い男達が関わる異様な災いをもたらした。

その災いとの関係は不明だが間もなく彼女は退職してしまった。

退職理由もその後の道も誰も知らなかった。

比良野は後で思い当たるフシがあったと言い、有嶺に自責の念を打ち明けたが、たぶん男の甘さだろう。

当時の彼女の本当のことは何もわからない。


 布沢が帰った後オジキは妻が比良野の写真を見て再び眼を潤ませて顔を赤くしているのに気が付いた。

手で比良野の写真を撫でている。

あややっ、今は何もないと言っていたのにやっぱりこいつ、まだ比良野に恋しているのか。

ポワンとしおって、多情なやつだ。

こいつにも監視を付けないとな。

嫉妬したのか老いたりとはいえ、こちらには油断しなかった。


「何十年経ってもまだその男が欲しいんか?」


「いえ、さっきまで仏間にいたでしょう? あそこにいるとポワンとなってしまうの」


「尼僧修行中にダーキニーをやって毎晩男の僧に……」


「知りませんよ!」


オジキと出会う前、妻はかつて地球のどこかの辺境で仏道修行をしたことがあった。

主流派の中では限界を感じ少し怪しい分派に移った。

その流派に伝わる何かの術をモノにしたのが彼女の〝秘術〟らしい。


 オジキとの結婚初夜のとき、男らしくやさしくいたわるオジキに出会えて妻は涙を流して喜んだ。

ところが異常に美しかったオジキの妻の体は誰もが欲しがった。

彼女の魔力で男は何でも言うことを聞くようになってしまう、などと裏で流れている噂が想像を刺激した。

オジキは妻の美貌も肉体も最大限に活用した。

ハニートラップや何かの報酬、契約取りなどのため妻の身を他人に任せることがよく有った。

そういう日の夜の妻に対する行為は仰天の連続だった。

そして昼間のジジイよりオジキの方が素晴らしいと彼女に言わせるのだった。

しかしこの数年はそういうことが無くて妻はホッとしていた。

その間オジキとも没交渉だったので彼は閉経と聞いて驚いたのだ。


 その夜、八十を超えたばかりのオジキはいささか無謀にも妻と性行為をしようと思った。

数年間が空いた上、夕方の些細な一件による嫉妬の炎も加わり、さらに体の衰えを隠そうとしたため、かつてない異常さで盛り上がった。

オジキの男根は以前と違って全く不甲斐なく、何か工夫をしなければならないとオジキは思った。

身は老いてもそれにふさわしく性欲も衰えないのがどうしようもない煩悩だった。

場所は何やら怪しい設備があって常識を超えた行為をするための部屋だった。

 最初は時代劇のように、妻は白い浴衣姿で布団の上で正座して待っていて、オジキが来ると平伏した。

それを軽く蹴とばすというこの夫婦の一風変わった儀式を終え、ここから先は世間一般の老夫婦とはいささか趣を異にしていた。

長年いろんなことをやっている間に妻の心も体も異常プレイに適応し、快楽器官はよく発達し拡張するようになっていた。

還暦というが妻の若さも異常で、まだ女盛りのようなハリとツヤがあった。

 妻の体にいつものことをやりはじめた。

オジキは指力も握力も強かった。

毎朝の木刀振りの成果だ。

妻はねじられた最初だけ思いっきり顔を顰めた。

そのまますぐ夢見る女子高生の表情になった。

妻の性欲が漲り下半身も若返り潤った。

オジキの手が拳を作り妻の背中を這い下り、だんだん例の場所に迫ってくる。


「えっ! またそれなの?」


オジキは終始無言だった。

しばらくして妻の絶叫が聞こえた。


「ぎゃああぁ~っ!」


一時間後、事が終わってオジキは部屋から出て行った。

一見、愛の航跡はまるで暴行陵虐(ぼうこうりょうぎゃく)の跡だった。

不浄なものが飛び散った中に雪のごとく白く、線虫のように丸まった体は細かく震えていた。

やがてむっくり起き上がり全身を洗浄し消毒し、悲鳴を上げつつ薬を塗った。

自室に戻り布団に入って寝ようとしたが、おそろしいオジキの目が浮かんで消えずなかなか寝られなかった。

またやったら内臓が破裂して殺される。

もういやだ、今度こそ本当に逃げよう。

ところがオジキの方は、妻は被虐の悦楽に痺れ喜んでいる、逃げるはずがない、と思いタカをくくってぐっすり寝ていた。


 その頃布沢は思いもよらぬことを頼まれて泣きじゃくる愛人の若いおっぱいナースを説得しようとしていた。

当然おっぱいナースは嫌がった。

抵抗が思いのほか強かったので布沢は出まかせでバラ色の約束を繰り出した。

妻とも別れるからいずれはお前が院長婦人になるのだなどと、婿養子の布沢にはありえないことを約束した。

長い説得のあと結局女は折れた。

そのまま愛の行為に入り、こちらもいつまで続くかと思うほど長く激しく責めあった。

夢中になった二人は避妊具を着けることを忘れていた。

途中で気付いた女はどこまでも高まってゆく快感とともに心の中で何かを計算し、にんまり笑った。

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