表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
華甲二年の再会  作者: 有嶺 哲史
第二章 秋から冬
17/36

第17話 弓美子の秘術

 ふらつく比良野がついに意識を失い倒れこんだのが隣室の有嶺に見えた。

ここから患者の弓美子と医師の比良野の主客転倒した儀式になった。

淫靡(いんび)な秘術が大きな総合病院のれっきとした内視鏡検査室で始まった。

それまでの点滴は何だったのか、弓美子はむっくり起き上がった。

弓美子の奇怪な秘儀が始まると楚々としていた美女は異国のどぎつい巫女のように変わっていった。

有嶺の耳に経典を読むような呪術的だが格調ある声が聞こえた。


▽▽ ▽


この忌まわしき女を妻とせよ 寄る年波に緑なす黒髪は抜け落ち……

若き日々は遥か遠し 衰亡の行く先……

古き根を強固ならしめよ 先端を高く伸ばせ 中央を太しく拡げよ 女中を電撃もて襲え……

汝の幸運 魅力 勇士の香り そして乙女の輝き そを我に……

復活の青白き炎は 偉大なるブラフマンの輝きなり……


△△ △


比良野と弓美子の周囲を囲むように屏風が置かれた。

それらは唐天竺(からてんじく)本朝の絵柄だった。

唐の絵柄は裸美人(らびじん)集合図、天竺の絵柄は男女の菩薩の性交図、本朝風の絵柄は梅の花と鳥を愛でる平安貴族だった。

有嶺のモニターには囲われた内部がよく映っていた。

見ている有嶺達も普通のエロさの何倍もどぎつく感じた。

倒れた比良野の耳元で弓美子が何か唱えていた。

 なんかすごい、とんでもないことになってきた。

近代的病院の中で古代インドの呪文が聞こえている。

青白い炎が上がった。

匂いを嗅いだ有嶺まで妙な気分になり始めた。

さらに弓美子は異国語の呪文を唱え始めた。

そのまま比良野に寄り添い耳元で何か言いながら自らの着衣を古代インド神話的な僅かな装飾だけ残し、ほぼ裸になった。

下半身裸にされた比良野に密着した。

弓美子の体はなお若々しく魅力に溢れ引き締まっていた。

比良野はずっと寝ていた。

弓美子はずっと動きながらあえいでいた。

 見ていた隣室の有嶺たち二人もいつの間にか体をぴったり寄せ合っていた。

固唾を飲んでモニターを見ながら二人の体は弓美子の呪文につられて一緒にリズミカルに動いていた。

 比良野と弓美子は男女合体仏(ヤブユム)の姿になった。

若い頃密かに想いあっていた二人を知っている有嶺には一気に古い願望をかなえようとする女に見えた。

比良野は途中で何度か体がこわばり目を醒ましそうになったが、その度弓美子が気づいてなにかして再び彼の眠りは深くなった。


 そのあとどうなっていったか、有嶺と美矢子はモニターから目を離していて見ていなかった。

こちらの二人も次の様なことをしていたからだ。

弓美子の変貌に驚きふりかえって美矢子を見た時、肉食獣のように興奮した美矢子がハアハアしながら有嶺に向かってきた。

美矢子の口で有嶺の口は塞がれ、押し倒されてむさぼられた。

美矢子が大きなパンツを脱ごうとして脚にひっかかってもがいているので、有嶺がスルッと脱がし丸めて勢いよく遠方に投げ捨てた。

途端に獲物を発見した鷹のように喜悦する美矢子に飛び掛かられのしかかられた。

その重量で呼吸ができなくなった。

美矢子の胸の双丘に顔が包まれて息が出来なくなりながら、春に梅田の映画ビルの屋上で聞いた女達の会話を思い出した。

〝デブ女の餌食になるのはおれだった〟

恐怖の中で気を失った。

デブ女に惚れられたスパイヒーローの恐怖だった。


 有嶺が気づいた時、別室で待つ助手のおっぱいナースは背中をこちらに向けて紙をちぎっては投げちぎっては投げていて、いかにもつまらなさそうに一人椅子に座って待っていた。

その清楚なうなじは寂しげで哀れだった。

検査室の弓美子達の様子から刺激を受けていたナースは自分も我慢できなくなり着衣を下げて快感器官をいじり続けた。

眼を閉じて頬が赤くなって息がはずんでいる、これほどの美人が他人に見られているとも思わずこんな恥ずかしいことをやり始めている。

その迂闊さと素直さに有嶺は親しみを感じた。


弓美子の秘術にかかっている間、比良野は夢を見ていた:


▼ ▼ ▼


あたりは美しい春の野の夕方になった。

彼は平安朝の高位の若い貴族だった。

心も若返っていた。

遠くの木の上にとまっている鳥を見ていると彼の政敵に見えてきた。

狙って矢を放ったが命中しなかった。

そのとき俄かに五色(ごしき)の花びらが降り始めた。

少し離れた所に天女姿の若い弓美子が立っている。

声をかけると彼女はひとさし舞って応えた。

天女花が揺れて


羽衣は風に膨らみ花に和し

見渡せば春霞(はるがすみ)たなびく先は月の影

富士の高嶺のかすかになりて


彼女は泣きながら比良野に言った。


「どうしてあなたは私の想いに応えてくださらなかったの?」


比良野は昔、弓美子が泣きながら退職した時の申し訳なさを思い出した。


「あのときは本当に申し訳なかった。これからは君の言う通り何でもする」


「私の願いを聞いてくださる?」


「わかった」


「私のために、院長選挙の立候補を辞退してね」


「わかった」


ここにきて少し違和感があったが、違うことを言おうとしても出てくるのはこの言葉だけだった。


▲ ▲ ▲ 


比良野と弓美子の長い行為も終わるころナースによって屏風は片づけられ比良野の着衣も病院の壁掛け時計の針も含めて全て比良野が倒れる前の状態に戻された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ