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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮
動き出す気持ち

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未来は自分で切り拓くもの

 俺は男のすぐ近くに寄り、耳元で低く囁いた。

「じゃあ……話してもらおうか? お前が『今から何をするつもりだったのか』」


 男は息を吐き、そしてゆっくりと語りだした。


「……予約投稿だよ、麗奈ちゃんの。とっておきの写真をみんなに自慢したくて」

「自慢……?」

 思わず眉をしかめる。


「写真さ、チラッと見えたけど、まさか盗撮とかじゃないよな?」


「……っ!ち、違う! 麗奈ちゃんが撮って欲しそうにしてたんだっ!」


「は?」

(んなワケあるかっ!)

 また怒りが胸の奥で沸々と湧いてくる。情報が先とはいえ、震える左手を思わず押さえた。


「お、お前、今さっき、は?って言ったか?」

「言ってねぇし……! 失礼な奴だな!」

 咄嗟に誤魔化す。


「それより……その予約投稿ってさ、どうやって設定したんだ?」

「な、なんでそこまで言わなきゃいけないんだ!!」

 男が興奮したように声を荒げる。


「……別に言いたくなきゃ、言わなくていいけど?」

 冷めた声で俺は答えた。


 男の身体がビクッと震え、チッと舌打ちした後、ポツポツと話し出した。

「ス、スマホからやった。あ、兄貴のアカウントで……」


「兄貴のアカウント?」

 少し考えてから俺は尋ねた。


「そういうのって……本人がいなけりゃ無理なんじゃないのか?」


 男は一瞬黙ったが、声を絞り出すように続けた。

「ア、アカウントを奪ったんだ! ……兄貴は忘れっぽいからIDとパスワードをパソコンのメモに残してた、それを利用したんだよっ!」


(鍵といい、パスワードといい、兄弟揃って危機管理のないヤツらだな)

 呆れて、思わず顔をしかめた。


「で、クラウドってなんだ?」

「は?お前、クラウドも知らないのかよ?」

「い、いや、そうじゃなくて、うん、あれだ!試してんだよ。お前が説明出来んのかな?って」

(しくったか……?)


「……なんか、やっぱりおかしくないか?お前」


「お、おかしくなんかない!」

(まずいまずいっ!)


「その証拠に……」

 ポケットの中が微かに動き、俺は思わず口角を上げた。


「……見えるぞ? 近々お前は……、何かに噛まれる!」


「は?意味わからな……ウッ、ぎゃあぁぁぁ」

 ログチーが男の足に噛みつき、また俺のポケットに潜った。


「はぁ……はぁ……一体なんだったんだ?今の?」


「ほら、言ったとおりだったろ?」

(ログチーナイス!)


 男は暗闇の中で目を泳がせながら小さく頷き、そしてまたボソボソと話し始めた。


「……クラウドはネット上で写真とかを保管出来るやつだ。まあ……わかりやすくいえばバックアップみたいなもんだ」


 ポケットの中でログチーが小声で囁く。


「シルバー、それってつまり、中にある写真さえ消しちゃえばいいってことじゃない?」

 俺はそっとポケットを押さえる。


「お前なんか言ったか?」

「い、いや?何も?」

 

 焦りを見せないよう、冷静に俺は尋ねる。

「予約投稿の解除方法は?」

「そ、それは……SNSの『予約一覧』から削除すれば……」

「ふーん、じゃあさ、削除しようぜ?」

「は? なんでだよぉ?」

「俺には見える、その投稿をした時点でお前と麗奈の繋がりが消えるのが……」

「……っ!まさか……。で、でも……未来が見えるなら……そうなのか」

(動揺してる、あとひと押しか)


「まあ、やりたいなら止めねぇけど、俺はもう保証出来ないなぁ」


 暗闇の中で、男の目だけがギラついている。

 マジ気持ち悪ぃ……。


「わ、わかった、今から消す」

 目の前で男がスマホを操作し始めた。 

 ログイン画面から予約一覧画面へ。男が削除ボタンを押す手が震えている。


 俺はゆっくりと口角を上げる。

「ほら、押せよ。お前の未来変わるぞ?」


 チラッとこちらを見て、男が削除ボタンを押した。表示時刻は21時47分。ギリギリ間に合ったな……。  


「も、もういいだろ?そろそろ僕と麗奈ちゃんの未来を教えてくれ!」

「教えてやるよ。ただし全部終わってからだ! クラウドの中も消さないとな」


 男が息を荒くしながら視線をこちらに向ける。

「パソコンから兄貴のクラウドにアクセスする。でも、せっかくの麗奈ちゃんの写真を消す必要があるのか?」

「……消したくないのか?」

「あ、当たり前だろぉ?」

「ふーん、じゃあ本物の麗奈じゃなく、写真でいいんだな?」


「……っ!け、消す!全て消すから!」

「じゃあ、早くやれよ」


 男がパソコンからログインし、クラウド内の共有フォルダを確認している。

 俺は画面に出ているクラウド内のフォルダを見た。

 『ルナ♡』

(キッモ……)


 男の手が止まる。

「どうした?手が止まってんぞ?」

「お前……、やっぱり未来予報士じゃないだろぉ?」

「いやいや、そうだって言ってんじゃん?まだ信じられないのか?」


「お前のその格好……」

「格好?」

「パソコンの光に照らされたお前の格好は、どう見ても未来予報士じゃないじゃないかー!」

 男が俺にさらにスマホの光を当てる。


「じゃあ、何に見えるんだよ? なあ?」

 不敵に笑いながら俺は、男に顔を近づける。


 男は後退りながら、俺を指差し叫んだ。

「……どう見てもお前は、怪盗じゃないかぁ」


 俺は口角を上げてニヤリと笑う。

「バレたか……、でももう手遅れだな、必要な情報は全ていただいた!ログチー!パソコンを頼む!」

「そうこなくっちゃ!」

 ログチーがポケットから飛び出す。


「わぁぁぁっ!ネ、ネズミ!?」

 男が怯む。俺はチェーンを使って男を縛る。

「な、何をするんだぁ? 離せぇー」


 ログチーがパソコンへ駆け寄り、『ルナ♡』と書かれたフォルダにカーソルを合わせる。


 男の叫びを無視し、ログチーに目配せする。

「や、やめろー!!」

 

 ログチーは、フォルダ内のデータを全選択し、削除ボタンを押した。

「いけたか? ログチー?」


「まだもうちょい!」

 ログチーは、ゴミ箱フォルダを開く。


「やめろー!!」

 男がさらに叫んだが、ログチーはゴミ箱フォルダの中にあるファイルを選択し、迷わず削除ボタンを押した。


「コンプー!」とログチーはニヤッと笑いながら俺に向かって駆けてくる。


 男が絶叫する。

「俺の……麗奈ちゃんとの未来がぁぁぁ!!」


 俺は振り返り、男を見た。


「未来は、自分で選ぶもんだ。相手を思いやれない奴に、思い通りの未来なんか……きてたまるか!」


 男を見下ろし、諭すように呟く。


「盗撮とか、アカウントを乗っ取るとかはやっちゃいけねぇことだ。悪いことってわかってるからお前はビビってたんだろ?」

 男は俯いたまま何も答えない。


「投稿はやめたんだし、まだやり直せる。これからどうするかで、未来なんていくらでも変えられるんだからさ」


 男が一瞬こちらを向いたが、そっと視線を逸らした。


 俺はベランダへ向かいながら、ログチーをポケットに押し込み、小声で言った。


「帰るぞ、ログチー」

「うん!」

 暗闇の中、俺たちは静かに部屋を後にした。

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