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銀の怪盗は真夜中に覚醒する  作者: 黒瀬 蓮


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上着の行方

その後は、散々な結果だった。


身体の痛みが思った以上に響く。

踏み込むたびに、腰が鈍く痛む。


狙いが全く定まらない。


ガーター。


また、ガーター。


「うわ、またかよ!」


笑い声が上がる。


(……クソッ)


痛む身体を我慢しながら、投げようとしたが、

変に力みすぎて、ボールが指からすっぽ抜ける。


ゴンッ


落ちたボールが、足に直撃した。


「っ……!」


声にならない声。


そのまましゃがみ込みたくなるのを、

無理やり堪えた。


「紫音、最初だけまぐれかよ!」


佐藤ノブが腹を抱えて笑う。


「紫音、今回は俺の勝ちだなー」


大地も調子に乗ってくる。


「オイオイ、あんまり煽んなよ……」


山田ナオが苦笑いで止めに入るが、

場の空気は完全にいじりモードだった。


ふと、視線を感じる。


女子達の視線。


同情と、ちょっとした苦笑い。


(……最悪だ)


「……ちょっと、水買ってくる」


それだけ言って、席を外した。

(マジ帰りたい……)


腰を押さえながら、ゆっくり歩く。


みんなから遠ざかった時、腕時計から

ログチーが話しかけてくる。


「シルバー、散々だね」


クスクスと小さく笑う。


「……うるせぇ」


「せっかく女の子見てるのに、全然決まらないねー」


「……んなもん、どうでもいい……」


(……俺はさっさと帰って寝たいんだよ)


ログチーにイラつきながら、時計に向かって

文句を言おうとした瞬間、


ドンッ


「きゃっ……」


誰かとぶつかった衝撃。


咄嗟に前を見ると

同い年ぐらいの女の子が転んでいた。


「……っ!」


手に持っていた飲み物が、服にこぼれている。


「……ご、ごめん!」


反射的に手を差し出す。


「……私こそ、ごめんなさいっ」


慌てて起き上がろうとした瞬間

彼女の濡れた服が、肌に張り付いた


「……っ!?」


思わず視線を逸らす。

(目のやり場がない……)


「……あのさ……服が、その……」


上手く伝えられず、指でそっと示す。


彼女が自分の服を見て、一瞬、固まる。


「……っ」


顔が一気に赤くなる。


慌てて手で胸元を隠した。


「……見ちゃった?」


「……ちょっとだけ……いや、見てねぇ!」


両手を左右に振る。


彼女の顔がさらに赤くなる。


「……ほら」


上着を脱いで、そっと差し出す。


「……えっ?」


「……着ろよ」


ぶっきらぼうに言う。


「ちょっと匂うかもだけど」


「……あ、ありがと」


恥ずかしそうに受け取る。


「……じゃあな」


気恥ずかしくなり、その場を去ろうとする。


「……あの、私、そら!蒼乃空あおのそら


「洗濯して返すから、名前と連絡先教えて!」


空が呼び止める。


「……いや、別に返さなくていいし……」


背中を向けたまま、軽く手を振る。


「えっ、でも……」


後ろを振り返り、小さく呟く。


「……てか、よそ見してた俺のせいだしな……」


「だから気にしなくていいから……」


「……それでも!」


空は立ち上がって、俺に向かって言った。


「……助けてもらったから」


真っ直ぐ見つめてくる。

逃げ場がない。


「……うっ」


頭をかく。


(こういうの、弱ぇんだよな……)


「……じゃあさ」


「え?」


「……もしまた会えたら、その時に返してくれよ」


視線を逸らしながら言う。


空が、少しだけ驚いた顔をする。


それから、


ふわっと、嬉しそうに笑った。


「……うん!」


その笑顔が何だか眩しくて、不覚にも俺は

ちょっとドキッとしてしまった。


…………


大地達の元に戻る。


「遅かったな、紫音。どこまで行ってたんだよ」


大地が言う。


「恥ずかしすぎて、隠れてたのか?」


佐藤ノブがからかう。


「黒川くん、上着どうしたの?」


柚希が尋ねる。


「……あ、えっと、汗かいたし、ついでに捨ててきた」

(女の子に渡したとか、絶対言えねー)


山田ナオが、呆れたように言う。


「外寒いのに、普通捨てるか?バカなの?」


坂中がクスッと笑う。


「黒川くんて見た目と違って意外だね」


「どういう意味だよ……」


立石が代わりに答える


「近づきがたい人だと思ってたけど、可愛いっ」


「……っ!」


「紫音くん、可愛い」


佐藤ノブがからかう。


小松も笑いながら、からかう。


「可愛い!」


「……もう、いいから」

口を手で隠しながら、呟く。

(ほんとマジ勘弁してくれ!)


みんなにイジられながら、俺は身体中の痛みに

耐えつつその場で苦笑いをしていた。



〜空 side〜


眠りにつく前、今日のことを思い出す。


少し顔が綻ぶ。


ハンガーに掛けられた上着を、そっと撫でる。


彼の温もりを感じた。


「……また、会えるかな」


小さく呟いて、目を閉じた。

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