対価の正体
「シルバー、血が出てるよー」
さっきまで怯えていたログチーが
ポケットの中から顔を出す。
「当たり前だっ!」
耳を手で抑える。
耳たぶがジンジンと痛む。
指先に生暖かい血が滲んだ。
クロノスは満足そうに、カウンターに
さっきのピアスと、アルコール液を置く。
ツンとした匂いが鼻を刺す。
「……つけねーから!」
「……つけろ」
低い声。
その場の空気が一瞬で張り詰める。
すごい迫力で睨んでいる。
「……睨んでも、嫌なものは嫌だ!」
顔を背ける。
「…………」
「なんなんだよっ!」
「……黙んな!怖ぇから!」
「……つけろ」
「……はぁ……」
「わかったよ!つけりゃあいいんだろ!」
渋々と箱からピアスを取り、左耳につける。
チクっとした痛みが走る。
クロノスが、そっと小さな紙を差し出す。
「ん?何だよこれ?……説明書……?」
クロノスを見つめて呟く。
「……ってかお前が口で説明しろよ」
クロノスを見ると、こちらをガン見している。
瞬き一つしない。
ものすごい圧だ。
「……っ」
渋々と小さな紙に目を通す。
えーっと、何なに?トルマリン石のピアス
普段は黒トルマリンで、黒く輝く。
能力発動時は青く輝き、以下のことが可能。
※ つけてる本人が触ると力が発動。
① アルカに行ける、帰れる
② 自身の分身を見せることが出来る
③ 相手の嘘を見破る。(集中度合いによる)
「……すげーじゃん!」
さっきまでの痛みが一瞬でどうでもよくなる。
ん?続きか?
手書きで何か書いてある……?
…………
アルカ、バイト募集中!!
「……は?」
クロノスは、また不敵に笑った。
「……てか、客いねぇのにバイト募集すんな!」
「そもそも店長が、威圧的すぎるんじゃね?」
「……そのエプロンも、何か返り血?みたいな
変な文字書いてるしさ」
「……店名だ」
「いやいや、読めねぇし……」
手を横に振る。
「……ちゃんと縫った!」
「いやそこじゃねぇよ!」
(てか、刺繍かよ……)
笑いをこらえながら、クロノスに聞く。
「……不本意だけど、ピアスありがと、な」
「……でも、交換出来るようなもん、
俺、持ってねーぞ?」
クロノスが、視線をログチーに向ける。
ログチーは首をブンブンと振る。
「……ポケット?」
黒いカードを出す。
「……これか?」
クロノスは頷く。
カードを手に取り、不気味に笑う。
(その笑み、ほんとやめろ)
「……な、なんだよ、気持ち悪ぃな」
思わず苦笑いになる。
クロノスがカードを返してくる。
「……たく、何なんだよ」
「……5ポイント」
(いや、なんのだよ……)
「……は?意味わかんねぇ」
手の中のカードを見る。
うっすらと星マークが、7つついている。
「……まさか、これって……」
「……この店のポイントカードかよ!!」
静かな店内に
俺の叫び声がこだまする。
力が抜けて、俺は膝から崩れ落ちた⸻
ログチーが、呆れたように言う。
「あの、カードに書かれてたやつって」
「ポイント取得方法だったんだね」
「……はぁ」
(もうどうでもいい……)
「ログチー、帰るか……」
「了解!シルバー!!」
ピアスをそっと手で触る。
触れた瞬間、微かに熱を帯びる。
視界がグラッと歪む。
床が揺れ、足元の感覚が抜けていく。
「……クロノス、サンキュ……」
「……また、来い」
クロノスが不敵に口元を緩ませる。
(その笑い方、やめた方がいいと思うぞ?)
足元から感覚がなくなる。
あの感覚……
目が覚めると
また、セントラルビルの屋上にいた。
冷たい風が、頬を撫でる。
慌ててスマホを見る。
11月9日(土) 09:56
「……戻ってきた!」
「…………戻ってきたぞ!ログチー!」
「アレ?」
「シルバー、ここにいるよ!腕時計!」
左腕を見る。
ホッと胸を撫で下ろす。
「……とりあえず、帰って寝るか!」
セントラルビルを出てすぐ、スマホが鳴る。
着信を見る。
大地からだ。
「……もしもし?」
眠そうに取る。
「お前、どこにいるんだよ!約束の時間
過ぎてんだけど?」
電話口から、大地が呆れたように言う。
「……約束、したっけ?」
「カウントワン、10時集合って言ったろ?」
「……あっ」
(やべーっすっかり忘れてた!)
「あっ!じゃねーよ!すぐ来いよ!
待ってるからな!」
電話が切れる。
「……はぁ」
思わずため息が漏れる。
疲れの抜けていない、ふらつく身体のまま
俺は約束のカウントワンに向かうのだった。




