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25 SIDE:とある少女3


SIDE:とある少女



 結局、私は帰るための儀式の広間に連れてこられた。

 最後の悪あがきでもするかもしれないと思ったのか、魔法使いの一人に固定の魔法をかけられ一歩も動くことが出来な状態での帰還の儀式。

 この時初めて、私以外にも召喚された人がいた事を知った。

 少し年上の男の子。彼は青いハンカチを大事そうに手に持ち、落ち着いていたのが印象的だった。

 あのハンカチは誰かからの贈り物だったのかもしれない。

 私にも王子様から貰った物が多くあったけど、持っていくことはダメだと言われていたから屋敷に置いてきていた。

 そこで一つだけ身につけていた物を思い出し、胸元に手を添えた。

 ローブの上でも分かる小さくて固いもの。王子様から贈られたプレゼントの中の一つだった小さいスズランのブローチ。

 幸運の象徴を意味するものだから、身につけていれば良いことが起こるかもしれないね。といって王子様が一番最初にプレゼントしてくれた物。

 可愛いし、いつどんな時にも身につけれらるものだったから、プレゼントされてからずっと身につけていたので外すのを忘れていたみたいだった。

 本当は全部置いて行かなくちゃいけないのは分かってる。

 でも男の子も持っているんだから、私も持っていてもいいよね。そう自分に言い聞かせる。

 だって本当に好きだった。初めて私を私として必要としてくれた人だった。

 寂しい時に抱きしめて慰めてくれた。暗い顔をしていたのに気づいて、不器用ながらも笑わせようとしてくれた。

 あの人との思い出が記憶の中だけなんてイヤだ。この小さな宝物だけなんてイヤだ。


 ああ、やっぱり帰りたくない!


 気がつけば「帰りたくない」「王子様に会わせて」と泣いて懇願していた。

 急に叫びだした私に魔法使いたちがビックリしていた気がする。けれど私はそれに気づかずに叫び懇願する。

 でも私の願いは叶わず、私たちは眩しい光と共に元の世界へと帰って来た。

 元の世界に帰ってきて驚いたのは、時間が進んでいなかったことだった。

 あの世界で過ごした一年がなかったことになっていた。でも私は知っている。

 胸元を見下ろすと左胸にスズランのブローチがついていたから。でもそれだけ。

 それだけ、なんだ。

 薄暗い道にぽつんとひとり佇む。道行く人が私を見ては驚いてすれ違っていく。私は流れる涙を拭うこともなく、蹲って号泣した。



 号泣したあの日から五年。どんなに戻りたいと願っても叶わず二十歳になってしまった。

 今の私は高校受験の失敗を機に、家に引きこもっている。

 失恋といえない失恋が尾を引き、高校受験は失敗。そんな私に母親は愛想をつかし、自分妹の子――姪っ子に期待することとにしたらしい。

 小学校受験に合格した姪っ子の方が将来性があると、なにかにつけて妹夫婦の元に顔を出している。

 父親は相変わらず私に興味を示さず、ただ黙々と家と病院の往復をしている。人を救うことが生きがいのような人だけど、その優しさが家族に与えられたことはない。

 ただ先日、離婚するかもしれないと報告のようなことを呟いていた。

 姪っ子にかまう母親に愛想が尽きたのか、引きこもっている私などどうでもよくなったのか。どちらにせよ近いうちに離婚するだろう。

 その時私はどうすればいいのか。母親についていくなんて考えられないし、母親だって私などいらないだろう。

 父親だって今までいてもいなくてもいい関係だったのだから、一緒に暮らすなんて考えられない。

 それどころか、二人から二十歳なんだから一人暮らしでもしろと言われそうだ。

 でもこの五年間、ほぼ引きこもっていた身からすれば、いきなり社会に出て生活なんてできないと思う。

 それに私の最終学歴は中卒。仮に仕事をしようと頑張っても、限られた職業の中でしか仕事はないだろう。

 今この時なって、通信制の高校に行っていればよかったと後悔していた。 

 将来が怖い。先が見えない未来が怖い。一歩足を踏み出したら何かが崩れ落ちそうで、なにもかもが怖い。

 スズランのブローチを握り締め、私は今日も布団の中で震えている。

 ネットで見かけた『逢いたい人に逢えるお(まじな)い』を毎日ブローチにかけながら願う。


 あの人に逢わせてください。逢えるのならこの世界なんていらないから。

 どうか。どうか。



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