表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

#15 ムシ喰い

 図書館は静寂に包まれていた。


 窓から差し込む冬の日差しが、読書机の上を白く照らしている。クロは開いた本から顔を上げ、なんとなしに周囲を見回した。平日の昼間、利用者はまばらだ。老人が新聞を読んでおり、受験生らしき青年が参考書に向かっている。


 クロは再び本に目を落とした。


 ここ数日、クロは毎日のように図書館に足を運んでいた。道具屋で言われた例の言葉、『百鬼夜行(ひゃっきやこう)』について調べるためだ。

 あの老人は口が悪いが、付き合う客を選んでいる為、情報の精度はそれなりに高い、はずだ。


百鬼夜行。


 古い絵巻物(えまきもの)文献(ぶんけん)に登場する、妖怪たちの行列。夜な夜な街を練り歩き、災厄をもたらすという。だがそれは伝承の中の話で、実際に起きたという記録は曖昧だ。クロが読んだ本も、どれも似たような内容を繰り返しているだけで、具体的な記述に(とぼ)しい。



「図書館に置いてある資料はあらかた読んだが、どれも同じような内容で収穫なしか……」



 独り言を落とし、本を閉じた。机の上には既に読み終えた本が数冊積まれている。クロはそれらを棚に戻しながら、考えた。


(地下の保管室なら何かありそうだが、一般人は立ち入り禁止だし……)


 図書館の地下には、古い資料や希少な文献を保管する部屋がある。

 クロは腕を組んで、しばらく考え込み、そして携帯を取り出した。


♢♢♢♢♢


「で、うちを呼んだと」



 クロが電話した三十分後、図書館には玖壱(くいち)の姿があった。

 いつものキツネ面を着けており、黒いコートを羽織っている。



公安(こうあん)なら保管室にも入れるだろ?」


「せやけど、人をカギみたいに扱うんはどうなんよ」



 玖壱は呆れたような声で言ったが、拒否はしなかった。

 二人は図書館の奥へ向かい、職員に声をかけた。玖壱が公安の身分証を見せながら事情を説明すると、職員は少し驚いた顔をしたが、すぐに地下への鍵を渡してくれた。


 階段を降りると、空気がひんやりと冷たくなった。地下の保管室は薄暗く、天井の蛍光灯が低く(うな)っている。棚が壁一面に並び、古びた本や資料が整然と収められていた。埃の匂いと、古紙の匂いが混じっている。



「ほんで、探しとる資料っちゅうのは?」



 玖壱の問いかけにクロは棚を見回しながら答える。



「百鬼夜行に関する文献」


「百鬼夜行、ねえ」



 玖壱は少し考え込むような素振りを見せた。目元の表情は変わらないが、声のトーンが変わる。



「百鬼夜行いうんは、平安時代から語られとる現象。妖怪や怪異が群れをなして、夜の街を練り歩く。遭遇した人間は呪い殺されるか、神隠しに遭うとされとる。ただし、これが実際に起きたんか、それとも民衆の恐怖が生んだ伝承なんかは、未だにはっきりせえへん」


「記録はないのか」


「それっぽいのはあるにはあるけど、伝聞ばっかりで信憑性に欠ける。ただ……」



 玖壱は棚の前で立ち止まり、背表紙を眺めた。



「怪異の数が増えとる時期には、必ずと言っていいほど百鬼夜行の噂が流れ始める。それが本当に起きとるんかは別として、一説では怪異の活動が活発化しとる時期を指しとると考えられとる」



 玖壱は棚から一冊の古い本を取り出した。



「これも、百鬼夜行に関する室町時代の記録や。前に一度読んだことが…」



 本を開き、ページをめくる。だが、途中で玖壱の手が止まった。



「……あれ」


「何だ」


「文字が消えとる」



 クロは玖壱の手元を覗き込んだ。ページには確かに文章が書かれているが、ところどころ空白がある。擦れたり、上から塗りつぶされたりしているわけではない。まるで最初からなかったかのように、文字がないのだ。


 玖壱はページをめくり続けた。だが、どのページも同じだった。文章の途中で文字が欠落しており、意味が繋がらない。



「これ、前に読んだときはちゃんと書いてあったんやけど……」



 玖壱がページをじっと見つめ、紙の表面を指でなぞった。



「あ、これ『文字喰(もじく)(むし)』か」


「は?」



 玖壱はページの端を指差した。



「ほら、よう見てみ。紙の端っこに小さい穴が開いとる」



 クロが目を凝らすと、確かに針で突いたような微細な穴がいくつも空いていた。



「おい、殺虫剤撒いてねえのかよ」


「ホンマやな。か、うちらが連れてきたか。なんにせよ、職員に伝えとこか」


「念のため、ここ出たら俺たちも虫除けした方が良さそうだな」



 二人は保管室を出て、一階の職員に文字喰い蟲の存在を伝えた。職員は顔色を変え、すぐに館長に連絡をし、殺虫作業の準備を始めた。

 これ以上は駆除の邪魔になると思い、クロと玖壱はしかたなく図書館を後にした。


♢♢♢♢♢


 事務所に戻って来てから数時間後、クロは机の上に違和感を覚えた。


 朝、怪異について調べていた資料が広げたままになっている。だが、その文字が薄くなっていた。いや、薄くなっているというより、消え始めている。クロは資料を手に取り、ページを確認した。怪異の解説部分の文字が、ところどころ欠けている。



「くっそ、連れてきちまった。殺虫剤買ってこねえと……」



 クロは資料を閉じ、すぐにまた出かける支度を始めた。このままでは他の本にまで被害が広がる。玖壱(くいち)が教えてくれた専用の燻煙(くんえん)殺虫剤を買いに行かなければならない。


♢♢♢♢♢


 図書館は翌日も休館だった。

 外に張り紙が出ており、「殺虫作業のため、今週いっぱいは閉館とさせていただきます」と書かれていた。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼


怪   文字喰い蟲『墨啜(すみすすり)


 級  三級 異


特徴  文字 り本などの文字を べる虫の怪異で年中見ら る。

    ダニのよう 小さく目視する  大変なため、定期的 専用の

    燻煙殺 剤を焚く必要 ある

    紙魚の死後 姿と言わ  いる。



△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼

お久しぶりです。Wright/__です。


まずは更新が遅れてしまい申し訳ないです。

理由としましては、PCが壊れました。しばらくはスマホから投稿したいと思います。


また、仕事の都合などで月に1〜2話投稿になると思います。完結はさせたいと思っているので、いつ完結になるかは分かりませんが、気長に付き合ってくださると嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ