第二章:記録に残らない詩
第二章:記録に残らない詩
ペットボトル属のカラリは、今日もスキップしていた。
地面は、メモでできた紙。
クレヨン属の青が描いた“風景の道路”。
キャップを、ぽこんぽこん鳴らしながら、にこにこと光を反射している。
「今日はいい天気だ〜! あっ、でも天気ってなんだっけ?」
クレヨン属のルリモが言った。
「知らないけど、明るいって意味で合ってると思う!」
「うん、正解ぽて〜!」
声を出したのは、黒くなる寸前のぬいぐるみ属・ユビコ。
綻びがあるけど、まだ笑ってる。
階段下では、くるり回収団が活動を始めていた。
「緑がなかなか見つからないからさ〜、今日は“ぽてっぽい”やつを探そ!」
ペットボトル属の赤種・ピッカが、ぽて調査表を広げる。
「ぽてっぽいって何?」
「柔らかくて、音がかわいくて、思い出しそうになるやつ!」
「つまり……メロン味の電線とか?」
「それはもう、“ぽての匂い”だね!!」
各地では、“ぽて語に似た音”を発する物体を探すプロジェクトが始まっていた。
コンセント属のミセンが、6本の足でぽてぽての巣を模したモデルルーム(セント巣)を建設。
メモ属の薄い紙たちは、ぽて語を書く練習をはじめ、
洗濯ばさみ属の数匹が、ぽてぽて動く練習をしすぎて疲れて寝ていた。
「ねえ、ぬいぐるみのユビコちゃん、疲れてない?」
タカネが声をかけると、ぬいぐるみは小さくうなずいた。
「ぽて〜……ちょっとだけ、お昼寝ぽて〜……」
ぽてっと転がるその音が、今日一番、みんなを笑わせた。
--
その日、くるり回収団の数名が、階段の踊り場で“ぽて音が変”な場所を発見した。
ペットボトル属のカラリが転がるたびに、
「ぽて……」ではなく、「ぺて」という音が返ってくる。
「あれ? 音、ズレてない?」
「ねえここ、壁……メモじゃなくて、なんか固くない!?」
ルリモがぺりっと紙を剥がすと、そこには黒く塗られた箱があった。
「それ……もしかして“緑箱”じゃない?」
タカネの声に、みんなが黙る。
箱の中には、折れた脚のようなもの。
ぬめっとした色──
「これは……緑?」
「でも、見えないはず……」
「見えてるのに、誰にも“言葉にできない色”……」
ユビコが、そっと近づいてぽてっと頭を下げた。
そして、ぬいぐるみの綻びから、小さな糸が伸び──
折れたクレヨンの脚に巻きついた。
タカネが小さく言った。
「これは、“名前を失った緑”だ」
「でも、名前がないなら、今、つければいいじゃん!」
ぬいぐるみのユビコが、ぽてっと言う。
「ぽてグリーン……とか?」
「やだ、それかわいすぎ!」
「いや……でも、そうやって“名づけること”自体が希望なのかもね」
パストルが微笑んだ。
緑箱は、その後も都市の折れ曲がりや隙間からぽつぽつと見つかっていった。
隠されていたわけじゃない。
“誰にも信じられていなかっただけ”だった。
ラストの描写との対比で、
この章は“明るく陽気な感じ”に指定しました。