おかしい
なるほど、攻略対象なレォが強すぎるんですね、わかります。
皆のビビりように、先生が困ったように頭を掻いた。
「……あー、なるほど、うん、じゃあ、ちっちゃいキーア、入学試験、2位だったな」
「ちっちゃく、ない!! これからおっきくなるんです!」
両の拳をつきあげるキーアに、口を押さえた先生がぷるぷるしてる。笑うのをこらえてるんですね、ひどい!
ぷくりとふくれたキーアを、レォのおっきな手がなでなでしてくれる。
「キーアはきっと、おっきくなるよ」
ふわふわ微笑んでくれるレォがやさしいです!
「ああ、うん、おっきくなるだろうキーアはレォに次ぐ腕だ。将にふさわしい」
「何かの間違いじゃ?」
首をかしげるキーアに、入学試験でキーアを見たのだろう生徒たちが、ぷるぷる首を振ってる。
「青の組をレォ・レザイを将とし、白の組をキーア・キピアを将とする。後はくじ引き! 将を守って闘え!」
「……えぇえ……?」
それはあまりにも役不足なんじゃ……?
あんぐりするキーアの隣で、レォがしょんぼりしてる。
「……キーアと同じ組がよかった……」
「俺も、レォと一緒がよかったよう──!」
BLゲームをしてた時からずっと大すきだったレォさまと闘うだなんて、泣いちゃうよ。
悪役令息の伴侶(予定)だよ?
顔も名前も声もないモブだよ?
模擬戦とはいえ、ポジションがおかしい。
「……一緒の組だと、いちゃついて終わるだろう」
先生の目が、遠くなってる。
「先生、もしかして将は何にもしないんですか。立ってるだけ?」
ため息をつきそうなレォに、先生が楽し気に凛々しい眉をあげる。
「いや、打って出ていいぞ。将が討たれたら、どんなに他が残っていようと、その組は敗北だ」
「……あぅあ……レォと闘うなんて、無理すぎる……」
しょんぼりしちゃうよ。
皆の気もちがわかったよ。
レォは、小首をかしげた。
青磁の髪が、さらさら揺れる。
「いや、俺よりキーアのほうが強いと思うけど」
「………………は……!?」
顎が落ちるかと思った!
「キーアは暗殺系だと聞いている。いきなりレォを攻撃していいぞ」
先生が、にやにやしてる。
「いつも、いちゃいちゃしてたんじゃ、つまらんだろう。たまには殺しあわないとな」
どんな脳筋の理屈ですか──!
「ほら、皆、くじ引きだ! 並んで引くように!」
「青、青、青! 青が出ますように!」
「ぎゃあ! 白だ! 終わった!」
「やったー! 青だ! レォさまといっしょ!」
「……白だ……明日はない……」
後ろの悲鳴が、さみしいです。
「よし、では闘技場の半分を区切り、青組、白組、それぞれの陣地とし、四半刻の間、作戦会議とする。布陣を考え、作戦を考え、即座に動けるように準備するように」
白組の陣地のほうに歩くキーアの後ろからついてくる生徒たちの顔が、悲壮だ。
「……はー……終了した……」
「明日がない……」
「遺書、書いておく?」
しぼうフラグを自分で立ててる!
「負けるって思ってたら、絶対に負けちゃうよ!」
キーアの声に、どよんとした皆が首を振る。
「……だって、あのレォ・レザイさまだぜ?」
「入学試験、見ただろ?」
「現役の騎士の鎧まで粉砕したんだせ?」
「しかもあれ、1割くらいの力なんじゃね?」
「無理だろぉおお──!」
泣いてる。
「わかった。じゃあ、レォひとりを討ちとるための作戦を立てよう」
キーアの言葉に、集まっていた白組の皆が、ぽかんと口を開けた。
「…………は?」
「模擬戦がはじまった直後に、レォを討つ。長々と恐怖にふるえるより、一瞬で終わったほうがいいだろ?」
「…………は…………?」
「俺が出る。レォと闘う。
だから皆は、余波にだけ注意してればいい。目の前の敵の紐を奪うことだけを考えて」
残念ながら、今はちっちゃな胸を叩く。
「一瞬で終わるかもしれないけど、そのほうが気が楽だろ?
戦なんて、頭だけがやればいいんだ。たくさんの人が傷つく必要なんて、微塵もない」
あんぐりしていた皆が、顔を見あわせた。
「……レォさまと、闘ってくれるのか」
つぶやく声が、ふるえてる。
まるで魔王と戦いにゆく、無謀なEランク冒険者の死を恐れるように。
「皆がやりたくないことをやる、責任をとるのが、上に立つ者の役目だろ。
指名されちゃったからには、がんばるよ!」
ちっちゃな拳をかかげるキーアに、どよどよんだった生徒たちが、顔を見あわせた。
「……レォさまを止めてくれるなら、その間だけ、戦えばいい……?」
「キーアがレォさまに負けたら、それで試合は終了なんだよな?」
「一瞬だけ、死に物狂いで戦えばいいのか」
皆の目に、生気が戻ってゆく。
「レォさまと闘ってるキーアの後ろから仕掛けてくる敵がいるかもしれんな」
「そういうのを俺らが止めればいいんだろ」
「キーアは足が速いんだよな?」
「足の速いので突撃隊を組もうぜ。盾になれるのも、死に物狂いで走れ!」
元気がでてきた皆に、キーアは告げる。
「『絶対に負ける』思ってたら、戦いにさえならない。
『絶対に勝つ』思ってたら、勝てるかもしれない。
負けたら恥ずかしいとか、みっともないとか、笑われるとか、そんなの何にも考えなくていいんだ。
顔も知らない誰かのことなんて、微塵も気にしなくていい。
胸を張って『絶対勝つ!』言っていいんだ」
キーアはちっちゃな胸を張った。
「あのレォさまに勝つなんて、すごくね?」
皆が、顔を見あわせる。
「……れ、レォさまに……?」
「お、俺らが……!?」
「……か、勝つ……?」
不敵に、キーアは唇をつりあげた。
「絶対、勝つ!」
「お、おぉ──!」
「や、やってやる!」
「キーアを守って、闘うぞ!」
皆の闘志が、噴きあがる。
「よーし、そろそろ団体戦をはじめるぞー!」
先生の声に、それぞれの能力を確認し布陣を考えていた皆が顔をあげる。
「おお、もうはじまりか」
「お頭を突撃させて、何とか背中を守れるようにがんばるぜ!」
皆が胸を叩いてくれる。うれしい。
しかしなぜか、キーアの呼び名が『おかしら』になったよ。
おかしい。
ガチムチ騎士な先生が、手を挙げる。
「よし、青組の将レォ・レザイ、白組の将キーア・キピア、前に来て握手するように!」
「はーい!」
ちょこちょこ前に出たら、ひとつに束ねた長い青磁の髪をなびかせてやってきたレォが、眉をさげた。
「……キーアの組、いいなあ」
すねたみたいに呟くレォが、めちゃくちゃかわいいです!
「今度は一緒の組になれたらいいね」
ちょっと熱い頬で、ふわふわ笑う。
BLゲームをしてた時からずっと大すきなレォと闘うなんて、申しわけない気もちと、わくわくする気もちで、どきどきする。
「ほら、握手!」
先生にうながされて、レォの手をにぎる。
ぎゅ
ぎゅうう
握りかえしてくれる手が、ごつごつで、あったかい。
「正々堂々? がんばるから」
見あげたら、レォの瞳が澄みわたる。
「たのしみにしてる」
夏の空みたいに、笑ってくれる。




