泣いてる
「しっかり身体をほぐすんだぞー! 怪我をしないようにな!」
「はーい!」
先生の注意に、よい子のお返事をしたキーアの手を、レォが引いてくれた。
「キーア、柔軟しよう」
大切だよね!
ふたり一組で、柔軟だよ。
お背なを押したり、押してもらったりするんだよ。
攻略対象のレォと一緒に柔軟できるとか、間違いなく主人公ポジだけど、騎士科に主人公マェラがいないので、落ちてきた素晴らしいしあわせ──!
マェラ、ごめん! 至福の柔軟タイムを、ありがとう!
レォの広やかな背に、そっと指をすべらせる。
ほんのすこしの力で、レォの身体がしなやかに曲がってゆく。
「わー! レォ、やーらかい!」
「キーアも、すごい。まがるね」
やさしく押してくれるレォが、めちゃくちゃ近くて、隣でひとつに結ばれた青磁の髪が、さらさら揺れる。
「……レォ、めちゃくちゃいー香りする」
うっとりしちゃうよ!
「キーアも」
ふわふわ笑って、とろけるレォの香りに包まれながら、背中とか、足とか、のばしあいっこしてたら、周りがざわざわしてる。
「……なんだあれ、いちゃついてんのか?」
「柔軟だろ」
「いや、どう見ても、いちゃいちゃしてるだろう!」
「先生、授業中に、レォさまと、ちっちゃいのが、いちゃいちゃしてます!」
「レザイ家の、レォさまと──! きぃいイイイ──!」
生徒たちに抗議された先生がやってきた。
「あー、うん。柔軟は、そんなに密着しなくてよろしい。適度に動きを取りいれるように」
レォの凛々しい眉がつりあがる。
「先生、柔軟は、怪我の予防にとても大切です。みっちり、しっかり、行うべきです」
キーアも手を挙げました。
「急に運動すると、筋肉や腱がブチってすることがあるって、トマも言ってました!」
「……あぁ、うん、確かにそうなんだが、じっくりゆっくりのばす静的な柔軟は運動後のほうが効果的で、運動前には動的にかるく身体をほぐすほうがいい。さらに、そんなにほっぺたや、おでこをくっつけたり、身体をぺったりくっつけたりする必要はなくてだな……」
「ご、ごめんなさい! レォがあんまりいー匂いするから、つい近づいちゃって……!」
「キーアがかわいくて、ごめん」
ぎゅう。
抱っこしてくれました。
「先生! よりいちゃついてますぅう──!」
泣かれました。
「ああ、うん、抱っこはお家でするように」
先生の目が、遠くなってる。
柔軟が終わって、かるく走りこんだら、実戦です!
わくわくする!
屈伸するキーアの顔を、レォがのぞきこむ。
「気分はどう? 苦しくない?」
「元気! ありがとう、レォ。心配かけて、ごめんね」
ふるふる首を振るレォの、ひとつに束ねられた青磁の長い髪が揺れる。
「……キーアのこと、思ったり、心配するの……胸が、あったかくなって……たのしい」
ふわふわ紅いまなじりで、微笑んでくれる。
いつもクールなレォさまの微笑み、尊い──!
拝みました。
いつもです。
「ではこれより、実戦の手順を説明する。通常なら一対一の模擬戦を行う。期末考査などで勝ち抜き戦が行われたりするが、これは優秀な皆のための特別講義だ。よってより実戦に即した模擬戦、団体戦を行ってもらう」
「おぉ!」
拍手するキーアに、皆が生温かい目になってる。
やさしくしてくれて、ありがとう。
「くじで2班、青組と白組に分かれてもらう。わかりやすいように将は頭に紐を結び、他の者は腕に紐を結ぶこととする。誰を将にするかを決め、将を守って闘う。魔法攻撃は禁止、武術のみで戦い、負傷した者、紐を奪われた者は即時に脱落、より多くの者が残っている組を勝者とする!」
「わー! 楽しそう!」
ぱちぱち拍手しているのは、キーアだけなんですけど。
「……え、いや、レォさまのいない組とか、死亡じゃね?」
「……殺されるんじゃ……?」
「いやもう、殺された意識さえないんじゃ……?」
「圧勝するか、完敗するか、レォさま次第だろう!」
「模擬戦の意味、ある──!?」
皆、泣いてる。




