かしおり
「……えぇ……?」
突然の『ロデア大公立学園の魔法科の修了書をあげる』発言に、のけぞるキーアの隣で、ルゥイが青い顔になってる。
「……ちょっと待って。キーアにつりあうようになるためには、僕も異次元にならないと、だめってこと……?」
ひきつるルゥイの肩を、ハゥザ学園長が、ぽんぽんしてる。
「がんばれ、ルゥイ」
によによしてる!
「く──っ!」
ハゥザを、きっとにらんだルゥイが、キーアを抱きしめる。
「キーアのまね、してもいい?」
首を傾げるルゥイのはちみつの髪が、さらさら揺れた。
「?? もちろん!」
何が何だかわからないけれど、うなずいたキーアに微笑んだルゥイが、ほんのり赤くなった頬で腕を掲げる。
「光の精霊さま! 僕の魔力を差しあげます! どうか僕にも魔法を使わせてください……!」
「おぉ!」
キーアとおんなじ、お願い方式だよ!
拍手するキーアの前で、はずかしそうに朱くなっていたルゥイの若葉の瞳が、焦点を失くした。
そこにいるのに、いないみたいに、存在が遠くなる。
「え、ルゥイ、だいじょうぶ──!?」
あわてて駆け寄るキーアに
「危ない! だめだ、キーア!」
フィリの声が飛んだ。
「え……?」
びっくりしたキーアの指が、止まりきれずにルゥイにふれる。
その瞬間、まばゆい光につつまれた。
「わあ──!」
まっしろだ。
きらきらの光の世界に、はちみつの髪が、ふわふわ揺れる。
「ルゥイ! だいじょうぶ!?」
「キーア!?」
驚いたように振りかえるルゥイの向こうで、きらきらの光が揺れていた。
「……あぅ……もしかしなくても、光の精霊さまとの邂逅を、お邪魔しちゃいましたか……ご、ごめんなさい!」
あわあわ頭をさげるキーアに、声が降る。
『……だれ?』
春の陽射しのようにあたたかな、盛夏の真昼のように焼けつく光の音だった。
「は、はじめまして、光の精霊さま! キーア・キピアと申します。愛称は、きーちゃんです!」
丁寧に頭を下げた。
厳しい光が、キーアを照らす。
『どうして、来た? きみは、闇』
「あ、あの、ルゥイの様子がおかしくなったみたいで、心配で、ごめんなさい! すぐお暇しますから!」
あわあわ頭をさげるキーアに、光が揺れる。
『俺のゆるしがないと、出られない。……勝手に入ってくるはず、ないのだが──』
茫然とキーアと光を見つめていたルゥイが、瞬いた。
「……もしかして……キーアは、精霊さまと、話して、る……?」
きょとんとしたキーアは、首を傾げる。
「ルゥイは、声、聞こえない?」
凛々しい眉をひそめたルゥイは、耳を澄ますように目を閉じる。
「……何か、音がする気がする、けど……意味はわからない」
キーアは微かに息をのむ。
……もしかすると、前世の記憶があるから?
この世界じゃない、他の世界で生きた記憶があるから。他の世界、異界の言語を理解する能力があるから、精霊さんの言葉もちょこっと理解できる……?
あわあわするキーアに降るのは、いかめしい光だ。
『非常な失礼をしたことは、理解しているのか?』
きらきらの光の精霊さまが、おこです。ごめんなさい──!
「も、勿論です! 大変な失礼を、誠に、誠に申し訳ございませんでした……!」
地につくほど頭をさげた。
『謝罪というのは、言葉だけじゃなく、品物でも示すものだよな?』
「菓子折りですね、もちろんです! 公都で有名なお菓子屋さんで、よいお菓子を──」
ちかりと、光が瞬いた。
『……どーなつ、がいー』
「…………え……?」
ふいと、光の精霊さまが、横を向いた気がした。
『俺だけ除け者だなんて、気に喰わないって言ってるんだよ!』
「は、はははははい! も、勿論です! あ、あのあの、もしよかったら、トマが、とびきりおいしーどーなつを揚げてくれて、ヨニが、とびきりおいしーお茶を淹れてくれるので、キピア家に遊びにいらっしゃいませんか?」
キュアァアァアアア──!
光が、集束する。
さらさら光の髪が流れる。
切れ長の光の瞳が、キーアを見あげた。
ちっちゃな3等身なのに凛々しい、でもやっぱりめちゃくちゃ可愛い、光の精霊さまだ──!
拝んだ。
勿論です。
『……そ、そんなに頼む、なら、行ってやらなく、も、ない』
ぷいと横を向く光さまの尖った耳が、ほわほわ赤い。
「か──わ──い──!」
ぎゅむぎゅむしたい手をわきわきしながら、もだもだしてたら、光の瞳が見あげてくれる。
『……だ、だっこ、しても、よいのだぞ……!」
「わぁあ! ありがとうございます、光さま──!」
ぎゅむぎゅむしました。
ほんのりあったかくて、ちっちゃくて、ふわふわしてて、かわいー!
きゃ──!
もだもだするキーアの隣で、ルゥイの目が遠くなってる。




