しゅうりょう?
「とびきりおいしーどーなつを、トマに揚げてもらいますね!
ヨニに、とびきりおいしーお茶を淹れてもらいます!」
にこにこ胸を叩くキーアに、色とりどりのちっちゃい精霊さんたちが、さわさわした。
『い、行ってあげても、いーけど?』
ぷいっと横を向く水の髪が、さらさら揺れる。
『……俺も』
ぽそりとつぶやく地さまのまなじりが、ほんのり赤い。
『僕も!』
ぱちぱち、ちいさな火花が楽しそうに炎さまの周りで弾けてる。
水さまも、地さまも、炎さまも、来てくれるみたいです!
「ありがとうございます! トマとヨニと一緒に、とびきりのどーなつとお茶を用意して、お待ちしていますね!」
笑うキーアの背中に、ぴとりとくっついた闇さまが、赤い頬でささやいた。
『……きー……あり、がと……』
ぎゃ──!
か──わ──い──い──!
もだもだしたキーアは、勿論拝んだ。
素早く立ち直って、笑う。
「いっしょに、お話してみるの、がんばってみましょうね」
『うん!』
きゅう
抱っこしてくれる闇さまが、めちゃくちゃ、かわいーです!
キーアの視界が、明るくなる。
世界のざわめきが、耳に降る。
「キーア!」
ルゥイの声がして、顔をあげたキーアに、心配そうにはちみつの髪が揺れる。
「だいじょうぶ? 何も聞こえてないみたいだったけど、体調がわるい?」
「…………あ、え、と……」
……白昼夢、だった……?
ぽかんとするキーアの向こうで、ハゥザ学園長とフィリ先生が笑う。
「逢えたみたいだね」
「化け物仲間に、ようこそ」
「…………え……?」
首を傾げるキーアに、フィリ先生は微笑んだ。
「魔法を使ってごらん」
「……え、あの、でも……闇の上級魔法の魔法陣は、難しすぎて描けない、です……予習をちゃんとしていなくて、ごめんなさい!」
涙目なキーアに、フィリは喉を鳴らした。
「言わなきゃ、わからないのに」
「あぅう……で、でも、せっかくの特別講義で、講師の方や大魔法使いのフィリさまが教えてくださるのに、ごめんなさい」
予習が必要だという気持ちが抜けていました。
予習なんて紀太は学校に通ってるときに、したことがなかった。勿論復習も。試験は一夜漬けで切り抜けられなかったものに、哀しい赤が輝いた。
授業を聞きながら教科書を読んで理解するのが、学校だと思っていたよ。
ごめんなさい!
しおしおしょげるキーアの頭を、フィリのちいさな手がぽふぽふしてくれる。
「闇の精霊さんに、お逢いできた?」
「は、はい! ……あの、でも、もしかして、白昼夢……?」
都合のいい夢を見ちゃったのかな?
首を傾げるキーアに、フィリが微笑む。
「闇の精霊さんに、お願いしてごらん。魔法を使いたいって」
こくりと、うなずいたキーアは、虚空を見あげる。
「あ、あの、闇さま、俺の魔力を差しあげるので、もしよかったら、魔法を使わせてください!」
魔法陣も、精霊語の詠唱も、何にもない。
だから、何にも起こらないはずなのに。
キーアの前に魔法陣が浮かびあがる。
きらきら輝くのは、闇だ。
『きー、なんの、まほう、つかいたい?』
やさしい、厳しい、冷たい、あたたかな声がする。
ぴょこんとキーアは跳びあがる。
「闇さま! え、えと、ちょっと暗くなる魔法、とか?」
さっきネィトが使ってたのの、ちっちゃい版みたいなのとか!
『わかった』
ギュァアァオォオオオ──!
闇が、開く。
くらりと、めまいがした。
身体の奥底から、すべての魔力が吸いあげられてゆく。
膨大なキーアの魔力を贄に、異界の扉が、開かれる。
「うぎゃあぁあァア──!」
「ま、魔界!?」
「待って待って待って、ほんとに世界の終わり!?」
「うぁあぁアァアア──!」
絶叫が轟いて、キーアはあんぐり口を開ける。
「ま、ままままま魔界!?」
『ちょっと、くらい』
いやいやいやいやいやいや!
「と、閉じてくださいぃい! 闇さま! それ、開いたらだめな、あれです──!」
ぷくりと闇さまが、ふくれるのが、見えた気がした。
『みな、やさしいよ?』
「ま、魔界の、しょ、瘴気が、人間には猛毒なので!」
『……そか』
「そなのです! 閉じてください、お願いしますぅう──!」
『……わかった』
しょんぼりしてる!
ごめんなさい!
「後で、もっと簡単でかわいい闇の魔法を教えてください!」
『うん!』
ふわふわ闇さまが笑ってくれたのが、見えた気がした。
キュアァアァア──!
異界の扉が、閉じてゆく。
渦巻いて噴きあがろうとしていた瘴気が、消えてゆく。
絶叫をあげて逃げ惑っていた皆が、止まった。
大陸に名だたる大魔法使いフィリの頬が、引きつってる。
「……いきなり闇魔法の究極奥義とか、やめてくれる? きみに教えること、何もなくなったよ」
「ロデア大公立学園、魔法科の修了書をあげるから、二度と魔界の扉を開かないで──!」
講師の先生に泣かれました。
「……いやあ、魔法科の特別講義を、キーアが初日で修了しちゃうとは思わなかったなあ」
いつもきらっきらで余裕な学園長ハゥザまで、引きつってる。




