でっかいわんこ?
「は、はじめてお目にかかります、ハゥザ学園長、ネィト・トリアーデです」
キーアの隣で、うやうやしくネィトが敬礼する。
ネィトもハゥザ殿下もあまり公の場に出ることがないから、初対面みたいだ。
……ハゥザ殿下を、すきになっちゃうかな?
悪役令息だもんな。ひと目惚れとかあるかも。
見守るキーアの傍で、ネィトはぽかんと口を開けてる。
「……すんごい顔面だね。彫刻を超えてない……?」
芸術を肉体で超える男、ハゥザ殿下。
「わあ ハゥザ学園長! 初めてお目にかかります、マェラ・マガーテです♡」
主人公の目が♡だ。
無条件で♡になっちゃう輝かしさだよね!
ハゥザ殿下は、♡の目を見慣れているらしい。
かるく手を挙げただけだった。
『……えぇ? 主人公、こんなに可愛いのに、無反応とか、ありなの……?』
叫びそうになって、あわあわ止まる。
『主人公』とか危険ワードだ!
でも、ハゥザ学園長は、たぶん『2』の攻略対象だよね?
あ、そうか、まだ『悪役令息と決闘だ! 2』がはじまる2年生じゃないから、親密度が上がらないのかも。
確か『悪役令息と決闘だ!』では学園長は出なかった、と思う。入学式のあいさつさえ、ルゥイとレォのスチルだけで、学園長あいさつはなかったよ。
だからハゥザ殿下との関わりは、あのわちゃわちゃの入学式だけだと思ってたのに!
ぽかんとするキーアの鼻を、ハゥザの彫刻を超える指が、ちょんちょんしてる。
「今日はキーアの特別講義の初日でしょう。どんな様子かなと思って、心配で見に来たんだよ。ついでに光魔法、教えてあげるよ。ぱぱっとやるんだよ」
ハゥザ殿下が指をひるがえすだけで、巨大な魔法陣が出現する。
キュアァアァアア──!
莫大なひかりに、広大な大公立学園全体が包まれた。
…………………………。
確かあれ、主人公が使える、最終奥義の浄化魔法じゃ……?
なんか見たことある、すんごい魔法陣だったよ?
BLゲームの最後に出る、感動の魔法を、ゲームが始まってすぐに披露とか、もうちょっと空気を読んで?
主人公の存在意義を、さらっと全否定してきたよね、今?
魔法陣を描くことさえなく、詠唱さえなく、一瞬でやりやがりましたよ……?
皆があんぐりしてる。
何事かと校舎にいた人たちまで皆出てきて、茫然としてるよ!
「よどんだ学園が、ちょこっときれいになったでしょ」
ほめてと言いたげに胸を張るハゥザ殿下が、ラスボスすぎる。
「だから呼んでないんです。生まれながらに何でもできる人に、教えられるわけないじゃないですか」
いつもやさしいルゥイが、ちょこっと、おこだよ!
隣のハゥザ殿下まで、ちょこっと、おこみたいだよ?
「キーア、今、僕、すごい魔法を使ったんだけど」
ちょっと上目遣いで、可愛くにらまれました。
きらっきらしてるよ! こわいけど!
ぴょこんとキーアは跳びあがる。
「……あ、はい、すごかったです!」
ぱちぱち拍手した。
満足そうに、うなずいたハゥザ殿下が、首を傾げる。
「なでなでは?」
「…………え……?」
「なでなで」
えぇえ……?
すねたみたいに尖るくちびるの、攻撃力がすごすぎる──!
上目づかいでおねだりとか、芸術を超えるかんばせで繰りださないでください……!
しかも、要求が、なでなで……??
顔も名前も声もないモブな、悪役令息の伴侶(予定)ですよ?
主人公と、いちゃいちゃしないの……??
「……わ、わかり、ました……?」
ちょこんと屈んでくれたハゥザ殿下の、ちっちゃな頭をなでなでしました。
「えへへ♡」
ハゥザ殿下が、でっかいわんこみたいに可愛いよ!
ルゥイの目が、遠くなってる。
「あ、あの、ハゥザ殿下、素晴らしい魔法で、僕、感動しました♡」
きゅるきゅるマェラの♡攻撃に、ちょっと目をやったハゥザは
「うん」
だけでした。
えぇえぇぇ……!?




