ちょうどよいところに
よろこびに満ちあふれる生BLゲームな、ロデア大公立学園の日々が始まる──!
はずが、キーアには、不安しかない。
「……特別講義って、どんなの? ついていける気がしない……! 無理だよー!」
ちっちゃなキピア邸に戻ってきて、さっそく涙目でうちひしがれるキーアを、トマとヨニが、ぽふぽふ慰めてくれる。
「大丈夫です、キーアおぼっちゃま。はるか遠い道行きも、一歩から始まるのです!」
ヨニがなでなでしてくれる。
「騎士科の試験に合格するだけを目標にしてましたが、ちょこっと真面目に頑張ってみましょう、キーアおぼっちゃま!」
トマが、やる気だ!
「きーちゃん、入学式、ひとりで先に行っちゃって、僕、しょんぼりだったよ。
魔法科にも、きーちゃん行くんだよね? 一緒に学園に通おうよー。伴侶だよ!」
ネィトも遊びにきたよ。
「(予定)だから」
「ぷー!」
ふくれる伴侶(予定)が、かわいいです。
「ああ、でも毎日迎えに行ったら、トリアーデ家への圧力にはなるのかな? この間の舞踏会のあと、待遇、ちょっとは改善した?」
闇色の髪が揺れて、ネィトがうつむく。
「……きーちゃんの、気持ちは、うれしかった」
やさしいネィトの気遣いに、うなだれた。
「…………そっか。力になれなくて、ごめん」
ふるふるネィトが首を振る。
「うちにおいでよって言いたいけど、伴侶になる前に一緒に住むとか、ありえないからなあ」
キピア家の評判が地の底を這っても何ともないけれど、ネィトが、ふしだらだと言われてしまう。
前のキーアの記憶によると、成人になって伴侶になる前に一緒に住むということは、成人前なのに、えろえろ生活を送っているということで、ロデア大公国では犯罪者っぽい扱いになっちゃうんだよ!
それはネィトが、かわいそうすぎるから!
「うちがお金持ちだったら、ネィトのために家を買ってあげられるんだけど……とりあえず、ご飯とか食べにおいでよ。トマがネィトの髪も、さらっさらにしてくれるよ」
「お任せください!」
トマが胸を叩いてくれる。やさしい。
「うわあん! ありがとう、きーちゃん、トマ!」
ぐしぐしするネィトを、なでなでした。
「食べる分は育てないと、うちも厳しいから、一緒に家庭菜園しような」
「するー!」
こくこくうなずくネィトが、かわいい。
ネィトのことは、これからも頑張ってフォローするとして、心配なのは自分のこともだよ!
騎士科のことはスーパー従僕トマが教えてくれると思うけど、魔法科のことは、トマもヨニも難しいかもしれない。
闇魔法が使えないからね。
と思ったら、ちょうどいいところに、闇魔法が得意な悪役令息が!
「そうだ、ネィト、魔法得意だよね? 教えてよ!」
ぴょこんと跳びあがったネィトが、真っ赤な頬でちっちゃな胸を叩く。
「勿論! ぐあーってきて、びゃーってなって、どーんってするの!」
………………感覚派でした………………
紀太もそっちなので、言いたいことはわかる。
しかし教えてもらう方としては、不安しかない。
魔法科の予習は、あきらめよう。さくっとね!
できそうなのは、スーパー従僕トマが教えてくれる騎士科のための鍛錬だよ!
「俺、頑張って強くなるよ! ネィトも一緒に鍛錬する?」
「いや」
ふるふる首を振る伴侶(予定)も、かわいい。




