こあくまちゃん?
「魔法科の学術試験も、とても優秀な成績だったし、闇魔法と一緒に他の属性の魔法を使える人なんて、初めてだよ。ルゥイがいなければ、間違いなく一番だったのに──」
残念そうに頭をなでなでしてくれるハゥザ学園長に、キーアは、ぶんぶん首を振る。
「ルゥイ殿下が、首席じゃなきゃだめなんです──!」
新入生代表のあいさつのスチルだよ!
顕現しないとか、ありえないから。
BLゲームが始まらないから!
「キーア♡」
学園長の手を、ぺいっと払いのけたルゥイ殿下が、抱っこしてくれる。
あったかい。
いー匂いするー♡
「キーア!」
ぎゅむ
レォに引っ張られて、抱っこされました。
あったかい。
レォの匂いだー♡
ふんふんして、とろけていたら、クノワ先輩の目が遠くなる。
「……だいたい、わかった」
なにが?
「へぇえ、そうなんだ。兄から聞いていたとおりだね」
にこにこしてるハゥザ学園長の、ちっちゃくて素敵なおしりから、小悪魔ちゃんの♡のしっぽが、ゆらゆらしてるように見えるのは、幻覚かな?
レォの腕から、さらりとキーアを奪い返したハゥザが、とろけるような笑みを浮かべる。
「舞踏会では、兄がごめんね。可愛い子を可愛がって可愛がって可愛がりたいだけだから、ゆるしてあげてくれたら、うれしい。
弟の僕が、なんでもお願いを聞いてあげるから♡」
国で一番の、とろける笑顔の破壊力が、すんごいです──!
なにこの顔力──!
た、倒れそう……!
あばばばするキーアを、伸びてきたルゥイの腕が抱きよせてくれた。
「ごめんね、キーア。だいじょうぶ?
叔父上は、ほんとに人がわるくてね。人のものを奪うのが大すきなんだよ。捕捉されちゃうと、逃げられないから気をつけて」
………………うわあ…………。
この顔面でロックオンされちゃうと100%陥落しちゃう、あれですね──!
ひ、ひどすぎる──!
あ、悪魔がいます……!
小悪魔じゃなかった!
ドン引いたキーアに、白藍の瞳がまるくなる。
「……あれ? 僕に夢中になってない?」
首を傾げて白花の髪をさらさらさせるハゥザ学園長が、めちゃくちゃ不思議そうです……!
まあ、この顔だとね。
ちょこっと微笑むだけで、コロっコロ人が落ちてくるよね!
こ わ い ──!
きゃ──!
もはやホラーだよ!
「よかった。キーアに、ハゥザ殿下の毒牙が効かなくて」
ルゥイ殿下の腕から奪ったレォが、守るように抱っこしてくれる。
毒なんだ、やっぱり──!
きゃ──ぁ──あ──!
「……へぇえ?」
え、にっこり笑わないでください、ハゥザ殿下!
なんですか、そのラスボスみたいに怖い微笑みは──!
「キーア・キピアね。覚えた」
覚えなくて結構ですぅうう──!
カタカタしてるキーアを、かわいそうに思ったのか、クノワ先輩がよしよししてくれる。やさしい。
「学園長、悪ふざけはその辺で」
クノワの冷たい声に、ハゥザが白藍の眉をあげる。
「僕にそんな口を利くなんて、僕のものになりたいの?」
くすりとハゥザが笑みを浮かべる。
それだけで真っ赤になったクノワが目をそらした。
かたく引き結ばれた唇が、ふるえてる。
見つめたハゥザは、とろけるように笑った。
「あれがふつうの反応。キーアが異常なの。わかるかな?」
わかりたくないぃい──!
覗きこむハゥザ殿下の目が、微塵も笑ってないよ。
『なんで僕に落ちないの』
心の声が聞こえます、ハゥザ殿下!
『いやいやいやいや怖いです、ハゥザ殿下! BLゲームのラスボスですか!?』
聞いたらだめなのは、解ってる!
カタカタするキーアを、ルゥイが抱っこしてくれる。
あったかい腕で包んでくれたルゥイの背が、ハゥザから守るように、輝くかんばせを遮ってくれる。
ハゥザの微笑みと視線が遠くなるだけで、ものすごい顔力の圧から解放されたみたいに、吐息がこぼれた。
「ふぇえ」
「いい子いい子。こわかったね、キーア♡」
なでなでしてくれるルゥイが、やさしい。
いやしだ──!
「うわあん! ルゥイ殿下!」
『こわかったです──!』
言ったら、だめなのはわかってる!
でも思わず反射で抱きついちゃった。
顔も名前もないモブが、ごめんなさい……!
「……キーア……?」
レォの声が、大地をえぐってる。
「叔父上、本題を」
ルゥイ殿下の催促に、ハゥザ学園長が吐息した。
「はいはい」
クノワから目をそらす、それだけで呪縛を解かれたように、真っ赤になっていたクノワが、あふれる汗をぬぐった。
「……こわい……」
クノワ先輩が、ぷるぷるしてる!
ハゥザ殿下が、にっこりしてる。
こわい……!
きっと誰もを捕らえて離さないのだろう、白藍の瞳が、キーアを見つめる。
「『両方の講義を受講するのは無理なので騎士科に入学希望』というお手紙をもらったけれど。
──却下だ」
微笑みが、こわいです、ハゥザ殿下──!




