がんばったよー!
他の受験生に比べたら短い足だと思うけど、紀太に比べたらちょっと長い気がする足で、キーアは頑張った。
自分に無理のないペースを保って走る。
かっこつけようと思ったのか、最初飛ばした人たちがどんどん脱落してゆくなか、キーアはずっと同じペースで、着実に順位をあげていった。
前には、ずっと、青磁の長い髪が、風に揺れていた。
いー匂いを追いかけるみたいに、走る。
ペースを乱されないように気をつけながら、トマと走ったときを思いだして、足を前に出した。
鼓動の音が、踏み出す足から伝わる響きが、キーアを揺らす。
「レォ・レザイ、あと一周!」
カンカンカンカンカン──!
鐘が鳴る。
レォの足が、加速する。
カンカンカンカンカン──!
「キーア・キピア、あと一周──!?」
おお!
がんばるよー!
加速しようとしたら、びっくりしたように前を走るレォが振り向いた。
束ねられた青磁の髪が、風に舞う。
はー♡ 今のも絶対スチルだ、間違いない──!
拝みたいけど、それは後で!
キーアは笑って手を振った。
「いっきまっす──!」
ドォン──!
スーパー従僕トマに教えてもらった、全力加速!
ぎょっとしたように目を剥いたレォが、前に向き直って、さらにギアをあげてきた。
さっすが!
拍手したい気持ちをこらえて、足を出す。
さらさら揺れる青磁の髪を、ずっと前をゆくいー匂いを追いかけるように、加速する。
荒く弾ける呼吸が、胸と耳でうなる鼓動が、力強く踏み出す足から脳天まで突き抜ける振動が、揺れる髪が、吹きぬけてゆく風が、溶けてゆく。
見えるのは、青磁の髪だけ。
追いかけるのは、あなたの香りだけ。
パァン──!
「第一位、レォ・レザイ!」
「第二位、キーア・キピア──!?」
なんか、さっきから名前の後に『!?』がついてる気がするんだけど、気のせいかな?
首を傾げたキーアは、走るのをやめた途端にあふれる汗をぬぐう。
「……はー、届かなかったー。さっすがレォさま!」
拍手するキーアの前で、振りかえったレォが切れ長の瞳を見開いた。
「……ほとんど、差が、なかった? 俺と、きみ、が?」
「えへん!」
胸を張るキーアに、周りの皆があんぐりしてる。
「なんだあのちっちゃいの!」
「変な子がいる!」
「迷子じゃねえのかよ!」
うわさになりました。
おかしい。
 
午前中の体力試験が終わったら、午後は剣術試験だ。
その間にお昼休みがあって、受験会場を出てご飯を食べに行ってよいことになっている。
勿論キーアは、トマがつくってくれたお弁当だ!
節約でもあるし愛でもあるんだよ。
さすがトマ!
受験会場でもある大公立学園には中庭がある。
緑の木々に囲まれるように小さな噴水があって、木洩れ日にきらめく白いベンチが佇む。
雰囲気抜群なのに、なぜか人けがない。
主人公が攻略対象とよくいちゃついてる、イベントが起こる場所なんだけど、モブには全く関係がない!
今日は主人公はいないみたいだし、まだBLゲームが始まる前だけど、なぜか誰も来ないというBLゲームのお約束が発動していると思われるので、お弁当を食べるのにちょうどいいよ。
走って火照った身体には、冬の冷たい風がきもちいい。
木洩れ日の降りる白いベンチに腰掛けてお弁当を広げようとしたら、でっかい影が落ちてきた。
「もしかしてきみか? ちっちゃい迷子!」
なんか変な噂になってる!
 




