ふたりめ!
「迷子でもないし、ちっちゃくねえから!」
ふんと鼻を鳴らしたキーアは、逆光の顔を覗きこむ。
たくましく隆起する筋肉が、つやっつやだ。
おっきな身体にちっちゃい凛々しいお顔!
「おお! ガダ先輩だ!」
攻略対象ガチムチ担当、ガダ・ダーザだ!
短い紅蓮の髪と鋭い紅蓮の瞳に映える褐色の肌が、盛りあがる筋肉をつややかに彩っている。
BLゲームだから、そこまで物凄い筋肉じゃないんだけど、もうこのむっちりした筋肉が! ダイブしたい!
……おお、よだれ危ない。
あわあわ、スーパー従僕トマが持たせてくれたハンカチで口元を押さえておいた。
じゅるっとしちゃったよ、失礼しました。
顔も名前もないモブだからね。
イケメンオーラに弱いよね!
ガチムチなガダ先輩は、軽々おひめさま抱っこしてくれちゃうよ!
はー♡
むっちりな筋肉につつまれて、おひめさま抱っこ♡
憧れだよね♡
いや、する方だろとか聞こえない。
伴侶(予定)だから。
予定は未定だから。
「あれ? 俺のこと知ってる? 第二子だし、社交界とか出てねえんだけど」
不思議そうなガダ先輩に、跳びあがる。
は!
そ、そうでした!
スリーサイズまで知ってますとか言えない!
「は、はじめまして、ガダ・ダーザ先輩。キピア家次期当主、キーア・キピアと申します」
貴族の敬礼をしてみたよ。
えへん。
じゃなかった、はい、言い訳ね!
「え、ええと、騎士科ですんごい先輩がいるって、噂になってて! 素晴らしい筋肉だって!」
輝くイケメンと輝く筋肉にあてられてひねりだした、あんぽんたんな理由に、ガダ先輩の紅蓮の目がまるくなる。
「だろ!?」
笑顔と盛りあがる上腕二頭筋が輝いてる。
おお! 喜んでくれた!
ぱちぱち拍手したら、ムキムキポーズをしてくれた。
いい人だ!
イケメンなのに!
さすが攻略対象!
「おおー! よだれの出そうな仕上がりですね!」
「だろ!?」
笑顔も筋肉も、つやっつやの、きらっきらだよ!
「キーア!」
腰が砕けるようなイケボに名を呼ばれて、跳びあがる。
「はぇ!?」
変な声出た!
あわあわ振りかえるキーアの視界で、長い青磁の髪が、さらさら流れる。
「お昼、一緒に食べる約束だったよね」
……レォさまと?
そ、そんな約束を攻略対象とするなんて、主人公じゃないですかァア──!
してません!
ぷるぷる首を振ろうとしたら、青磁の瞳に睨まれた。
こわい。
「ガダ先輩、そういうことですので」
ほっそりしたレォから滲み出る圧が、ガダ先輩に押し寄せてる。
「……わー、レザイ家のぼんぼんが、もう護衛についてんのか。すげえな、迷子」
「迷子じゃないから!」
ちゃんと帰り道は解っている!
スーパー従僕トマが!
「はは! 午後の試験はちっとビビるかもしんねえが、踏ん張って騎士の剣を止めたら合格できる。がんばれよ」
おっきなごつごつの手で、くしゃくしゃ頭をなでてくれた。
いい人だ!
イケメンでつやつや筋肉で、名前も顔もないモブを励ましてくれるとか、最高かよ!
「ありがとー、ガダ先輩!」
「合格しろよ!」
「がんばるー!」
笑って手を振ったら、隣からごつごつの大きな手が伸びてくる。
ぐしゃりと髪に手を突っこまれた。
……これは、撫でてくれてる、のかな?
「レォさま?」
どした?
首を傾げたら、拗ねたみたいに顔を逸らされた。
なんですか、その顔……!
か──わ──い──い──!
イケメンの拗ね顔、しかもちょこっと唇が尖ってるとか、最高だァア──!
あふれでそうなよだれをあわあわ拭って、拝みました。
いやもう拝ませてください、お願いします……!
レォさま、尊い──!
でも約束はしてなかったよ? ね?




