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突然変異体の憂鬱③


「――くっくっくっ、く〜ま〜………。」


 目が吊り上がり、牙を剥き出しにして不気味に笑うくーまん。

 身体は短足ミニチュア灰色熊だというのに、その表情は凶暴な魔物そのもの。


 合計7体の灰色熊にトドメを刺したくーまんは満足したのか、くるりと踵を返すとテクテクと歩き出した。

 先程の凶暴さは一瞬で消え去り、その姿は再び熊の人形のよう。不気味な笑みは消え、先程の表情が嘘のようだ。


「………くーまん?」


 ナミが静と狂のあまりに差がありすぎるくーまんに対し不安気に声をかけるが、当のくーまんはどこ吹く風。「ふんっ」と鼻を鳴らし、そのままパーティーの一番後ろへと通り過ぎていった。


 短足熊の不思議な態度と行動に、誰もが首を傾げる。しかし、口の聴けない使い魔相手だ。ナミ以外には彼の言葉を理解することはできない。

 その肝心なナミでさえ、まだくーまんと意思を通じ合わせることはできていない。

 


「………なんか、不遜ね〜。」


 不安気なナミの横に立ち、くーまんの態度に腹を立てているのはナギ。

 纏わせていた血液を試験管に戻し、ショートソードを鞘に戻しながら、頬を膨らませていた。


 勿論、思うように動かないくーまんに向けられたものだが、その怒りの矛先は、しっかりと使い魔の手綱を握ることが出来ていないナミに対しても向けられていた。


「まったく、ちゃんと操れないなら、使い魔なんて使役(テイム)するのやめなさいよ。こんなんじゃ、いつその短足熊に後ろから襲われるかわかったもんじゃないっ!」


「――ナギっ!」


 俺は咄嗟にナギの言葉を遮るが、その厳しい言葉はナミの顔色を青くする。

 使役(テイム)した魔物を完全に従わせる事が出来ないなんて、テイマーとしての価値を否定するようなものだ。ナミ本人が一番悔しい思いをしている。


 普段から口喧嘩が絶えない2人だが、その実、本質は姉妹とか親友とか言っても良いほど仲がいい。

 しかし、そんな間柄だからこそ、パーティーを危険に晒す可能性を消すことの出来ないナミに対し、ナギは苛立ちを隠さない。

 

「――くーまんっ! あんた、ナミの言うことちゃんと聴かないなら、身体中の血液全部抜いて、熊の干物にしてやるわよっ? 」


 ピシッと人差し指でくーまんを指さしながら、なんとも不穏な物言いのナギ。

 まさに吸血鬼王の眷属らしい脅し文句だが、くーまんには馬耳東風。鋭い爪で耳をホシホジ、明らかに挑発的だ。


 くーまんの態度に、ナギは色白の肌を真っ赤にして怒り心頭の様子。

 益々ヒートアップしたナギは、くーまんに向け次々と脅し文句を繰り出すが、いつの間にか寝転がった短足熊は、ヒューヒューと口笛まで吹く始末。完全に馬鹿にされている。


「………くーっ!? この短足熊っ! やっぱり干物にしてやるわっ!」


 (魔物が口笛吹くのかよ……。)なんて俺が呆れていると、イライラが頂点に達したナギが腕まくりをしながら、さっき鞘に納めたばかりのショートソードを抜き放った。

 

「――ナギ、落ちついてっ! ちょっとくーまんっ! いい加減にしなさいっ!」


 ナミが慌てて操り糸を引っ張ると、寝転がっていた短足熊が無理矢理立たされる。

 さらに、糸を通して強制力が働いたのか、不遜な態度を取り続けていた短足熊は直立不動の体勢となった。


 ギリギリと歯ぎしりする音が聞こえる。

 強制的に従わせられたくーまんが、使役(テイム)に対して抵抗しているのだろう。

 しかし、操り糸を通して直接力を使われると、さすがのくーまんでも、ナミの命令には逆らえないようだ。

 ナミが使役(テイム)に成功しているのは間違いない。



「――くーまんっ! ウチはこんな関係嫌なわけ。もっと仲良くなりたいんだよっ!」


 操り糸に魔力を流して命令する――どうやらナミがくーまんを力で従わせられるのは間違いないようだ。ただ――ナミは力で無理矢理従わせるのは望まないということか………。


 【魔物使い】というクラスについたナミだが、【キーパー(動物飼育)】という才能を授けられた彼女の元々の夢は、家畜を育て、大好きな動物たちと一緒に暮らすこと。

 生来優しい彼女にとって、相手が魔物であろうとも、力で押さえつけるような関係は考えられないし、ありえないのだろう。

 

「――くーまんっ!」


 操り糸を通した強制力に抗っているのだろう。

 直立不動になりながら、短足熊がブルブルと震えている。

 しかし、【テイマー】として一度支配下に置かれた魔物なのに、ここまで反抗できるものなのか?


 才能とスキル。

 考えてみれば不思議な力だ。

 この世界の常識ではあるが、なぜそんな不思議な力が成り立つのか、改めて考えてみてもよくわからない。

 だが、今のナミとくーまんの関係を見るに、そんな不思議な力も完全ではないのだろう。

 


「「「―――!?」」」


 俺がこの世界の理に取り止めのない考えを巡らせていると、ダンジョンの奥から鼻息荒くこちらに向かってくる魔物の足音が聞こえてきた。

 

(――また多いな………。)


 足音の数から、おそらくまた灰色熊の団体のようだ。

 ナミがくーまんを使役(テイム)してから、どうにもこのフロアの灰色熊たちの行動が変わっている。

 自分の縄張りから離れなかった灰色熊が、こちらに向かってきたり、単独での行動ばかりだった彼等が団体で襲ってきたり。


「――みんな、また団体さんだっ!」


 俺は精霊剣に魔力を篭めながら抜き放った――


 


 

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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