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突然変異体の憂鬱②


「――ミズハっ! 水塊で盾をっ! ヒンナっ! お前もドッペルゲンガーでミズハに変身、水塊の盾を増やせっ!」


 俺の号令に反応した2人の精霊が瞬時に複数の水塊を作り出す。

 ヒンナが作り出した水塊は小さいが、それでも盾の数を増やす事を優先したのは、腕力の大きな灰色熊=グリズリーの攻撃に備える為だ。

 

 連携が取れているようには見えないが、一体一体の攻撃力は絶大だ。一撃でも攻撃を喰らえば、簡単に命を奪われる。

 リスクを最大限に低くする戦い方を考えると、必然的に防御方法が重要になる。



 バシャッ!


 真っ先に突進してきた灰色熊が右腕を振り下ろすと、ミズハの作った水塊がその衝撃を吸収した。



「――ブリジットっ!」


 動きを止められた灰色熊に、魔力を流しオレンジ色の炎を纏った精霊剣を突き出した。

 1、2、3回と素早く灰色熊の無防備な胸を突く。

 急所を差し貫かれ、さらに身体の中を高温の精霊剣で燃やされた灰色熊は、悲鳴をあげることもできず、苦悶の表情を浮かべて絶命した。


 俺は前蹴りで絶命した灰色熊を蹴り飛ばすと、すぐさま後続の灰色熊の攻撃に備える。



「――フユキっ! 氷結(フロスト)っ!」


 リュックから飛び出した霜男が俺から魔力を吸い上げると、みるみるうちに周囲の空気が凍てつき、キラキラと氷の粒が生み出された。


 パキパキ――


 突進してくる灰色熊の身体に氷の結晶が張り付く。

 凍るまでには至らないが、身体を覆う氷の結晶は灰色熊の動きを鈍らせた。


 そこに俺の後ろから血を纏わせたショートソードを振り上げながら白髪紅瞳の少女が飛び込んでいく。

 

「――ブラッドソード(改)っ!」


 ナギは低い姿勢で素早く灰色熊の横を駆け抜けると、横薙ぎに振るった紅い剣身が、すれ違いざまに灰色熊の脇腹を切り裂いた。

 

 斬られた灰色熊は、一瞬遅れて「グハッ!」と大きい唸る。

 腹は厚い脂肪に守られている灰色熊だが、脇腹は薄い。ナギはしっかりと弱点を捉えて灰色熊に致命傷を与えたようだ。



 動きの鈍った灰色熊の集団に、今度はナギを追い越した俺が切り込んだ。

 いつもの型通り―― 右上段からの袈裟斬り、左中段からの薙ぎ払い、右下段からの逆袈裟斬り、そして

正面からの三段突き――自然と剣が走り、身体が動く。

 何度も何度も繰り返した動きは、頭で考えるよりも早く、身体が反応していた。

 

 さらに、これもまた一緒に訓練を繰り返したナギが続く。

 優しい英雄から俺が教わり、俺から教えられた基本の型。しっかりと追撃を繰り出し、少ない手数で灰色熊を無力化していく――



「――く〜〜っっっ! ま!?」


 灰色熊の集団から動きが消えたその時だ。

 突然、後方から何かが気の抜けるような声を叫びながら、影が飛び出してきたのだ。

 

 ドカッ!


 影は俺やナギ、精霊たちの応戦により戦闘不能となっている灰色熊たちの間を跳ねるように移動していく。

 

「――くーまんか!?」


 影の正体はナミが使役(テイム)しているはずのくーまん。

 今の今まで、まるでヤル気の無い不遜な態度で動こうとしなかった使い魔が、目で追うのもやっとのスピードで動きまくっている。


 くーまんは瀕死の灰色熊の首に飛び蹴りを喰らわせながら、全ての灰色熊にトドメを刺していた。

 

 身動きが取れないとはいえ巨体の灰色熊だ。その首は太く逞しい。そんな首の骨を折るのは、正直簡単ではないはずだ。

 しかし、くーまんの飛び蹴りは一撃で灰色熊たちの首を折り、完全に息の根を止めていた。



「――くーまん! やっと働いてくれたっ!」


 ナミが後ろから嬉々として顔を出した。

 【テイマー】として自らが使役(テイム)した魔物に命令を聞かせる事ができず、忸怩たる思いでいたのだろう。

 初めてくーまんが戦闘に参加したことが、この上なく嬉しいようだ。


「ナミが命令したのか? それにしても凄い動きだな。」


 俺の問いかけに、何故かナミが首を傾げる。

 

「………いや………、あれ!? ウチ、命令したっけ?」


 ん!?

 どういうことだろうか。ナミの様子から察するに、くーまんはナミの命令で動いている訳ではないのか?

 もし、そうだとしたら、不味くないか?

 使い魔が命令されてもいないのに戦っているなんて。

 


「ナミの命令じゃないの? でも、灰色熊にだけむかっるんだから、まあいいじゃん。」


 ブラッドソードを構え、くーまんの動きわ目で追いながらナギが応えた。


 たしかに、魔物にだけ向かっていっているのだからそうとも言える。しかし、ナミの命令で動いていないというのは問題だ。

 命令に従わない使い魔など危険でしかない。いつその暴力がコチラに向くかもわからないのだから。

 


 ナギと共に、灰色熊とくーまんへの警戒を解かず、その動きを注視していると、くーまんが最後の一体の首を折り、全ての灰色熊にトドメを刺し終える。


 その小さな身体から殺気を纏わせた後ろ姿は、まさに魔物。

 もしくーまんが不測な動きをするならば、それがナミの使い魔だとしても倒さなければならなくなる。


 俺はゴクリと唾をのんだ。

 隣のナギと警戒心を一段上げたのだろう。その紅い瞳が鋭くくーまんを睨んでいる。


 フッとくーまんが振り返る。

 ナミに使役(テイム)される前にしていたような、凶暴な顔で笑っていた――

 

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拙い文章ですが、読んでいただいている皆さんに感謝です。楽しんでいただければ幸いです。
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