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はじめまして。咲田七海と申します。
まだまだ拙い文章ではありますが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
本作は全10話となっております。
最後までお付き合いいただけますと幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。
「なあアサミー、好きやのに別れるってどういうことなん?」
アサミがソファに座っていると、横から声が飛んできた。
アサミは声のする方を見ずに答えた。
「うちに聞かれても分からんて。んー、でもさ、クズやったからとかちゃう? あとは海外行くことになって、ついていけへんとか?」
「ふーん」
ツグヤはソファに寝転んだまま、アサミの膝に自分の足を置いてスマホをいじっていた。
「好きやったら、付き合い続けると思うけどなぁ」
「どうやろなぁ。でもクズでも好きって感覚、うちには分からんかも。普通冷めへん?」
「わかる。萎えるよな」
「やんなぁ」
アサミは笑って、ツグヤの足を軽く叩いた。
「てか、足邪魔やねん」
「ええやん、ちょっとくらい」
「重いって」
「俺のこと好きやろ?」
「それとこれとは別やろ!」
アサミはツッコんでから、「はよどけて〜」とふざけたように笑った。
ツグヤは笑いながら足をどけた。
付き合って半年が過ぎた頃だった。
このときの二人は、本当にそう思っていた。
好きだから、一緒にいる。
嫌いになったら、別れる。
恋愛なんて、案外単純なものなのだと。
アサミがツグヤを初めて見たとき、正直、あまりいい印象はなかった。
友達に誘われて参加した飲み会。
少し遅れてやって来たツグヤは、黒いジャケットにシンプルなアクセサリーを合わせていて、顔も整っていた。
「ごめん、遅れた!」
そう言って笑う姿には、妙な余裕があった。
……絶対、女の子慣れしてるタイプやん。
アサミはそう思った。
ところが、隣の席になって十分もしないうちに、その印象は崩れた。
「え、ツグヤって何の仕事してるん?」
「営業やで」
「へぇ、何売ってるん?」
「いろいろ」
「ふっ、いや、いろいろって何なんよ?」
「説明したら長なるねん」
「じゃあ簡単に説明してや」
「……物を、必要な人に届ける仕事?」
「そら全部の営業そうやろ!」
アサミが吹き出すと、ツグヤもつられて笑った。
「アサミ、めっちゃ笑うやん」
「いや今お酒入ってるし、ツボ入ってんねんて」
「ツボ浅なってるやん。ちなみに俺、今バカにされてる?」
「うん、ちょっとね」
「ははっ、正直すぎるやろ」
格好つけているように見えた男は、話してみると驚くほど抜けていた。
しかも、何かを間違えるたびに変に取り繕わず、自分でも笑う。
アサミは、そんなツグヤと話すのが楽しかった。
飲み会が終わる頃には、最初の印象なんてすっかり忘れていた。
その日から、二人は時々連絡を取るようになった。
最初はどうでもいい話ばかりだった。
今日の昼ご飯。
仕事でやらかした失敗。
たまたま見つけた変な動画。
ツグヤの送ってくるLINEには、誤字や変な略し方が多くて、アサミは何度も笑った。
『明日って何時集合やっけ?』
『13時やで』
『りょかい!』
『了解な〜』
『了解警察やめんかい!伝わるやろ笑』
そんなやり取りが、いつの間にか毎日の習慣になっていた。
ある日、二人で出かけた帰り道。
駅に向かう途中で、アサミのスマホが鳴った。
画面には父親の名前が表示されていた。
アサミは一瞬だけ足を止めた。
「……あ」
「電話?」
「うん。まあ、あとでええやつ」
そう言って画面を伏せた。
ツグヤはそれ以上何も聞かなかった。
しばらく歩いてから、ぽつりと言った。
「出たくない電話ってあるよな」
「……え?」
「いや、俺もあるし。仕事の電話とか」
「ふふっ、何それ」
「ほんまやって。休みの日に鳴ったら一回天井見るもん」
「待ってうちもそれやるわ。人多いとこやとちょっと変な目で見られる」
アサミは笑った。
ツグヤも笑った。
それだけだった。
そのとき、それ以上何も聞かれなかったことが、アサミには妙に心地よかった。
別れ際、ツグヤが言った。
「なあ、アサミ」
「ん?」
「また二人で遊ばん?」
「ええよ?」
「……いや、そうじゃなくて」
「何?」
ツグヤは一瞬、言葉に詰まった。
「俺、アサミのこと結構好きやねんけど」
アサミは目を丸くした。
「……え、急に?」
「急ちゃうし。結構前からやし」
「えーそうなん!?……ふっ、くくく」
「笑うなや!」
「ふふふっ、ごめんごめん」
いつも余裕そうにしているツグヤの耳が、少し赤くなっていた。
その顔を見たとき、アサミは思った。
……あ、うち、この人のこと好きなんかも。
格好いいところより、格好悪いところをもっと見たい。
そんなふうに思ったのは、初めてだった。
「……うちも、結構好きやで」
そう答えると、ツグヤは嬉しそうに笑った。
その笑顔を見て、アサミまで嬉しくなった。




