第1章 いきなり閑話休題
門亜は伯父が決まった時間にトイレに行くのが気になっていた。
まだ60をちょっと越えたくらいだ。そんな年ではないはずなのに……何故だ?
トイレから帰ってきた伯父に門亜は聞いた。
「伯父さん、なんでそんなにトイレにマメに行くの?」
そんな年じゃないでしょ~。門亜は歌うように言った。
「……トイレに行こうとすると、必ず誰かに先に入られるんだ!だから早めに向かうようにしているんだ!」
うるさいな、と言うように伯父は返した。
ふ~ん。
案外まともな答えに、門亜は少しだけ拍子抜けした。特にどんな答えを期待していたわけでもなかったが……。
その時不意に、門亜の脳裏に音環の声が浮かんで来た。
『じゃあ、呪っとく?ん-』
真剣に手を合わせる音環に門亜は笑い出した。
『大丈夫だよ。呪いなんて効かないよ。俺の呪いなんてせいぜいトイレに行きたくて向かった時に、目の前で入られる、程度のやつだから』
懐かしいな。隣にすべっタローもいたな。
しかもあの呪い、きちんと効いていた。あれは空河の結婚式の後だったから、もう……7年近くになるかな……。
今日も会うけど、なんとなく音環のことを思い出してしまった。ボクもやってみるか。
んー。
手を合わせてみた。もう少し音環の呪い……続きますように。
「じゃ、伯父さん、ボク迷子の子犬の件、聞きに行ってくるね!見たって連絡が来たんだ!そのあと音環のところに行くからそのまんま帰ります!」
そう言うと、ブーツに履き替えて門亜は出て行った。
伯父さんは……某日本刀キャラのようなショートパンツにオーバースカートを重ねた、中性的で派手な衣装姿の門亜を止めようとして、やめた。
事故にあわないなら何でもいい。理解できない姿で仕事をするほうがマシだ。
そう思ったあたりで、迷信めいた気持にはっとしたが、そっと蓋をした。
伯父の脳裏には、べったりとシュレッダーに吸い込まれていく音環の目つきが焼き付いていた。
門亜を傷つけたら許さない……。そういうかのような目つき。
もうずいぶん昔のことだが、思い出すだけで、いまも心の深いところでざわつく。
……呪いは、こちらのほうがよほど効いているようである。
読んでくださりありがとうございます。
継承 連載を開始しました。
あらすじにもあります通り、次の章からはしばらくシリアスな話が続きます。
ゆっくり読み進めていただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。




