第42話 天空の城、突入
前話が短いので連投します。
ラピュタには似てません
リオとミアを連れてきた翌日。俺は2人を家まで送り届けた。
「お城、行かないの?」
リオが少し残念そうに聞いてくる。
「今回はダメ。中が安全かどうかわからないからな」
「ユウマお兄ちゃんがいるのに?」
「俺がいても危ないものは危ない」
ミアが俺の服の裾を掴む。
「また、いける?」
「もちろん。ちゃんと安全だってわかったらな」
これは約束だ。
未知の遺跡に子どもを連れて突入するほど、俺も無謀じゃない。
……いや、今までの行動を振り返ると自信はないけど、少なくとも今回は自重した。
2人を送り届けたあと、ルナとノアにも、天空の城は俺とエリーゼだけで調べるつもりだと伝えた。しかし、2人には反対された。
「安全を確認するなら、人数がいた方がいいでしょ」
「……未知の遺跡に、2人だけで行く方が危険」
2人にそう言われ、結局、探索にはルナとノアも同行することになった。
◇
数日後。
再び竜の巣を抜け、空飛ぶ車で高原へ入る。乗っているのは俺、エリーゼ、ルナ、ノア。そして後部座席で丸くなっているクロ。
今回の目的はただ一つ。
天空の城への突入。
高原へ着くと、俺たちはそのまま車を上昇させた。城へ近づくにつれ、下から吹き上げる風が強くなった。
一定方向の風ではない。
城壁にぶつかった風が巻き上がり、空飛ぶ車の下や横から不規則に叩きつけてくる。
「思ったより揺れますわね」
「でも、竜の巣に比べたら全然マシです」
車体全体を浮かせたまま、細かく傾きを修正する。普通の飛竜や気球で近づこうとすれば、着地する前に城壁へ叩きつけられるかもしれない。
「これ、普通の人間が降りるのは無理だな」
「ええ。縄を下ろしたところで、城壁へ叩きつけられてしまいますわね」
雲の隙間から差し込む光の先に、巨大な石造りの城が浮かんでいる。
「何度見ても……すごいな」
近づけば近づくほど、その大きさがわかる。城というより、一つの要塞だ。巨大な塔、分厚い城壁、張り出した空中庭園らしき構造物。かなり古い建物なのは間違いない。それなのに、今もこうして空に浮かんでいる。それだけでも十分に異常だった。俺は空飛ぶ車を城壁の内側へ進め、着地させた。
「……思ったより残ってるな」
相当な年月が経っているはずなのに、建物の形はかなり残っている。石壁にはひびが入り、角が崩れている場所もある。それでも、廃墟という言葉から想像するほどには朽ちていなかった。
エリーゼが壁に手を当てる。
「雨がほとんど降らないからでしょうね」
「なるほど」
城の周囲は巨大な雲の結界に覆われているため、城内に雨が直接降り込むことはほとんどない。だから植物もあまり育たず、石造りの建物も比較的形を残しているのかもしれない。
「俺の知ってる天空の城とは、だいぶ違うな」
「また何か知っているのです?」
「いや、俺の知ってるやつは、もっとこう……木とか草とか、めちゃくちゃ生えてる」
「どこの情報ですか、それは?」
「……こっちの話です」
「またそれですのね」
見渡してみると、城内に植物はほとんどなく、日陰になった石壁に薄く苔が生えている程度だった。雨がほとんど降らないのだから、それも当然なのかもしれない。
「まあ、これはこれで遺跡感あっていいけど」
俺は城の奥を見る。巨大な扉、崩れた塔、長い通路。そこで、俺の中の何かが反応した。
「……いるかな」
「何がですの?」
「ロボット」
エリーゼが真顔になる。
「いるわけないでしょう」
「いやいやいや。天空の城だぞ?」
「だから何ですの」
「こういう城にはな、手足の長いロボットがいるって決まってるんだよ」
「何一つ決まっていませんわ」
ルナが首を傾げる。
「ロボットって、ユウマが前に作ってたあれ?」
「そう。それのもっと完成度高いやつ」
「また乗るの?」
「乗る」
即答。
エリーゼがため息をついた。
「見つかっても壊さないでくださいませ」
「俺を何だと思ってるんだ」
「以前、自分で作ったものを壊されて激怒していた人ですわ」
いや、あれは俺が壊したんじゃない。そんなことを話しながら歩いていると、ノアが立ち止まった。
「……ユウマ」
「ん?」
ノアが指差す。俺もその先を見て、固まった。
「…………いた」
石造りの建物の影に、壁にもたれかかるようにそれは座っていた。人型で、細長い腕と脚、丸みの少ない頭部。高さは5メートル以上ある。
「ロボットだああああああああ!!」
「なんで本当にいますの!?」
俺は駆け寄った。
「うおおおお! すげえ! マジでロボットだ!」
「ユウマ、落ち着いて!」
ルナに止められるが無理。
古代の巨大ロボットですよ?
落ち着けるわけがない。
表面を触る。金属製だが、ほとんど錆びておらず、関節も形を残している。
胸部に継ぎ目があった。
「開くかな」
「壊さないでくださいませよ」
「わかってるって」
飛行能力で胸部の装甲をゆっくり動かす。
ギギギ……。
中が開いた。
俺は覗き込む。
「……操縦席?」
中には椅子があり、左右にレバーらしきもの、足元には踏み板もある。
だが――
「動力源がない」
魔石も、魔法陣も、エンジンらしき構造もない。
エリーゼも中を覗き込む。
「本当に何もありませんわね」
「これ……俺が作ったロボットと同じじゃん」
俺が以前作ったロボットも、自力で動いていたわけではない。俺自身の飛行能力で動かしていただけだ。
手を持ち上げ、足を動かし、胴体を浮かせる。それを組み合わせて、ロボットっぽく動かしていた。
つまりこれは――
「こいつも、乗っている人間の能力で動かしてた?」
全員が黙る。
エリーゼが別のところを見ていた。
「それよりユウマ」
「ん?」
「この金属……」
彼女がロボットの脚を軽く叩く。
「おそらくミスリルですわ」
「ミスリル?」
知ってる単語が出てきた。ファンタジー定番素材だ。でも一応聞く。
「どんな金属?」
「軽く、非常に丈夫で、錆びにくい。何より魔力をよく通しますの」
「へえ」
「そして、とても高価ですわ」
俺はロボットを見る。
5メートル超。
全身。
ミスリル。
「…………」
「ユウマ?」
「これ全部?」
「おそらく」
「なるほど」
俺は腕を組み、頷いた。
「次のロボットはこれを材料にすればいいのか」
「持って帰ろうとしないでくださいませ!」
「まだ何も言ってない!」
「顔に書いてありますわ!」
否定できない。
◇
さらに奥へ進む。
すると今度は、大きな建物の中に奇妙なものを見つけた。
「……これ」
俺は立ち止まった。横長の金属製の箱で、中には複数の座席、前方には操縦席らしき場所がある。だが、車輪もなければ、馬を繋ぐ場所もない。
「ユウマの、あれに似てない?」
ルナが言った。
「……俺も思った」
空飛ぶ車。
俺が作ったものと、考え方があまりにも似ている。俺の空飛ぶ車にも車輪はない。地面を走るためのものではなく、最初から空を移動するために作ったからだ。
中を調べても、やはり動力源も魔石も魔法機関らしきものもない。
「これも……自力じゃ動かない?」
俺の空飛ぶ車だって、車そのものに《飛行》の力があるわけじゃない。俺が車体全体を一つの対象として浮かせている。ロボットにも、空飛ぶ車らしきものにも動力源がない。そして、この巨大な天空の城。
俺たちは顔を見合わせた。
エリーゼが小さく呟く。
「まさか……」
俺と同じ能力を持った人間がいた? 誰も口にはしなかった。まだ証拠はない。それでも、はるか昔の空飛ぶ城、巨大ロボット、空飛ぶ車らしきもの。そのすべてに動力源がない。偶然で片付けるには出来すぎている。
◇
城内をさらに進む。当然ながら人の気配はない。はるか昔の城だが、石造りの家や広場、井戸らしき跡など、生活の痕跡はいたるところに残っていた。
「これ……墓か?」
城の一角には、石碑が大量に並んでいた。数十どころではない。何百、あるいはもっと。
文字はほとんど読めなくなっている。それでも、一つ一つが人のために建てられたものだということはわかった。さっきまでロボットではしゃいでいた気分が、一気に冷める。
「ここで……人が暮らしてたんだな」
エリーゼは何も言わなかった。
クロも珍しく静かだった。
◇
城の内部へ入る。剣を抜いたルナと、周囲を警戒するノア。俺もいつでも飛べるように魔力を意識するが、何も出ない。通路、空室、壊れた家具、また通路。
「……モンスターいないね」
ルナが言う。
「いないな」
拍子抜けするくらい何もいない。
「結界の影響かもしれませんわね」
エリーゼが言った。
「これだけ長期間、外部から隔離されているのですもの。魔物が入り込めないのかもしれませんわ」
「なるほど」
俺は天井を見る。
静か。
あまりにも静か。
「天空城を統べる全知全能の竜の神とかいないのか?」
「いてほしいんですの?」
「ちょっとだけ」
「帰りますわよ」
「冗談です」
半分くらい。
◇
しばらく進むと、崩れた石材が通路を塞いでいた。
「行き止まり?」
ルナが覗き込む。
だが、石の隙間から冷たい空気が流れている。
「向こうに空間あるな」
俺は崩れた石に手を向ける。
飛行能力をかける。
ゴゴゴ……。
巨大な石材がゆっくり浮き上がる。
横へ移動。
さらに数個。
その奥から、下へ続く階段が現れた。
「地下?」
「行ってみよう」
階段を下りる。
当然、真っ暗。
「こういうときこそ」
俺は指先を前へ向ける。
「ファイア……じゃない。ライト!」
ぼうっ。
小さな光が出た。
「おお!」
3秒後。
消えた。
真っ暗。
「…………」
「ユウマ」
エリーゼの声。
「はい」
「邪魔ですわ」
「はい」
エリーゼが手を上げる。
柔らかな白い光が浮かび、周囲を明るく照らす。
安定。
明るい。
長持ち。
「同じ魔法使いなのに、この格差」
「あなたは飛んでいなさい」
「そうします」
地下通路を進む。
その途中、ミシッと嫌な音がした。
「ルナ!」
天井の一部が崩れた。
巨大な石が、ルナの真上へ落ちてくる。
俺は反射的に手を向けた。
「止まれ!」
落下していた石が、ルナの頭上でぴたりと止まる。
「……え?」
ルナが見上げたまま固まる。
俺は石を横へ動かす。
ドゴン!!
通路の脇へ落とす。
「だ、大丈夫か?」
「う、うん……助けてくれてありがとう」
「間に合ってよかった」
ルナの顔が青い。
自分でも驚くくらい、考えるより先に能力が動いていた。こういうとき、自分の能力が飛行でよかったと本気で思う。
◇
さらに奥へ進み、地下の最深部らしき場所へたどり着いた。重い扉を俺とノアで押してみたが開かない。そこで俺が浮かせると、あっさり開いた。
「最初からそれやってよ」
「雰囲気だよ、雰囲気」
扉の向こうをエリーゼの光が照らし、全員が固まった。
「……おお」
金、銀、宝石、装飾品、箱、武具。山ほどある。
「財宝だああああ!」
ルナが真っ先に突撃。
「待て待て罠!」
「モンスターいなかったじゃん!」
「こういうところにはあるんだよ! 宝箱を開けた瞬間に天井が落ちてくるとか!」
「さっき落ちてきたけど?」
「それ普通の崩落!」
宝の山。
どれも相当な年月が経っているはずなのに、保存状態のいいものも多い。
「これ、1個でも相当な値段じゃない?」
ルナの目が完全にお金モード。
俺も人のこと言えない。
ミスリルロボットを見た時点で似たような顔してた。
そのとき。
「ユウマ」
エリーゼの声が変わった。
真剣な声。
俺たちは振り返る。
エリーゼは財宝ではなく、壁を見ていた。
「文字がありますわ」
壁一面に文字が彫られている。
装飾ではない。
誰かが残した文章。
一文字一文字、石を削って刻んだ跡。
「読める?」
「……古い文字ですわ」
エリーゼが近づく。
指でなぞる。
「今の文字と形が近いものも多いです。文体もかなり古いですが……時間をかければ、なんとか」
しばらく。
誰も喋らなかった。
エリーゼだけが壁を追う。
やがて彼女の顔が変わった。
「これは……」
「何て書いてある?」
「誰かが、後世へ残すために刻んだもののようですわ」
そして、ゆっくり読み始めた。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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