第1話 落ちたら異世界でした
はじめまして。
この物語は、《飛行》スキルのみを持つ主人公ユウマの、
ほのぼのギャグな日常~終盤はバトル中心に、なんと魔王を倒すところまでを描いた物語になっています。
すでに完結112話まで書き終えておりますので、毎日投稿していこうと思ってます。
インスタにAIで作ったイメージ画を載せていきますので、そちらも見ながら楽しんでいただけたら幸いです。
https://www.instagram.com/yuma.ochitara?stkn=dzl3cXJtMmg0bmkx
第1話 落ちたら異世界でした
空を飛べるようになったら、何がしたい?
子どもの頃に聞かれたなら、たぶん俺はこう答えただろう。
「世界中を自由に飛び回りたい」
うん。 それくらいでよかった。
異世界に来てしまったものは仕方ない。 せっかくなら、のんびり空でも飛びながら、ほのぼの暮らしていくつもりだった。
なのに――。
「ユウマ!!」
爽やかイケメンが俺の名前を叫んだ。
眼下には、見渡す限りの大軍。 城壁の向こうまで埋め尽くす魔物たちと、それを迎え撃つ人間やエルフたち。
空では巨大な竜が咆哮し、地上では魔法が飛び交っている。
そして俺は、その全部を遥か上空から見下ろしていた。
こんなことになるなんて、聞いてない。
……どこで間違えた?
剣の達人でもない。 大魔法使いでもない。 伝説の勇者でもない。
俺にあるのは――《飛行》だけだ。
それなのに。
「行くぞ」
俺は空を蹴った。
これは、そんな俺がここまで来ることになった話だ。
◇
「うわああああああああああああああ!!!」
俺――相沢悠真は、崖から落ちていた。
登山中に足を滑らせ、身体が宙へ投げ出された。
眼下の岩場が、ものすごい速さで迫ってくる。
「これは死ぬ!!!!」
その瞬間、昔の記憶が次々と頭をよぎった。
小学校の運動会では、リレーのバトンを落として転び、靴まで飛ばした。
中学生の頃に渡した告白の手紙は、赤ペンで誤字を3か所直されて返ってきた。
高校の文化祭では、通路の隅で体育座りをするだけの幽霊役になった。
最後に受けた模試の志望校判定は、それまでと変わらずEだった。
「俺の人生、最後までろくな場面が出てこないな!?」
もっとほかに思い出すことはなかったのか。
そう考えている間にも、地面は迫ってくる。
「せめて最後くらい良いシーン見せてくれよ!!」
次の瞬間、目の前の景色が一変した。
薄曇りだった空が、突き抜けるような青空へ変わる。
岩山も消え、代わりに深い森が眼下へ広がっていた。
「……は?」
明らかに、さっきまでいた場所ではない。
これ、もしかして異世界転移?
しかし、景色が変わっても落下は止まらなかった。
「って、まだ落ちるんかーーーい!!!」
異世界へ来た直後に地面へ激突して死亡。
そんな理不尽な話があるか。
せめて、空を飛べる能力くらいあってもいいはずだ。
「誰か! なんか出てこい! ステータスとか! スキルとか!」
必死に叫んだ瞬間、頭の中に文字が浮かんだ。
《固有スキル:飛行(Lv1)》を獲得しました。
使用しますか?
「あった!! あったよ!! 今すぐ!!!!!」
迷わず使用した。
落下していた身体が、地面から50センチのところで急停止する。
そのまま地面へ転がった。
「……助かった?」
どうやら、本当に助かったらしい。
ただ、飛行と呼ぶには止まった位置が低すぎる。
身体を起こし、周囲を見回した。
見上げるほど太い木々が立ち並び、地面は見たことのない苔に覆われている。森の奥からは、鳥とも獣ともつかない鳴き声が聞こえてきた。
ここが地球ではないことだけは分かる。
俺は立ち上がり、もう一度《飛行》を試した。
「浮け」
身体がふわりと持ち上がり、地面から50センチほどの高さで止まった。
「え、ショボ……」
それ以上、上へ行くことはできない。
さらに30秒ほど経つと、身体を支えていた力が突然消えた。
ドスン。
「いてぇ!!」
頭の中に浮かぶ表示を確認する。
《飛行(Lv1)》
滞空時間:30秒
最高高度:50cm
「時間制限あるの!?」
自由に空を飛ぶには、程遠い性能だった。
すぐにもう一度使おうとしたが、身体は持ち上がらない。少し休むと、ようやく再び浮くことができた。
次に、背負っていたリュックの中身を確認する。
食料はゼリー飲料が2本、エネルギーバーが3本。それにチョコレート、ミックスナッツ、塩飴。
道具は折りたたみナイフ、電池式のヘッドライト、ライター、5メートルの細引きロープ、救急セット、レインウェア、モバイルバッテリー、ホイッスル、地図とコンパス。
スマホは圏外だった。
最後に水筒を取り出す。
「水筒! あるじゃん!」
500ミリリットルの水筒には、7割ほど水が残っていた。
「350ミリくらいか……今日一日持たせるのも怪しいな」
どれも登山のガイドブックに載っていた基本装備だ。
地図はこの森のものではなく、コンパスもこの世界で正しく方角を示すのか分からない。使えそうにないものは、リュックの底へ戻した。
森の中を歩いていると、腹が減ってきた。
持ってきた食料は、できるだけ残しておきたい。いつ森を出られるのか分からないからだ。
周囲を探していると、木の枝に実がなっているのを見つけた。
高さは3メートルほど。
「いや、絶妙に高いな!?」
異世界の木の実なので、食べられる保証はない。
それでも、食料になりそうなものは確保しておきたかった。
何度か跳んでみたが、手は届かない。《飛行》を使っても、上がれるのは50センチだけだ。
仕方なく幹をよじ登ろうとしたものの、すぐに手を滑らせた。
《飛行》で姿勢を立て直したところで時間が切れ、そのまま地面へ落ちる。
「ギャア!」
休憩を挟んで挑戦を繰り返した。
三度目には、幹へしがみつきながら《飛行》を使うことで、どうにか木の実がある枝までたどり着けた。
手を伸ばし、木の実をつかむ。
「よっしゃあああああああ!!」
枝の上で勝利のポーズを取った瞬間、足元から嫌な音がした。
乗っていた枝が折れ、木の実を握ったまま地面へ落下する。
「学習しろ、俺!!!!」
その日は全部で5回、木の実を取りに行った。
落下回数は、途中で数えるのをやめた。
その結果、飛行スキルが成長した。
《飛行(Lv2)》
滞空時間:40秒
最高高度:1m
「まだ木の実には届かないけど、ちょっと伸びてる」
3メートルの高さには届かないが、幹を登る距離が短くなった分、木の実を取りやすくなった。
成長したことが嬉しくて、そのあとも《飛行》の練習を続けた。
何度も浮いては落ちていると、近くにいた、うさぎのような生き物がこちらを見たまま後ずさっていった。
「見んな! これでも成長期なんだよ!」
◇
異世界へ来て3日目。
朝露や葉に残った雨水を集め、水筒の水も少しずつ飲みながら過ごしてきた。
しかし、とうとう水筒の中身が底をついた。
俺は森を歩いている途中で見つけた川へ向かった。
ところが、川には狼のような魔物がいた。
「うわ、ガチで怖いやつ!」
こちらに気づいた狼が走ってくる。
俺はすぐに背を向け、森の中を必死に逃げた。
《飛行》を使っても、上がれるのは1メートルだけだ。狼が跳び上がれば、牙が届いてしまう。
「近い近い近い!!」
追いつかれる前に木へ飛びつき、《飛行》を使いながら幹を登った。
どうにか狼の牙が届かない枝へ逃れたものの、すぐに滞空時間が切れた。
全体重がかかった枝が大きく軋む。
「お前も裏切るのか!!」
折れる寸前に別の枝へ移り、どうにか落下を免れた。
狼が立ち去るまで、木の上で震えながら待つこと1時間。
また飛行スキルが成長した。
《飛行(Lv3)》
滞空時間:1分
最高高度:1.5m
「なんで命の危機でしか伸びないんだよ!」
このスキルは、完全なスパルタ方式らしい。
とはいえ、成長を喜んでいる場合ではなかった。
水筒は空で、川へ戻れば狼がいる。
今日中に別の水場を見つけなければならない。
半泣きで森をさまよっていると、大きな葉を持つ植物を見つけた。
皿ほどの大きさがある葉は、巨大な里芋の葉に似ている。その中央の窪みには、雨水らしきものが溜まっていた。
「頼む。頼むから、飲めるやつであってくれ……!」
目立った濁りはなく、変な匂いもしない。
本当なら煮沸した方がいいけど、喉はもう限界だった。
「……腹を壊したら、そのとき考えよう」
恐る恐る水を口に含む。
嫌な味はしなかった。
「……いける! いけるぞ、これ!!」
ほかの葉にも水が溜まっている。
数枚の葉から1枚へ水を集め、どうにか喉を潤せるだけの量を確保した。
「異世界産の天然水、確保!」
狼と鉢合わせせずに水を確保できる場所が見つかり、ようやく胸をなで下ろした。
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv3)》
最高高度:1.5m
滞空時間:1分
第1話を読んでいただき、ありがとうございます!
異世界に来て最初に手に入れたのは《飛行》。
ただし――最高高度50cm。
果たしてこれは、本当に「飛行」と呼んでいいのか。
ユウマの異世界生活は、まだ始まったばかりです。




