1.自由が始まる
「ーーーて」
安らかな闇の中で幽かに揺らぐ灯の音が聞こえる。
「起きて」
闇がわたしを追い出そうと扉に誘う。仕方なく光を覗き込んだ。
「大丈夫?」
特に危険はなかったため、大きく扉を開ける。その先には一つの影が見えた。
「えーっと、話せる...?」
影はわたしを心配そうに見ている。わたしは...
「声が出る。話せる。」
「よかった。じゃあ、そうだ、名前はあるかな」
名前。人間の識別番号。そういうといつも怒られたっけ。
...誰に?
「名前は...mary」
「maryかぁ、いい名前だね」
影は少しずつ形を帯びていく。それは豪勢な装飾を施したシャンデリアの様な圧を放っていた。
「あぁ、僕の自己紹介がまだだったね。僕はndelier。見ての通り怪異だよ」
彼は右手であろう蝋燭を見せ得意げにしている。およそ人間ではないその容姿と匂いに疑問が募る。
「かいい?」
「そう、怪異。maryちゃんはまだ出会ったことがなかったかな?」
わたしが小さく頷くと、彼も何度か頷いて
「怪異って言うのはね、僕みたいに体の一部が何らかのモノになっている人間みたいな生き物のことだよ」
「人じゃないの?」
「人じゃないよ。でも、いきなり人を襲うやつは今時少ないから大丈夫。もし何かあっても僕が守ってあげるからね」
「わたし、弱くない」
少し強がりを言ってみると、なにか彼の気に触れたようで。今までの優しい灯の音とは違う炎の音で
「僕はね、嘘が嫌いなんだ。」
人間じゃない生き物が怒っている。初めて彼に恐怖を覚えた。
「っと、ごめんね。怖かったかな」
「怖かった。でもごめんなさい」
「...良い子だね」
右手の蝋燭をわたしに向けて、何かに気づいたかの様に右手を直す。そしてわざわざ蝋燭ではないほうの手に変えてわたしの頭を撫でている。なんのためなのだろう?それには何の意味がある?
「不思議かな?撫でるっていうのは良い子や可愛い子にすることだよ」
「不思議だった。なんでわかった?」
「これは他の怪異には秘密だよ?僕は相手の感情を色として見ることができるんだ。」
どうやら人間ではないのは容姿だけではなかったようだ。それと、彼はわたしを良い子や可愛い子だと思っているらしいことも分かった。
「さてと、じゃあいこうか。maryちゃん」
突然何の説明もなくわたしを立ち上がらせ手を引いて歩く。
「どこにいくの?」
「どこでもいいんだ。ここにいてもつまらないでしょ?だから、どこかに行くんだよ」
どこでもいい...?
どこでもいいんだ...!わたし、自由にしていいんだ!
ずっと、ずっと言うことを聞かないといけないと思っていた。
聞かないと、あの人に怒られるから。
...でも、何をすればいい?どこに行けばいい?
「わたしは何がしたいの?」
思わず声に出してしまった。
「...そっか、そうだよね。いきなり言われてもわかんないよね」
小さく頷けば、彼はそれより大きく頷いて優しい言葉を返してくれる。
「じゃあ、僕の好きなところに連れて行ってあげるよ!」
また小さく頷く。でも今度はさっきより少し大きく。
わたしの小さな世界は、これからもっと大きくなる。
この小さな一歩は、きっと大きな意味を持つ。
わたしだって前に進みたい。
わたしを、知りたい。
お読みいただきありがとうございます!
本日より連載を始めたいと思います!
連載は月1で必ず投稿しようと思っています。
それとは別で短編も投稿しますのでそちらのほうもよろしくお願いします。




