3章第10話:『ポルターガイスト』
ちょうどAたちが向かおうとしていた三階から悲鳴は聞こえた。その悲鳴が始まりとなり、三階エリアから続々と悲鳴が続く。
「とりあえずいくぞ」
ちらりと後ろの一ノ瀬の方に視線を向けてから、Aがエスカレーターの右側を足早に駆け上がる。
「うん」
一ノ瀬もそれに続いてAとともにエスカレーターを駆け上がる。2人が共に三階へと到着する。
その辿り着いた三階のフロアの家具屋の中では超怪奇的な現象が起こっていた。
「どうなってんだ……家具が浮いてるぞ」
まさしくポルターガイストのように家具屋の大きなベッドが宙にふわふわと浮いていた。その様は明らかに物理法則では説明ができないものだ。
「ぁ、ああ、ぁ」
宙に浮くベッドの前にはおそらく驚いて腰を抜かして、へたり込んでいる若い女性がいた。
「………能力、だよな」
「うん、こんなことできるのは契約者の能力以外ありえない」
Aと一ノ瀬が今現在に起きている現象について話し合っていると目の前のベッドがゆったりと女性の上へと移動する。
そしてそのベッドは浮く力を失ったかのように突然落下した。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
当然先ほど驚いて腰を抜かしてしまった女性は悲鳴だけをあげ、動くことができない。
「はぁ!?ちょっ、ぐっ!あっぶねっ!」
落ちてくるベッドをAが間一髪で女性の前に立って支える。
「おっも!!!」
ギリギリで支えたはいいもののダブルベッドのためなかなかの重量があり、体がぷるぷると震える。
「ちょちょ、大丈夫?A君」
後ろから一ノ瀬が両手でベッドの端を支える。すると途端にAの体にかかっていた重さがさっと消えた。
「よっ、しょい!あとは私が持つよ」
そのまま一ノ瀬はAを追い出してベッドの裏の中央に行って両手で支える。
そのまま両手をベッドの端に移動して床にドンっ!と豪快に下ろした。
「流石天然怪力女……、恐るべし」
「誰が天然怪力女!?ダークナイツに長年いたらみんなこうなるから!私だけじゃないからね!」
一ノ瀬がAの言葉を必死に否定する。その姿は先ほどの馬鹿力を発揮した怪力女ではなく普通の女の子の様だ。
「あ、あの、ありがとう、ございます……」
まだ恐怖が残っているのか歯切れの悪い感謝を女性がする。
「いや、大丈夫です。とりあえず状況を説明してもらえませんか?」
「あ、はい、えと、買い物で家具屋に入ろうとしたら急に入り口のベッドが浮かんで、それで悲鳴をあげて倒れちゃって……」
「なるほど」
見渡すと周りにはさっきのベッドの他にも四つもの家具が浮いていた。その全てに先ほどのように唐突に落下してくる危険性がある。
「とりあえず一ノ瀬はこれを頼む」
Aは一ノ瀬に向けてダークナイツから支給される黒い端末を見せて連絡の意を伝える。
「おっけー!………あ、こちら戦術班第一部隊隊長一ノ瀬。湖筒市のショッピングモールにて契約者の能力を確認。至急、付近の閉鎖と情報統制の準備を」
Aのメッセージを理解した一ノ瀬は手慣れた手つきで端末を操作して本部への連絡を行った。簡潔かつ的確な要請は流石ベテランといったところだ。
「浮遊をしている家具には近づかないでください!突如落下をして大怪我を負う可能性があります!落ち着いて今すぐ離れてください!」
一ノ瀬が連絡を行う間にAは周りの人に警告を出す。Aの警告を聞いた買い物客達はすぐさま家具から離れた。
するとショッピングモールからアナウンスが聞こえてきた。
『えー、ただ今このショッピングモールにて毒物が発見されました。無害化には成功しましたが念のためお客様は全員お帰りください。もう一度いいます、毒物の無害化には成功しましたが直ちにお帰りください。危険はないため焦らずお帰りください』
おそらくダークナイツがショッピングモールの店員に干渉し、嘘のアナウンスを流させたのだろう。
アナウンスを聞いたのかドタドタと客が去っていくのがわかる。さっきの女性もA達の方を一瞬見て、エスカレーターで下の階へ帰っていった。
「これで避難はできるが犯人もこの人の流れに紛れて逃げたんじゃないか?」
「仕方ないよ、犯人もわからないんだし民間人の避難を優先するべきだよ。この辺りに契約者がいるってわかっただけで十分じゃない」
「それもそうか……ん?そこの人、ここから早く帰ったほうがいいですよ」
家具屋の中央に1人の男性が逃げずに立っていた。
「おーい、はやく逃げてくださいー!」
Aが注意するが男は依然動かずじまいだった。その様子に違和感を感じてAがその男に近づく。
「危ないです、よ!?」
Aが男に近づくと油断していたAの腹に向けて蹴りを放った。Aは寸前で体を後ろに折って蹴りを回避する。男の蹴りは空を蹴り、不発に終わった。
「あっぶね!お前、もしかしてさっきの犯人か?」
「………やっぱりその動き。お前、普通の学生じゃないな」
「おっさんも普通のおっさんじゃなさそうだな」
短めの茶髪に無精髭を生やした30後半ぐらいの男がふっ、と笑う。
「ああ、俺は本物の“マジシャン”だからなぁ」
男がそう名乗ると同時に男の周りの家具が一斉に浮き始めた。まるで家具に意思があるかのように自由に動き始めた。
「さあ、ショーの始まりだ」




