表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喫茶リセット 〜今日も、誰かの心をそっと整理します〜  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/55

第55話「途中のまま」


 午後三時。

 店内は、昼と夕方のあいだの静けさに包まれていた。


 ドアが開き、若い女性が入ってくる。

 肩からトートバッグを下げ、少しだけ疲れた顔。


「いらっしゃいませ」


「……コーヒー、お願いします」


 席に座ると、彼女はバッグの中から一冊のノートを取り出した。

 端が少し折れている。


 開いたページには、途中で止まった文章。


「書いてたんですけど」


 ぽつりと言う。


「途中で、止まっちゃって」


「はい」


「何を書きたかったのか、

 わからなくなって」


 運ばれてきたコーヒーの香りが、わずかに空気を和らげる。


「完成させなきゃって思うほど、

 書けなくなるんです」


「そういうこともあります」


「途中のままって、

 気持ち悪くて」


 彼女は苦笑する。


「投げ出したみたいで」


「終わらせることだけが、

 答えとは限りません」


「でも、途中って……」


 言葉が止まる。


 ノートのページをめくる。

 どのページも、どこかで止まっている。


「全部、中途半端で」


「それでも、

 ここまでは書かれています」


 静かにそう言う。


「……」


「途中で止まるのは、

 そこまで進んだからです」


 彼女は少しだけ顔を上げた。


「進んだから、止まる……」


「何も始まらなければ、

 途中もありません」


 コーヒーを一口飲む。

 少しだけ、表情が緩む。


「このノート、

 どうしたらいいですかね」


「閉じてもいいですし、

 別のページから始めても」


「別のページ……」


「続きでなくても、

 いいかもしれません」


 彼女はしばらく考え、

 ノートの真ん中あたりを開いた。


 白いページ。


「ここからでも、いいですか」


「ええ」


 ペンを取り出す。

 少しだけ迷いながら、最初の一行を書く。


「……書けました」


 小さく笑う。


「さっきまで、書けなかったのに」


「場所が変わると、

 始まりも変わります」


 彼女は何行か書き進めてから、ペンを置いた。


「今日は、ここまでにします」


「はい」


「途中ですけど」


「途中のままで」


 ノートを閉じる音が、やわらかく響く。


「また、続きを書きに来てもいいですか」


「いつでも」


 彼女は軽く会釈し、店を出た。


 喫茶リセットでは、

 途中のままのものも、

 そのまま置いておける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ