表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
喫茶リセット 〜今日も、誰かの心をそっと整理します〜  作者: 蔭翁


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/56

第52話「読みかけの本」



 静かな午後だった。

 ページをめくる音さえ、よく聞こえるような時間。


 喫茶リセットのドアが開き、

 一人の男性がゆっくりと入ってきた。


 手には、一冊の文庫本。

 カバーは少し擦れている。


「……コーヒーを」


「はい」


 男性は席に座ると、本をテーブルに置いた。

 しおりが、途中のページに挟まっている。


「それ以上、進まなくて」


 コーヒーが置かれると同時に、彼は言った。


「面白くないわけじゃないんです。

 むしろ、好きで」


「では、なぜ」


「終わるのが、

 もったいなくて」


 しおりの位置を指でなぞる。


「ここで止めておけば、

 ずっと続いてる気がして」


 マスターは、カップを静かに置いた。


「閉じたままでも、

 物語はそこにあります」


「でも、読まなければ、

 知らないままですよね」


「ええ」


 男性は、少し考えた。


「昔から、

 好きなものほど最後までいけないんです」


「終わりを、

 受け取りたくない」


「はい」


 コーヒーを一口飲む。


「……苦い」


「最後まで飲めば、

 味は変わります」


 男性は本を手に取り、

 しおりを抜いた。


「少しだけ、

 読んでみます」


 ページをめくる音が、静かに響く。


 数ページ。

 また数ページ。


 やがて、彼は本を閉じた。


「……まだ途中ですけど」


「はい」


「でも、

 さっきより怖くない」


 しおりを少し先のページに挟み直す。


「終わりは、

 一気じゃなくていいんですね」


「少しずつで」


 カップを見つめる。


「これも、

 ゆっくり飲めばいいか」


「ええ」


 最後の一口を、少し時間をかけて飲む。


「……ちゃんと、飲めました」


「それで十分です」


 立ち上がり、本をバッグにしまう。


「また続きを読みに、

 来てもいいですか」


「いつでも」


 ドアが閉まり、

 静かな午後が戻る。


 喫茶リセットでは、

 読みかけのままの物語も、

 無理に終わらせることはない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ