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第1話 はじめての日

今日も頑張る、派遣さん。


 新しい派遣先の初日で、いつもより少し早く家を出た。

 アットホームな職場だと聞いていたけれど、本当かなと少しだけ疑っている。


 電車の中で、何度も頭の中で自己紹介を繰り返す。


「派遣の鈴木愛です。よろしくお願いします」


 これで大丈夫、と自分に言い聞かせる。


 会社の前で立ち止まり、深呼吸をひとつしてからドアを開けた。


「おはようございます」


 思ったより少し高い声が出てしまって、内心で小さく反省する。


 部署に入ると、一瞬だけ視線が集まり、すぐにそれぞれの画面へ戻っていった。

 その流れに、どこか見覚えがある。


 部長がにこやかに近づいてきた。


「うちはね、派遣とか関係ないから。みんな仲間だと思ってるから」


 いい人そうだなと思いながら、その言葉に少しだけ期待してしまう。


 ここなら、違うかもしれない。


「派遣の鈴木愛です。よろしくお願いします」


 頭を下げると、何人かが短く返してくれた。

 それ以上は続かなかったけれど、それでも少しだけほっとする。


 席に案内されると、通路側で誰でも声をかけやすそうな場所だった。

 ああ、ここか、となんとなく納得してしまう。


 パソコンの電源を入れて、渡された紙を見ながらログインする。

 一度弾かれて、もう一度入力する。


 少し迷ってから、もう一度試すと、今度はすんなり入れた。


 小さく息をつく。


 午前はあっという間に過ぎて、お昼の時間になった。


 周りの人たちが自然に立ち上がって、「お昼行こー」と声をかけ合っている。

 その流れにうまく乗れず、少しだけ席で様子を見てしまう。


 ここで食べていいのか、それとも別の場所があるのか分からない。


 なんとなく落ち着かなくて、お弁当を持って席を立った。


 廊下に出て、少し迷う。


 やっぱり迷ってしまった。


 見つけた休憩室の扉を開けると、中には誰もいなかった。


 正解かどうかは分からないけれど、とりあえず座った。


お弁当のふたを開けて、一口食べる。


 少しだけ、安心した。


 まあ、こういう日もあよね。


 午後も頑張ろうと思いながら、ゆっくりと箸を進めた。


 休憩時間が終わって席に戻った、そのときだった。


「これ、派遣さんにやってもらって」


 部長の声が聞こえた。


 やっぱり、名前じゃない。


「あ、これお願いします」


 差し出された資料を受け取る。


「助かります」


 丁寧な声だった。


 いい人なんだと思う。

 ほんとに、いい人。


 でも。


 やっぱり、と思う。


 ここでも、


 派遣さん、か。


 知ってたけどね。


 ――心の中では、お金さんと呼ばせていただきます。

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