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愛を乞う少女は、漆黒の泥で世界を壊す  作者: ちぇるしー


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24/24

24.身に纏う勇気

残されたのは、

手の中にある服と、鏡に映る私だけ。


「……どうしよう」


思わず小さく呟く。


手元にある服へ視線を落とし、

恐る恐る今の服を脱いで、新しい服へ腕を通していく。


──温かい……これって。


肌に触れるたび、

ふんわりとした熱が布越しに伝わってくる。


すぐに気づいた。

この生地には、きっと魔法が縫い込まれているのだろう。


テオの言っていた意外と丈夫というのは、

このことなのかもしれない。


魔法の感覚が少しずつ馴染んできたせいか、

違和感よりも、安心感の方が胸に広がっていった。


「いつぶりかな……」


──こんな綺麗な服を着るのなんて。


その言葉と一緒に、

過去の私が頭をよぎった。


綺麗な服を着て、

求められた表情をし、カメラに向けて微笑む。


それは、嘘の塊でしかなかった。


チクリと痛む胸に手を当てながら、

私は床に脱ぎ落とした破れた服を見下ろし

ゆっくりとしゃがみ込み、それを手に取る。


この服には、苦しみも、ここに来てからの不安も、

全部が染みついている気がした。


布の裂け目に指を滑らせると、

あの日の痛みまで一緒に蘇りそうで、すぐ手を止めた。


──捨てたい。


そう思ってはいるのに、すぐには手放せなかった。


この世界にはない、あの人との唯一の繋がり。

未練なんてない……


そう思いたいのに、胸の奥がきゅっと痛んだ。


優しかった日の記憶まで全部なかったことにできるほど、

私はまだ強くない


──だけど……


「……もう、大丈夫」


破れた服を胸元に抱き寄せる。

けれど、今までみたいに縋るためじゃない。


ちゃんと終わらせるために。


私は小さく息を吸って、

破れた服をそっと畳んだ。


その時、試着室の向こうから、待ちきれない声が飛んでくる。


「るなー!? まだー!?

絶対似合うから早く見せてよー!」


その声に、肩の力思わず抜けた。


「……今行く」


返事をしてから、

鏡の中の自分をもう一度だけ見た。


気づけば私は、

あの頃とは違う、少しぎこちない笑みを浮かべていた。


──これでいいんだ今は


小さく息を吸って、私は試着室の扉を開けた。


「……どう、かな」


声に出した瞬間、急に恥ずかしくなり、思わず視線を下げる。

けれど、目の前のテオは数秒ほど固まったまま、

何も言わなかった。


「……テオ?」


不安になって顔を上げると、

テオははっとしたように目を瞬かせたあと、

ぱっと表情を明るくした。


「めっちゃいい!! すっごい似合ってる!」


「ほ、本当……?」


「本当本当! ほら、やっぱり俺の目に狂いはなかった!」


そう言いながら、なぜか誇らしげに胸を張る。

猫耳の店員さんも嬉しそうに手を合わせた。


「やっぱりお似合いですね。白い肌に、映えますね!」


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


褒められることには、慣れていたはずだった。

それなのに、今は少し違う。

作った私ではなく、

素の私を受け入れてもらえたような気がした。



「……ありがとう」


小さくそう言うと、テオは満足そうにうなずいた。


「よし、じゃあこれにしよっか!」


「えっ……」


その言葉で、現実へ一気に引き戻される。

久々の事で舞い上がりすぎていたが、

この世界のお金の価値も分からず、

そもそもお金の一枚すら持っていない。



「クエスト頑張ってこれ買いにくる!また来よう!」


私は慌ててそう言うと

店員さんに会釈し、テオの手をひくが全く動く気配がない。

振り返ると、テオはきょとんとした顔をし、

当たり前みたいに首を傾げた。


「え? 買うよ?」


「……え?」


「だって服ないんでしょ?

ギルド行くんでしょ?必要経費じゃん」


あまりにも軽く言われて、

私は言葉を失った。


「で、でも……」


「気にしなくていいって。

それに俺が無理に連れてきたんだし」


そう言って、テオはにっと笑う。


「それに、るながこれから稼げるようになったらさ、

次は堂々と好きな服を選べばいいじゃん」


「……」


「これは最初の一着。

これから歩くために必要なやつ」


テオは少しだけ胸を張って、得意げに笑った。


「先輩からの初期装備ってことで、受け取っときなよ」


きっとテオは、

私が受け取りやすいようにそう言ってくれている。



ただ買ってあげる、ではなく。

施しでも、同情でもなく。


私がこの世界で生きていくことを、

当たり前みたいに信じてくれている。


それが、凄く身に染みて嬉しかった。


「……ありがとう」


「どういたしまして。じゃ、これで決まりね」


テオは満足そうに笑うと、店員さんの方へ向き直った。


「じゃあ、これで!あと、着ていきます!」


店員さんが服の調整や支払いの準備を進めている間、

私はもう一度だけ、鏡の中の自分を見た。


肩には、マントを羽織り、

その下にある新しい服は、華やかに私を彩っていた。

ただ身体を覆うためだけのものじゃなく、

この世界で、私がちゃんと歩いていくための服だ。


支払いを終え、店を出ると、

いつもより見える景色が少しだけ輝いて見えた。


見慣れない街並み。

行き交う人々。

石畳を踏む自分の足音。


全部がまだ怖い。

知らないものばかりで……

どこに視線を向ければいいかも分からない。


けれどこの服が

私の背中を押してくれてるきがしていた。


それだけで、笑顔になる。

私に今まで足りなかったもののひとつだったのかもしれない。


「よし!」


隣でテオが大きく伸びをする。


「じゃ、このままギルド行こっか!」


「えっ、今から?」


思わず足を止める。


「明日って言ってなかった……?」


「言ったけど、準備できたなら今日でもよくない?

まぁノルンとアッシュには勝手に行動するなっ!ていわれそうだけーど!」


軽い声。

でも、その奥にある気遣いには気づいてしまった。


きっとテオは、私が考えすぎて怖くなる前に、

次の場所へ連れていこうとしてくれている。

私は新しい服の裾を、そっと握った。



「……うん」


小さく頷くと、

テオがこちらを覗き込んだ。


「大丈夫?」


私は一度、深く息を吸い、また

不器用な笑みをしていたかもしれない。


「行ってみたい」


その言葉に、

テオは嬉しそうに笑った。


「よし。じゃあ、初ギルド登録だ!」


歩き出したテオの隣で、

私も一歩を踏み出す。


新しい服の腰布が、

風に揺れて小さく音を立てた。


──隠れるためじゃなく。


進むために。


私は、ギルドへ向かって歩き出した。




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