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死なずの国  作者: 群星
第二章
31/32

双頭の邪眼

「邪眼の蛇が現れたのは半月ほど前になります。人間には馴染みが薄いと聞きますが、我々は蛇を食います。加えて春は繁殖期にあたるので、村の男は競って蛇を狩ろうとしたのですが……邪眼の蛇によって、村の男は半分に減りました」

「半分も……」

「卵を産む前に母親には十分な栄養をつけさせねばなりません。しかし今この状況では、今年の子は……孵ることができたとしても長くは生きられないと思っております」

「非常によろしくありませんな。このまま災いが重なれば村の存続が危ぶまれます」

「ティール殿の仰る通りです。一刻も早くあの蛇を倒さねば、我々は動くこともできぬのです」


 村に活気が無いこと、そもそもの村人の数が少ない事の理由がこれであった。翼人(ガルダ)というのはマナフの言う通り、蛇を好んで狩る亜人である。一説には白竜の眷属であるとされ、これは白竜は羽毛に覆われた竜であったからだとされるが、いずれにせよ人間に比べて神秘的な生物であるのに違いは無い。それ故か、翼人は蛇の毒に対する抗体を持ち、蛇の魔物を狩るならば人間が隊列を組むよりも翼人に依頼する方が早いと評判だ。

 しかし、存亡がかかるとこれまでのように動けないのは人間も翼人も変わらない。


「マナフ殿、邪眼の蛇は一匹だけでしょうか」

「ええ。一匹ですが……無事だった者の言では、双頭の蛇だとか」

「……?」

「アルカイオス、そうだったのか?」


 アルカイオスは邪眼の蛇を見ている筈だが、難しい表情をしている。


「いえ……あの時は殺気を感じて頭を下げたので、ほとんどその姿は見えなかったのです」

「なんと……! その方は邪眼の蛇と相対していたのですか!?」

「相対したなどと言えるものではありません。死なずに済んだのも偶然でしょう」

「それでも生きているのには変わりません。アルカイオス殿、でしたか。どのようにして邪眼を持つとお気付きになられたのですかな?」


 アルカイオスは短剣を投げるとそれがみるみるうちに崩れたことを話す。するとマナフは眉間に皺を寄せて考え込んでしまったが、ティールはなるほど、と指を立てた。


「常なら有り得ぬ事ですが、どうやらその邪眼の蛇は二つの邪眼を持つようですね」

「……やはり、そうなりますな」

「え? それって、なにか変なの?」


 ニーシュブルは小首を傾げる。そもそも頭が二つある生き物の時点で珍しくはあるが、別々の頭である以上持っている邪眼も違うもの、と考えるのはおかしなことでは無い。しかし人ならざるものの領域では、そのような普通の考えは通用しないものであった。


「そうだな……ニーシュブル、例えば、この飲み物は生姜と蜂蜜が混ざった味の飲み物だね」

「はい、アフラさま」

「混ざった味は、それぞれに戻すことはできないだろう? 魔法の分野も同じなんだ。ひとつの存在である以上、複数の性質を持つことはまず無いんだよ」

「なるほど!」

「なるほど……」

「ほう、ほう。それでは……邪眼の蛇は、『物質の崩壊』と『生物の破壊』の邪眼を持つと仮定して、どう対処するかですな」


 その時、洞の入口で羽音が聞こえる。誰かが来たようだ。


「じーちゃん! 呼んだー?」

「おお、スウィ。こちらにおいで」


 バタバタと慌ただしく入って来たのは鮮やかな黄色の羽が特徴の少年だった。人間が珍しいようでまじまじとアフラを見るものだからマナフに軽く窘められる。


「こら。挨拶をしなさい」

「あっ、ごめんなさい。おれはスウィ! ガルダの中で一番速く飛べるよ!」

「詳細はこれから詰めますが、ひとまず連絡役としてこの子を付けます。スウィ、お前にはこの方々と我々がやり取りする手紙などを運んでもらうからの」

「わかった! 任せて!」

「今から山を下りるのは危ないでしょうし、今夜は泊まっていってくだされ。スウィ、案内を頼むよ」

「はーい!」

「ありがとうございます、マナフ殿」

「お客さん来るの久しぶりなんだ! こっちだよ!」


 待ちきれないといった様子でスウィはぴょこぴょこと跳ねる。つられて洞から落ちないよう外に出ると大人の翼人が数人、洞に入って行くのが見えた。

 

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