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王宮の獣護 ―日常―  作者: 夜夢子


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お揃い日和★

【登場人物】

フーリェン(19)…双子の弟。愛称はフー。

ジンリェン(19)…双子の兄。愛称はジン。

獅子の男…名前はランシー。

狼男…名前はシュアンラン。

双子とは、不思議な生き物である。


「「……おぉ」」


揃った声。揃った動き。


ゆらりと揺れた白色の尾。


「揃ったな」

「揃ったね」


繋ぐタイミングも一致する。


麻布の上着と、軍で支給される紺色の下履き。


示し合わせたわけではない。


「……まあ、そんな日もあるよな」

「うん。そうだね」


どちらともなく歩き出す。目指すは食堂。今日の昼餉は魚の入ったシチューだと、ついさっき獅子の男が言っていた。

 


「……お?」


間抜けな声に揃って首を傾げる。


「お前らお揃いじゃん。合わせたのか?」

「「いや、たまたま」」


ガハハと笑う獅子の男に返す言葉もピタリと重なる。


合わせたわけではない。


「おいジンリェン、ちょっと横詰めてくれるか」

「僕フーリェンだよ」

「おっとすまない。頭しか見てなかった」


隣にどかりと腰を下ろした老兵に頭をくしゃくしゃと撫でられる。


「並ぶとどっちがどっちか分からないからなぁ」


そう言って笑う男たちへと小さく溜息をつきながら、スプーンを口に運ぶ。


うん。今日も美味しい。


「正面から見たら一目瞭然なんだけどな」

「そうなのか?」

「おう。ジンの方が睫毛が長ぇし、フーは目が大きいからな」

「へー。そうなんだ」


改めて違いを言われても、正直あまりしっくりこない。


「よっ。全員揃うの珍しいな……って、お前ら服揃えたのか?」

「「揃えてない」」


このやり取りも二回目。もうどうでもいい。


向かいの席へと腰を下ろした狼男へと軽く視線を向けてから、ちらと隣に目をやる。


琥珀と、かち合った。


「……なに」

「いや、なんか……久しぶりだなって思って」

「何が?」

「こうやって、並んで飯食うの」

「……確かにそうかもね」


最近何かと忙しかった。非番が重なるのも数ヶ月ぶりのことである。


「お前ら午後はどうするんだ?」

「んー……何も決めてない」

「僕も」


魚の身を崩しながら答えると、獅子の男は愉快そうに牙を見せた。


「折角非番なんだし、二人で出かけてきたらどうだ?」


外出。たまにはそういうのもいいのかもしれない。


でも王都か……。


視線は自然と互いの衣服へ。


「いや、さすがに……」

「これで行くのは恥ずかしい……」


苦笑いの兄につられて微笑が浮かぶ。


「だよな。いい歳した成獣のやる事ではないな」


じゃあさ、と。向かいでやり取りを聞いていた狼男がにこりと笑って別の案を出してくれた。


「久しぶりに、"実家"に帰るってのはどうだ?」

 

――――

キィと音を立てて、扉が開いた。


視界に入るのは、二脚の椅子と丸テーブル。その横に置かれたやや大きめのベッド。


柔らかい日の当たる小さな部屋。


僕とジンの、"帰る場所"。


「二人で戻ったの何年ぶりだ?」

「僕が護衛になってからだから……三年? くらいじゃない」

「もうそんなになるか」


懐かしいな。そう言って彼が手に取ったのはくたくたになった狐のぬいぐるみ。


「ほら、お前の"お友達"」

「ありがと」


受け取ってじっと見つめる。何度も縫い直された跡。ジグザグの糸。


尻尾がちぎれる度に泣いては、ジンを困らせた。


「フーリェン」


名前を呼ばれて顔を上げれば、ポンポンと隣へ座るよう促される。彼の手に従ってベッドの縁に腰を降ろすと、どこから見つけてきたのかボロボロになった図鑑を膝の上に乗せられた。


二人で表紙を捲る。


乾いた音を立てながら進めていくと、やけに柔らかいページに目が留まった。


角は丸く、端は白く擦れている。


「……このページさ」


雪原に立つ獣の挿絵。

陽の光を受ける長い尾。

金色の瞳。


「ここだけ開き癖ついてる」

「そりゃ毎日見てたからな」


懐かしそうに笑いながら、彼の指先が紙の端を撫でた。


「お前、寝る前になると必ずこれ持ってきた」

「そんなだった?」

「正直読み過ぎて飽きてた。多分目瞑ってても読める」

「ごめんって。……ちょっとやってみてよ」

「任せとけ」


冗談のつもりで言ったのだが、ジンは信じられないくらいサラサラと文字をなぞった。


全く覚えてはいないが、相当せがんだのだろう。


少し、申し訳なくなった。


「……でも、嫌じゃなかった」


最後の一文を空で言い終わると、彼は続けた。


「お前の『もう一回』を聞くのが、多分俺好きだったんだ」


目を開いたジンが、くつりと笑った。


「毎回同じところで目を輝かせるから」

「……僕は、ジンの声が好きだった。読んでもらうのも嬉しかったけど、実を言うとジンの声を聞きながら寝るのが好きだったんだ」

「……そうだったのか。全然知らなかった」

「今初めて言ったからね」


ジンは可笑しそうに肩を揺らした。



気付けば、窓の外は茜色に染まり始めていた。


「そろそろ戻るか」

「うん」


立ち上がり、部屋を出ようとして。ふと、視線がぶつかった。


「……フー、それ」

「ジンこそ」


同時に零れた声。


互いの手には、くたびれた図鑑。


持って帰ろうとしていたことまで、同じだった。


数秒の沈黙。


次の瞬間、どちらからともなく吹き出した。


「やっぱ双子って、不思議だよな」

「そうだね」


ゆらりと、白色の尾が揃って揺れた。



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