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浴場

月は雲の切れ間に覗き、薄い光が兵舎の屋根を静かに照らしていた。兵士たちが寝静まった深夜。兵舎の最奥にある大浴場には、誰の気配もなかった。いや、少なくともついさっきまでは——。


脱衣所の片隅。棚に畳まれた隊服の隣で、フーリェンは無言のまま立っていた。すでに上衣は脱ぎかけており、白い狐の尻尾が一つ、腰の後ろで緩やかに揺れている。冷えた空気が肌に触れ、わずかに鳥肌が立ったが、彼は気に留めた様子もなかった。


この時間帯は、誰にも邪魔されない。

いつからか、それが“習慣”になっていた。賑やかな兵たちの喧騒や、視線、会話、気配——すべてを気にせずに、静かに湯に浸かる時間。任務も、護衛も、指導もない、ただの一個人に戻れる束の間の場所。


白いシャツの袖に手をかけたその瞬間——


「……うおっ!」


木の扉が音を立てて開き、男の声が脱衣所に飛び込んでくる。無言で振り返ると、そこには赤茶の髪をくしゃくしゃにした男、ランシーが立っていた。肩から無造作にバスタオルをかけ、隊服の前は半ば外れかけている。どうやら眠気を引きずったまま、惰性で浴場へと足を運んだらしい。が、その目は、フーリェンの姿を認識した瞬間、ぱちりと大きく見開かれた。


「…えっ、おま、…フー!」


その顔は、まさに「不意打ちを食らった」男のそれだった。湯けむりの匂いがふわりと鼻をくすぐる中、フーリェンは一瞬だけまばたきをし、静かに視線を戻す。


「……大声出すな」


淡々とした口調だった。感情の起伏は薄い。ただ、その目の奥に、わずかに「どうしてこの時間に」という色が滲んでいた。


ふたりの間に、沈黙が落ちた。

湯場のほうから、少しだけぬるく、どこか心地よい夜の空気が脱衣所に漂っていた。


「……いや、俺、最近タイミング合わなくてさ。昼間は新兵の訓練に付き合わされるし、夜は書類仕事あるし……気が付いたら、こんな時間で」


ランシーは後頭部をぽりぽりと掻いた。いつものような軽口の調子ではあったが、どこか探るような、気まずさを押し隠すような声音だった。


そして、ふと目を逸らして——


「……時間、ずらそうか?」


その言葉には、いつもの陽気な獅子らしからぬ、遠慮の色が混じっていた。「獣人のくせに気配が薄い」と冗談めかして言われるフーリェンに、彼は今まさに気配で負けている。


フーリェンは言葉を返さず、少しだけ目を伏せた。脱ぎかけていたシャツの裾を持ったまま、しばし考えるように沈黙。やがて、首を横に振る。


「気にしない。……お前がいいなら」


その一言は、無関心のようでもあり、どこか「許容」の響きもあった。ランシーは一瞬まばたきし、それから息をついた。


「……そっか」


そうして、ようやく肩の力を抜く。脱げかけていた隊服を脱ぎ、棚の上に畳む。鍛えられた体が湯気に浮かび上がるたび、獅子の尾がゆっくりと揺れた。


狐と獅子。

互いに干渉しすぎず、けれど無視もできない関係。そんなふたりが、言葉少なに並び立つ、深夜の大浴場。ふわりと立ち上る湯気の向こう、また水音が静かに響いた。







白い湯気が立ちこめる浴場には、ぽつり、ぽつりと水の滴る音が響いていた。天井から吊るされた灯籠がほのかに揺れ、温かな光が水面に滲んでいる。

 

湯船の中ほど肩まで湯に浸かったフーリェンは、静かに目を閉じていた。無駄な力の抜けた姿勢でただじっと湯に沈んでいるその姿は、昼の軍務のときよりも年若く、どこか儚げにすら見えた。湯に浮かんだ白い尻尾が、湯に揺られながらゆるやかに弧を描いている。


その少し離れた位置に、ランシーがいた。背を湯船の縁に預け、天井をぼんやりと見上げながら、時折、水面を指ではじくようにして波紋を広げていた。


会話はなかった。けれど、それが気まずいものではないことは、互いに理解していた。

沈黙が満ちる空間の中で、ふとランシーが口を開く。


「なあ、フー」


湯気にまぎれて、掠れた声だった。返事はない。ただ、フーリェンの耳が僅かに揺れた。


「……なんで、そんなに時間、ずらしてんだ」


淡く、けれど真正面から投げられた問いだった。


フーリェンは目を開け、ゆっくりとランシーの方へ視線を向けた。その琥珀色の瞳には、驚きも拒絶もなかったが、ほんの少しだけ、夜の水面のように揺れていた。


「……人がいない時間が、落ち着く」


それだけを言って、また目を閉じた。

ランシーはそれ以上追及せず、湯の中で脚を伸ばした。


「……そっか。まあ、誰もいなきゃ、気も遣わなくて済むしな」


その言葉もまた、深く掘り下げるような響きはなかった。

 

フーリェンは任務の内容に合わせて、姿を変える。王宮にいるときは白狐の弟として、凛とした佇まいの直属護衛兼第四軍隊長として生活してはいるが、もとの顔立ちも相まってその”立ち位置”は曖昧である。そのため、着替えのときも、風呂のときも、他者との距離感には細心の注意を払っていることを、ランシーは知っていた。だから、ランシーは黙っている。知っているのに、知らないふりをする。


「……」


フーリェンは言わなかった。理由も、不安も、迷いも。けれど、その沈黙こそが、答えだった。

湯の温度が少し下がった気がして、ランシーは肩まで沈み直した。


天井から吊るされた灯籠の光が、湯の表面を金色に照らしていた。湯気の向こう、世界はぼやけ、声すらもやがて溶けて消える。


フーリェンは肩まで湯に浸かりながら、ふと、指先を見つめていた。湯に濡れたその白い肌は、誰のものでもないように思えた。男でも、女でもない。自分ですら、触れるたびに「どちらなのか」わからなくなる。


ぽつりと、声が落ちた。


「……時々、わからなくなる」


それは、誰に向けたものでもなかった。けれど、隣にいたランシーが、それを拾った。


「なにが?」


問いは静かだった。踏み込まず、拒まず。ただそこに置くような声音だった。


フーリェンは、少しだけ視線を動かした。その瞳が、ゆるやかに湯の中を揺らいだ。


「湯に入ると、触れる感覚が少しずつ違ってて、どこまでが“自分”なのか、よく分からない」


言いながら、指先で自分の鎖骨をなぞる。その仕草すら、本人にとっては探るような行為に見えた。

湯気が間を遮り、顔ははっきりとは見えなかったが、ランシーは言葉を挟まなかった。

否定も、慰めもしない。けれど、たしかに聞いていた。


数秒の沈黙。


不意に、湯がざぶりと揺れた。


「よし。わかった」


突然、ランシーが湯船から立ち上がった。湯気をまとった筋肉質な体が湯から現れ、堂々と歩き出す。

それを目で追っていたフーリェンが訝しげに目を細める。


「何が“わかった”んだ」

「考えすぎだ、お前は。とりあえず——」


言いながら、ランシーはフーリェンの腕を掴んだ。濡れた腕をためらいなく引き寄せる。


「今日は俺が、髪洗ってやる」


「……は?」


そのあまりの唐突さに、フーリェンの表情が一瞬、わずかに素で崩れた。けれど、ランシーは気にすることなく、そのまま引き上げにかかる。


「…おい、やめろ」

「うっせぇ。お前、こういうときこそ人に任せろ。黙って背中向けてりゃいいの」

「……髪は、自分で洗える」

「そりゃ知ってる。でも今日は、俺がやりてぇの。聞け」


ほとんど強引に湯から引き上げられたフーリェンは、抵抗しつつも力を抜く。


「……乱暴だ、お前」

「ありがとなー、それ褒め言葉として受け取っとくわ」


そう言って、ランシーはフーリェンの肩をぽんと叩き、洗い場の方へ連れて行った。

湯気の向こう、ふたりの影が重なる。獅子の背に、狐の白い尾がそっと触れた。

桶から湯をすくい、髪をしっとりと濡らす。ランシーの大きな手がフーリェンの頭に載せられ、ごしごしと泡立てるようにして洗われ始めた。

それはもう、容赦ない力加減だった。


「……力、強すぎる」

「ん? あ、すまん。お前の毛、思ったより柔らかくて手応えないから、ついな?」

「“つい”で耳をちぎるな」

「大丈夫大丈夫、ちぎれてねぇから」


適当な返事をしながら、ランシーは泡だてた手でごしごしと頭皮を擦る。無造作で、まるで仔獣の毛をわしわし洗っているような勢いだ。


「……前から気になってたけどさ、お前、洗髪材何使ってんの? すげぇ、なんか……いい匂いするな。薬草系?」

「……共用のやつと変えてる。シュアンが、くれた」

「へぇ……あいつ、そういうの気が利くよな。てか、よく考えたらこの状況、やばいか…?」

「……知らない」

「…ばれたら連帯責任な?」


そんな軽口を叩いていたランシーの手が、フーリェンの耳の根元に触れた瞬間だった。


もこっ——と、泡が耳の中に流れ込んだ。


「……っ、ちょっ……ま、待って……」

「ん? どうし——」

「耳に入る! 泡、耳に入ったっ……!!」


その瞬間、フーリェンが珍しく声を上げた。ぴょこんと狐耳が跳ね、濡れた尻尾まで膨らむ。湯の縁に手を突きながら、頭を振って泡をなんとか振り払おうとするその姿は、らしくないほど動揺していた。


「うっは、マジか! お前がそんな声出す日が来るとは……くくっ……!」


ランシーは腹を抱えて笑いながら、慌てて湯をすくい直す。


「ごめんごめん、悪かったって! ほら、もう一回流すから! 頭下げて!」

「……お前、加減ってものを……っ」

「悪かったって」


湯気の中に、珍しく賑やかな笑い声と軽い水音が響いた、そのときだった。


——がらり。


浴場の扉が、軋む音を立てて開いた。

ふたりの動きが、ぴたりと止まる。

くるりと視線を向けたその先。


湯気の中、狐と獅子が、揃って固まった。


「…………なにしてるんだ」


その声は、静かだった。けれど、どこか底冷えするような凍りつく温度を帯びていた。


振り返った先に立っていたのは、扉を開けたばかりのシュアンラン。その横で、すぐに事情を把握したジンリェンが、無表情のまま弟を見つめていた。


フーリェンの耳は片方泡にまみれ、髪もくしゃくしゃ。洗い場の椅子に座り込んだまま、濡れた尻尾が不安定に揺れている。その背後には、手にまだ泡をつけたままのランシー。わかりやすすぎる“現場”。


しばしの沈黙。


(ああ、終わった……)


と、フーリェンは一瞬で悟った。耳の中に泡が入ったことよりも、シュアンランにこの状態を見られたことの方が何倍も動揺する。


「……っ、……シュアン」


慌てて声を発してみるも、珍しく動揺を隠しきれず語尾が掠れる。


「耳に、泡が入っただけで……ランシーが勝手に……」


言えば言うほど泥沼だとわかっているのに、止まらない。そんな様子を見ながら、ジンリェンはくっと喉の奥で笑いをこらえた。表情こそ崩さなかったが、フーリェンを見つめる目がわずかに揺れる。


「……耳に泡?」

「……ジン」

「何焦ってるんだ?…耳に泡が入っただけなら何も問題ないだろ?」


言いながら、口元に浮かびかけた笑みを腕で隠すようにして、彼は顔を背ける。

その姿は、普段滅多に見られない弟の取り乱した姿に、少しばかり“兄としての余裕”を楽しんでいるようだった。


——問題は、隣に立っている男だった。


シュアンラン。冷たい瞳が、まっすぐにフーリェンとランシーを見据えている。


「……なにをされていたんですか、ランシー殿」


穏やかな口調。それが余計に怖い。フーリェンが慌てて振り返ると、ランシーはすでにわずかに後ずさっていた。


「いや、あのな……誤解だ、完全に。ちょっと泡が跳ねたのと、俺の手が調子に乗って……」


必死に何かを言いながらも、ランシーの尾は明らかに“撤退の構え”を取っていた。逃げるべきか、平謝りするべきか、戦場でも見せないほどの真剣な目つきで状況を読んでいる。


「シュアン……僕がただ耳に泡が入ったのに驚いただけで……!」


フーリェンも珍しく必死だった。普段は誰にも感情を見せない彼が、耳まで赤くして早口で説明している。


シュアンランは、それを黙って聞いていた。じっと、ただじっと。静かな怒りが、湯気よりも濃く浴場に満ちていく。そして静かに背を向け、その場を去ろうとする。


——怒っていた。

声も荒げず、責めることもせず、それでも確実に“怒っていた”。


「……やばい」


珍しく、本気のトーンでフーリェンが呟く。一歩後ろでそれを聞いたランシーも同時に呟いた。


「……俺もやばい」


フーリェンの頭の中では、謝罪の段取りと関係修復の言い訳が高速で並んでいた。

そのまま、シュアンランが扉に手をかけた——と思ったそのとき。


「……ぷっ」


何かが漏れた。


「……ふふっ……くくっ……」


振り返ったシュアンランの肩が揺れていた。顔を手で隠しながら、震えるように、息を押し殺すように笑っている。


「お前……ふふっ……いや、ごめ……耳に泡って……!」


ついに耐えきれず、シュアンランは腹を抱えて笑い出した。あの冷気すら帯びていた沈黙はどこへやら、肩を震わせて笑うその姿に、場の空気があっという間に変わる。


「……っ、え……」


その様子に固まるフーリェンは、ぽかんとしたまま、シュアンランの顔を見つめていた。


「え、ちょ、お前……怒ってなかったのか……?」


ランシーも状況を飲み込めず、湯桶を持った手を中途半端に宙に浮かせたままだ。


「ふふっ……いや、最初からだいたい察してたけどさ……でもお前ら、あまりに動揺するから、ついノッちまった」


シュアンランはそう言って、やんわりと笑った。鋭さの奥に、しっかりとした余裕と優しさが滲んでいる。


「……お前、性格悪いな」

「………」

「……ジンも、なんか言えよ」


視線を向けると、湯気の向こうでタオルを肩にかけたジンリェンが、無言でこちらを見ていた。


「なかなか面白かったぞ」


さらりと、そしてどこか楽しげに言いながら、ジンリェンはそのまま近場の桶で湯をすくい、足を浸した。続いてシュアンランも入り、フーリェンとランシーの隣へと腰を下ろす。


さすがにもう恥ずかしさが隠せず、フーリェンはタオルで顔を覆ったまま、小さく呻いた。


「……髪、流す。泡、残ってる」


その一言に、ランシーが手を伸ばす。


「流してやるよ」

「い、いい……! 自分でやる……!」


フーリェンが慌てて桶を奪い、耳を押さえながら泡を流す姿に、今度はジンリェンがくすりと笑う。

その隣では、ランシーが再び腰を下ろして、頭をかきながら苦笑を漏らしていた。


「……俺、まじで次から気をつけるわ」

「もう遅い…」

「シュアンが寛容で助かったな」

「ほんとそれ」


並んで座った直属護衛四人が、それぞれに桶を持ち、湯気に包まれて髪や身体を洗い始める。

お湯が跳ねる音、石鹸の香り、静かな水音——

そこには、日常のどこにでもありそうな、なんでもない会話が流れはじめていた。


「そういえば、シュアン。第七地区、どうだったんだ?」

「うん、まあ、相変わらず地下が不安定だった。次、資料持ってく」

「地下ねぇ……入り組んでるもんな、あそこ」

「そいやフー、肩大丈夫か?」

「……もう大分前に治った」

「そりゃよかった」

「傷、残らなくてよかったな」

「別に、残っても今更でしょ……」


ぽつ、ぽつ、と。

湯けむりの中、笑い声と、静かな安心感が滲んでいく。


誰もいない深夜の浴場。

冷たい戦場を知る者たちが、温かい湯の中でほんの少しだけ、戦士ではない自分たちに戻っていた。


やがて、湯気に包まれた洗い場の空気が穏やかに落ち着くと、四人はゆっくりと湯船の縁に手をかけ、ひとりまたひとりと肩まで湯に浸かっていった。


肩を並べる直属護衛の四人。こんなに揃うのは、実は初めてのことだった。

ジンリェンとシュアンランは普段からよく一緒に入る。どちらもそこまで口数は多くないが、湯に浸かりながらも自然と息の合った静けさを共有している。

ランシーは普段、訓練後は第三軍の男たちと一緒に賑やかに入浴することが多い。だからこうしてゆっくり湯に浸かるのは、珍しい。

そしてフーリェンはと言えば、時間をずらしてみんなが寝静まった深夜に入るため、そもそも顔を合わせることすらほとんどなかった。


だからこそ、この四人が同じ湯船に肩を並べている光景は、どこか不思議で、どこか貴重なものに思えた。湯に浮かぶ蒸気の中、誰かがぽつりと口を開く。


「……なんか、変な感じだな」


それはランシーだった。彼はふっと肩をすくめて、隣を見やった。


「お前らと同じ湯に浸かるなんて、初めてだ」


ジンリェンは淡々とした声で答えた。


「そうだな。普段は別々の時間帯だ」


シュアンランは小さく笑いながら、フーリェンの方へ視線を向けた。


「……お前が深夜にひとりで入っているのは知っていたが、まさか全員揃うとはな」


フーリェンは無表情のまま、口を開いた。


「……そうだね」


沈黙がまた少し流れる。湯の中で、四つの影が揺れる。


そしてジンリェンがふいに、言葉を続けた。


「たまには、こうして全員で休息を取るのもいい」


ランシーも頷きながら、湯を手でかき混ぜて水面に小さな波紋を作った。


「……これからは、たまにこういうの、ありだな」


戦場で見せる鋭さも、王宮での冷徹な顔も、今は湯けむりの中に溶けていた。ただの四人の若者が、温かな湯に浸かり、静かな夜を共有している。






脱衣所へ戻り、湯に浸かった身体を拭いながら四人は静かに服を着替え始めた。フーリェンが小さくあくびをこらえきれず、顔を手で覆う。それを見たジンリェンが、ランシーとフーリェンを交互に見て問いかけた。


「お前ら、明日……というか今日は非番なのか?」


フーリェンはあくびを噛み殺しながら、短く答えた。


「遅番……」


ランシーはやや引きつった笑みで、肩を落としてつぶやく。


「早番………。お前たちは?」


ランシーがジンリェンとシュアンランに尋ねると、シュアンランが静かに返す。


「俺たちは非番だ」


ランシーはそれを聞いてなお、うなだれたままになった。それを見て、ジンリェンが穏やかに声をかける。


「無理するな。明日はきっと、いい日になる」


シュアンランも微笑みながら、そっとランシーの肩に手を置いた。


「頑張れよ。隊長さん」


フーリェンもいつもの無表情で小さく頷いた。

その言葉に、ランシーは少しだけ顔を上げ、弱く微笑んだ。

疲れた身体と心を支え合う、静かな絆がそこにあった。

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