お昼寝令嬢、貴重だと認識する。
魔法管理局に保管されている記録書は、サフランス家にはないものばかりでとても充実していた。
父には言っていないが、言ったら自分も行きたかったと駄々をこねるのが分かっていたので、ルークヴァルトに貴重な本を読んだことを父には言わないで欲しいとお願いすれば、了承してくれた。
彼もユティアの父がどれほど本好きなのか、分かっているのだろう。
得た新たな知識を使って、次はどんな魔法を創って昼寝を快適にしようかと考えていると、いつのまにか数日経っており、そしてサフランス家には魔法管理局から、とある物が届いた。
その封筒を持って、ユティアは学園の昼休みの時間にいつもの秘密の場所へと向かう。
しばらくすれば、ここで会うことが日課になっているような気楽な様子でルークヴァルトもやって来た。
軽く挨拶をしてから、ユティアはルークヴァルトに魔法管理局から届いたものを見せる。
「見てください、ルーク様」
今は二人きりなので、呼び方は愛称に戻っている。そのように呼ぶと彼は何故か嬉しそうな表情をするのが、ユティアにとっては不思議だった。
けれど、居心地の悪さなどは感じない。むしろ、自身の心に爽やかな風が一瞬吹き通ったような心地さえしていた。
ルークに見せたのは新しく魔法が登録されたことを証明する証明書だった。
「ああ、これが証明書か。登録した魔法は全部、審査に通ったみたいだな」
「はい。それに使っていた魔法もそのまま使用出来るみたいで、安心しました」
いくつかの魔法は特別指定魔法として登録されたが、普段から使っていた魔法は悪用しない限り、使用を続けてもいいらしい。
ただし、他人に魔法をかける場合には許可を取らなければならなくなったので、少々面倒かもしれないが。
それは恐らく、ユティアが生み出した魔法の存在を知っている者を制限させるためだろう。
趣味を楽しむために創った魔法だったが、それほど貴重な扱いをされるとは思っていなかったので意外である。
……でも、身体にかけている防御魔法はずっと持続させたいと思っていたから助かった……。
ユティアはあまり興味がないが、魔法を創る職業の界隈では、誰が先に利権を得るか泥沼のような諍いもあるらしい。
誰よりも先に自分が創った魔法を登録し、「権利」を得て、「利潤」を得ることはよほど、重要なのだと聞いたユティアは大変な世界なのだなと他人事のように思った。
「……やはり、不便か?」
「いいえ? 私がこれまでに創った魔法は他の人に見せる機会も、使う機会もありませんでしたし」
ルークヴァルトの問いかけにユティアは首を横に振りつつ、先程、彼に見せた証明書を半分に折って上着の内側のポケットへと入れた。
「……ああ、でも。祖母にはよく、魔法を見てもらっていました」
「祖母……というと母方の祖母であるザクセン辺境伯のことだろうか」
「そうです。祖母は魔法……だけでなく、剣術も得意でして。辺境の領地に行った際には色々と魔法に関して指導してもらいました」
厳しく豪快だったが、祖母に魔法のことを教えてもらうのは楽しかったなぁ、とふと思い出す。
「祖母が魔法の話をする時、とても楽しそうな顔をしていたんです。それはきっと、魔法が大好きだったからでしょう」
「それじゃあ、君と同じだな」
「え?」
「君も、昼寝の話をする時、とても楽しそうな顔をしている」
ルークヴァルトは何気なく、そう言ったのだろう。
彼の口元は少しだけ緩んでいて、微笑ましいものを見ているように優しい瞳をしていた。そこに、自分だけが映っている。
奇妙な心地を抱いたユティアは、あまり不審に思われない程度に視線を小さく逸らした。
「そう……かもしれません」
少しだけ、気恥ずかしく思ったのかもしれない。
自分の心にそんな感情が生まれるなんて、思ってもいなかったので驚いたが、ルークヴァルトに理解されている上で見つめられたことを嬉しくも気恥ずかしいと感じた。
今まではそんな気持ちを抱いたことはないのにと、不思議に思ってしまう。
ユティアは感じたことを一時的に忘れるために、話の続きを言葉にした。
「……まぁ、祖母もサフランス家の血が入っていますからね。好きなものに夢中になる性分は、私と同じように受け継がれているのだと思います」
「ん? ……確か、君の母方の祖母はザクセン家の一人娘だったと記憶しているが……?」
「よくご存じですね」
「更新された貴族名鑑が発行されるたびに、頭に叩き込まされるからな」
「ですが、今の貴族名鑑には生存している方の名前だけが刻まれていますからね。……祖母の母がサフランス家から嫁いだ人でして。なので、私の両親は又従兄弟同士なんです」
「ああ、なるほど……そういうことか」
ゆえに、サフランス家に嫁いできた母も血筋を辿ればサフランス家の血が受け継がれているので、趣味に夢中になりやすい性分をしていた。
「つまり、君の両親の祖父母は従兄弟同士でもあるということだな」
「ええ。従兄弟同士でとても仲が良くて、お互いの領地に泊りがけで遊びに行くほどの親しい間柄だったそうです。なので、それぞれの子ども──両親達も幼い頃から仲を深めていまして、そして結婚したと聞きました」
恐らく、両親はお互いの好きなものをお互いに理解し合っていたからだろう。今もとても仲が良い。
やはり、自分の趣味を見下したりする相手との縁組みだけは絶対に嫌だ──と思いつつ、何となくルークヴァルトを見る。
……ルーク様は私の趣味に呆れたり、絶対に馬鹿にしたりしない人。……凄く、貴重。だけど、貴重という言葉でルーク様を表していいのか、分からない……。
どんな縁の形であれ、自分を理解してくれる者と仲良くなれるのはとても嬉しいことだ。
心の中で頷きつつ、ユティアは思考を戻した。




