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白銀の獅子はお昼寝令嬢を溺愛中  作者: 伊月ともや
一章 お昼寝令嬢、第二王子と出会う。
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お昼寝令嬢、好きだと宣言する。

 

「……君はこの場所でよく昼寝をしているのか?」


 どうやら彼はまだ、ユティアに話しを振って来るつもりらしい。


 いい加減、二度寝がしたいのでそろそろ去って欲しいところだが、彼がサフランス家よりも爵位が上位の貴族だったならば、後々面倒になりそうなので受け答えはしておいた方がいいだろう。


 彼の話に興味がないのだとしても。


「そうですね。この学園のあらゆる場所を歩き回って探してみたのですが、その結果、この場所がお昼寝するには最も快適な場所と判断しまして、こちらをお借りするようになりました」


 昼寝をする場所を探す上でユティアを上回る者はいないだろう。


 つい、昼寝の場所をこだわり過ぎて、魔獣が潜んでいる森の奥まで足を延ばし、家族や使用人達に迷惑をかけたことは一度だけではない。


 迷子にはならないが、集中すると周囲が見えなくなってしまうのだ。今後は家族に迷惑をかけないように昼寝する場所を探したいと思っている──多分。


「あ、もちろんお昼休みの最中にしか、この場所は使っていません。授業はしっかりと出席しています」


 授業をさぼって昼寝をしていると思われては心外だと思い、ユティアは言い訳をするように早口で答える。


 まったりとしているように見られがちだが、こう見えてユティアは意外と要領良く物事を進められる人間だ。

 授業ではそこそこの成績を維持しており、表向きには品行方正で常識的である。


 人と争うような性格でもないので大人しい令嬢だと認識されているし、着飾ることを面倒に思う性格なので他人からは影が薄くて地味な令嬢だと思われている。


 しかし、ユティアがわざとそのように認識されることを操作しているのは、面倒なことを請け負いたくはないからだ。


 成績が優秀過ぎれば教師に雑用を頼まれやすくなるし、他の学生からも妬まれるだろう。

 人と争うことをしないのはただ単に面倒くさいだけで、大人しく地味な令嬢を装っているのは周囲からの目を逸らすためだ。


 それらは全て、昼寝の時間を確保するために行っている。


 本気を出せば、成績はあっと言う間に上位になるし、もう少し自分を磨けば周囲が目を向けてくるだろう。


 だが、やらない。

 何故なら、面倒だから。


 そして、他のことに時間を取られて、昼寝の邪魔をされたくはないから。

 それだけだ。


「……そんなに昼寝が好きなのか」


 ルークヴァルトは呆れを通り越して、むしろ感心しているような表情で訊ねてくる。


 その質問に対してユティアは精一杯、心を込めた。

 そして、ルークヴァルトと話していた中で、最も感情がこもった一言を告げる。


「──はいっ、大好きです!」


 それまでは淡々と話していたユティアだったが、昼寝に関することだけは感情が強く動く。

 昼寝大好き。昼寝し過ぎて、夕食を食べ損ねることもあるくらいだ。


 人生で何が最も大事かと問いかけられたならば、「昼寝」と即答するだろう。それくらいに好きなのだ。


 思わず笑顔で答えてしまうユティアの表情を見たルークヴァルトは目を大きく見開き、まるで石化したように固まっていた。


 ……やっぱり、貴族の娘が「お昼寝」が好きだなんて呆れられてしまったかしら。


 だが、他人に呆れられようともユティアには関係ない。大好きなものは大好きだ。

 それを他人の価値観で覆そうなんて微塵も思っていない。


 ユティアは自分にとって大事なものをひたすらに大事にしているだけだ。


 すると、石化が解けたのかルークヴァルトはユティアから少しだけ視線を逸らして、口ごもりつつも「そ、そうか」とだけ答えた。


 そして、どこか気を散らせるようにわざとらしく咳払いをしてから言葉を続ける。


「だが、このような場所で令嬢が……その、昼寝をするには無防備過ぎないか? ここが学園の敷地内だとしても、愚かなことを考える輩は数多くいると思うぞ」


 心配しているのかルークヴァルトは少しだけ複雑そうな表情を浮かべてから忠告してくる。

 ユティアの兄も同じようなことを以前言っていたなと思い出しつつも、ルークヴァルトの質問に答えることにした。


「それに関しては心配いりません。こう見えて、私の身体に防御魔法を施しているので」


「防御魔法を? ……しかし、君からは魔法を使用している際に感じられる魔力をそれほど強くは感知出来ないようだが……」


 防御魔法、それは己の身を守るための魔法だ。普通の防御魔法と言えば、防御力を上げるものや耐久度を上げるものが多い。


 だが、この場合、ユティアが自身に施している防御魔法は、己の身を守るために鎧を纏っている状態に近しいそれだった。

 もちろん全て、安全かつ快適に昼寝をするためである。


「相手に感知出来ないように少し魔法の術式を複雑に組んでから、自身に魔法を施しているのです。……そうですね、鋼の鎧もしくは結界のような魔法を薄く身に纏っている状態とでも言いましょうか。それ故に私に対して害意や悪意がある者は触れることが出来ないようになっています」


 ユティアはとんとん、と自分の胸を軽く叩く。


「そして魔法が自分に向けられた害意や悪意を自発的に認識すれば、相手を跳ね返す仕組みとなっております。もちろん、飛び道具などの攻撃にも反応するように術式を組んでいますので、この魔法が発動している間は、攻撃を受けても痛みを感じることは全くありません」


 ユティアが自身の身体にかけた魔法について軽く説明をしていると、いつの間にかルークヴァルトは目を大きく見開いていた。


「そのような高度な魔法を……」


「高度?」

 

 高度も何も、この魔法はユティアが自分自身の快適な昼寝時間を得るために編み出した魔法である。


 外でもどこでも安心かつ快適に昼寝が出来るようにと色々と研究したり、実験しながら創った魔法なのだ。


 自分のことを害そうとする相手が指一本でも触れてしまえば、弾き飛ばすか気絶させる程の威力を持っているため、ユティアはこの魔法のおかげで他人の目がある場所だとしても安全に眠ることが出来ていた。


「……その魔法も……もしや昼寝をするために……?」


「はい、創ってみました。この魔法をかければ、どこでも安全にお昼寝が出来ますからね」


 さらりと告げるユティアに対してルークヴァルトは一瞬、顔を無表情にしていた。

 もしや、この魔法の効果や威力を信じていないのだろうか。


 ユティアがルークヴァルトに対して、そう思っていると彼はどうやらユティアの視線に含まれた意味を感じ取ったようで、すぐに弁明するように首を横に振っていた。


「い、いや。ただ、自分に向けられる害意や悪意を魔法が認識して、そして自発的に攻撃を跳ね返すような魔法を一から創るなんて、凄いと思っただけだ」


「そうですか」


「……だが、本当に効果があるのか? 俺は他者の魔力を感じ取ることに長けている方だが、君からは魔法を発動させる際の魔力の出力が感知出来ない。その身に宿る魔力の安定さしか感じられないのだが……」


 ルークヴァルトはじっとユティアを見つめてくる。

 やはり、ユティアが創った魔法の効果を疑っているらしい。

 

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