猫。崩壊の町で。
「いたい、いたい、いたいのはどこ」
歌う。
「からだ、こころ、じかんがない」
歌ってる。ぱさぱさ。
「ぬいぐるみ、いとがほつれて、ただのぬの」
雪。違う。羽根。
「ねこ、ねこ、こねこ、なかないで」
ちりん、微かに聞こえた。
「はりはさかさに、うしろにあるけ」
つたう。つたう。
「きんか、すぷーん、はずれのりんご」
夢をみよう。少しだけ。
「きみは、あうよ、うんめいに」
楽しい夢を。
「きみは、あうよ、かがみのむこう」
悲しみも苦しみも。置いてきぼりで。
「ばさばさ、つばさ」
………妖精の。
「つばさ」
「ランドセル乙!!」
意識が飛んでいたようだ。
何か、夢をみてた気がする。
しょーもない感じの。
「…にう」
目の前の瓦礫。
もとは温かみのある、自慢のマイホームだったに違いない。
今は枯れた遺跡みたいになってる。
太古のロマン溢れる感じになってる。
ただ、今はその事実が、痛々しくてならない。
鉄臭い風が目の前をかすめる。
俺は口呼吸にかえた。
あんな臭いは、月に一度だけで十分だ。
がらがらどっかん。
どこかで小規模な崩壊。
きっと、人為的なもの。
だって、点々と見え隠れしているのは、当たり前だけど、うちの隊員。
今回のメンバー皆様方。
任務を果たせなかった、皆様方。
「誰もいないねー」
のんびりとぼやくのは、原因にして犯人にして理由にして鍵である、うさぎ。よんよん。44。番号。
名前を呼ばれたことのない、きみ。
「にう」
俺は冷たい人間、じゃ、ないか。
俺猫だわ。猫だったわ。
そう。
冷たい猫なんだろう。俺は。
会ったことのない人間が何人消えようが、実感がない。
大事なのは、大切な人が泣かないか。
悲しくないか。
痛くないか。
俺が今感じる感情は、きっと、このなくなった命のためではないから。
「あれ? 怒らないんだー?」
俺の進行方向にしゃがみ込んだ。
斜め上からの視線に、俺は答える。
「にう」
締まらねー。
「…君の言うことは理解出来ないなぁ」
見えている答えを信じれず、わからないふりをする。
信じていいのに。
俺は裏切らないのに。
重なる影のためだけじゃなく、私はあなたの孤独が、孤独を。
埋めてあげられたらと、思うのだ。
守ると誓ったように。
孤独からだって。
恥ずかしいから言わないけれど。
ほんと、自分ったら何様。
こっぱずかしい。
ああ、ほんと何言っちゃって、うああにゃん、にゃんにゃん。
うにゃんうにゃん。
ごろにゃーご。
ごろにゃーご。
失礼。
帰国子女なもので。
「にう」
「…ほんとに、僕と一緒に来ない?」
小さな声。
迷子を認めたくない子供の、染み出したエスオーエス。
そのまま風に消えていく、そんな声だ。
俺は不覚にもちょっと萌える。
こちらを覗き込んでたくせに、今は目線も合わせようとしないうさぎ。
地面を見つめ、顔を上げようとしない。
明らかにフラグです。
ありがとうございました。
うさぎルート。
ぶっちゃけ、アリです。
「………にう」
アリなのに。な。
「………にうぅ」
君が呼べば、どこへでも行くよ。
寝れないのなら子守歌を歌ってあげる。
寂しいなら一緒にモン〇ンしよう。
絶対に君の敵にならない。
でもね。
音がする声がする。
崩れて壊れてなくなった町の中で。
それでも希望を探してる。
私の帰る場所。人。照れる。
ねぇ。
うさぎの月はいいところ?
いじめられたら言うんだよ?
ちゃんと助けてって。
約束しようよ。
君と私の道は交わっているけど。
きっと、それは平行じゃないんだ。
だから。
「にう」
一緒にはいけないんだよ。
「ちぇー」
うさぎは笑う。
笑って、跳んで、消えた。
油性ペンのように消えた。
水性ペンのように消えた。
マジックのように消えた。
つまりは、魔法のように消えた。
まるで最初からそこには、何もいなかった。
存在してなかった。
そう、言っているかのよう。
でも、知ってるから。
俺はちゃんと知ってる。
君はここにいたよ。
少しだけ空を眺めて。
俺はみんなのもとに戻る。
「おかえりー。ご飯にするー、お風呂にするー、それとも」
狩りにする。
出始めに、真っ白なうさぎでも。
上手にお肉でも焼くんだ。
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△
はわ、はわはわ。
何がしたいのかわからん。
無意味に焦る。
いや、するべきは勉強。
2日後試験。2日後試験。
え、お前今なにしてん?
焼きそばにかける餡作ってる。
鍋で。
△
△△△
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