天楼千重波、甘美な香り
久しぶりの三連休一日目、溜め込んでいたゲームやプラモや映画や本を消化するため、お供のお菓子やジュースをコンビニで買い出す。
両手に抱えきれない程の袋を下げ、いつもは使わないショートカットが出来る路地を使う。
「ミャーオ」「ニャニャンニャーン」
不思議な柄の二匹の猫が前を横切る、背中に花柄の茶トラ猫と、背中に波打つように5本の線が入っている黒猫。
ありふれた日常の一幕だったかもしれない、けれど今日やるゲームや映画の事を考えてしまう。
猫に導かれ、戦国時代にタイムスリップする物や、映画の一つにはワンコとのハートフルストーリー、プラモデルには機械化したハムスター、本は駅員さんのニャンコのお話だ。
それくらい非日常に憧れていた、何処か知らない場所へ、煩わしい人間関係が無く、新しい刺激に溢れ、誰も俺を知らない場所へ、そんな事を……考えてしまう。
新卒で入社して一ヶ月で、親を亡くしたショックで辞めてしまったり、新しく入った場所は稼ぎはいいが人とのすれ違いが起きたり、嫌な事ばかりでも新しいバイト先は人間関係が良くて──
「まぁ、疲れるわな」
現実逃避するのには素晴らしい状況だ、だからだろう周囲の変化に全く気づかなかった、大勢の足音、人の笑い声、夏なのに暑さを感じ無い気温、肉の食欲誘う香り……俺は知らない場所に立っていた。
目を凝らし周囲を観察する、けれど0.1以下でメガネを掛けていない乱視の入った目は、辺りが暗くなった事以外なんの情報も受け入れられない。
ドンッと音が鳴るように肩をぶつけられても、俺は……地面に尻餅を着いたまま動けなかった。
「大丈夫ですか?さっきから転んだままで」
甘ったるく男の心を乱す声、蠱惑的な甘い花の香り、大部分が肌色の大胆な水色の服を着た女性に、手を差し伸べられる。
先ほどまで考えていた非日常が突然起こった。




