1話 壁を見つめる少年
「こんにちは!!!」
病院のエントランスに駆け込み看護師さんに挨拶する。
「こら!大声を出してはいけません!ここは病院です!」
「あ、ごめんなさい」
また看護師さんに怒られた。俺はいつもいつもやらかしてしまう。だから、こうなったんだ。
「桐島先生探しに来たの?」
「はい!」
「桐島先生なら病棟にいるはずだから連絡入れるわね。ちょっとそこで待っててね」
「はい!ありがとうございます!」
看護師さん達はほんとに優しい。こんな俺にでも普通に接してくれる。きっと気遣ってくれているのだろう。申し訳ないな。
待合室で右へ左へと規則正しく揺れる振り子時計をじーっと眺めて待ってると、さっきの看護師さんが来た。
「あ、見つけた。桐島先生がおいでって言ってるわよ。いつもの部屋でって。一人で行けるわよね?」
「はい!もちろんです。行ってきます!」
そして廊下を駆け出そうとした。
「こら!ここは病院って言ったでしょ?」
看護師さんが困った顔で腰に手を当ててこっちをみている。また人を困らせてしまった。本当に僕は駄目なやつだな。
「ごめんなさい!歩いて行きます!」
「いってらっしゃい」
「はい」
廊下を曲がって階段を登る。エレベーターは忙しい患者さんと先生達には迷惑をかけるから使わない。
普段運動しないから3階に登るだけでもものすごくつかれる。ここで毎度のように運動しとけば良かったと後悔しておきながら何もしないから、つくづく俺は駄目だなって思う。
先生が指定するいつもの部屋は3階に登って渡り廊下を渡って右に曲がって少し歩いたところにある。
右に曲がったところで違和感を感じてふと立ち止まった。
(何だろう…何か違うような?…あ!)
いつも閉じている部屋が空いている。興味本位でちょっとのぞいてみるとそこは個室だった。部屋の中には一台のベットと簡易ソファに小さな机、そしてベットに座り、カーテンの開いた窓から差し込む光を受けた病室の壁を見つめる少年?
(ん?あれは…、男性なのか?)
ショートカットに、繊細な顔立ち。中性的で性別がよく分からない。これじゃあ、話しかけようにも何が失礼になるのかわからない。というか、なぜ話しかける前提になっているのだろう。
考え込んでいるとふと揺れる手が目の端に映る。
「え?」
驚いて顔を上げると彼?が手招きをこちらを見てしていた。
「俺?」
自分を指差しながら確認を取る。うなずきが返ってきたので俺のことらしい。
「入っても良いの?」
「いいよ」
綺麗。
声がすごく綺麗だった。
澄んでいて儚くて、それでも通る声。
吸い寄せられるように俺は病室に入っていった。
「君はだぁれ?」
「お、俺は由香…。女性っぽい?」
「確かに女性っぽいけど、そんなの気にしなくていいよ。素敵な名前だね」
「素敵?」
「うん。とっても」
初めて話すはずなのにスラスラと会話ができてしまう。知らない人な感じがしない。
「ユカは、性別を気にするの?」
「まぁ、みんなに女みたいって言われるから…」
「それって女性に失礼じゃない?」
「え?」
(…確かに。考えたこともなかった)
「あ、君にだけ名乗らせちゃった。名前はね、優だよ」
名前まで中性的。結局この人はどっちなんだ?でも…そんなこと関係無いくらい素敵な人だな。
「…綺麗だね」
「え?僕が?」
「…僕?」
今この人、僕って言った?
「あ、僕は男性だよー?」
「そうなんだ…。やっとすっきりした」
男性だったのか。なるほど、なら近づいても問題無いか?もっと近くでこの顔をみたい。
「う…、視線がすごいよ?」
「あ、ごめん。綺麗な人だなって」
「…嬉しいけど、そんなに見ないで」
ユウは両手で顔を覆って指のすき間から俺を見る。正直、かわいいなとさえ思った。
あ、でも気になることがある。聞いてみよっと。
「ねぇ、さっきさ、ユウは何を見てたの?」
「えーっとね…お花」
「お花?」
この部屋に花は無い。窓からも花は見えない。ユウは何のことを言ってるんだろう…。
「僕にはね。花が見えるんだ」




