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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第2部・アサリオン村編

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第31話 秘密の部屋へ潜入です

フィリ村につき、目的地の別荘に向かう。フィリ村にも別荘地があるが、過疎化している為か、村人ともすれ違わない。別荘もポツンと離れた場所にあり、異様に静かだ。確かに仕事に集中するのには、悪くない環境だろう。


その別荘はレンガ造りの二階建てだった。管理人は雇っていないのか、庭は雑草が多い。人気もなく、静かすぎるのも不気味ではあったが、ようやく手に入れた手がかりだ。まさか死体もないはず。私はクリスと共に、別荘の中へ。


想像以上に埃っぽい。窓を開けて換気もするが、どこの部屋にも死体は無さそうで、私はほっと安堵した。


「アンナ嬢、考えすぎだ。まさか死体なんか無い。まあ、二階の書斎というか、仕事部屋っぽい所へ行こうじゃないか」

「そうね」


こんな時も偉そうなクリスは、私の前を歩き、スタスタと階段を登る。慌ててついて行き、書斎へ入る。


この部屋も埃っぽかった。すぐに換気し、部屋の灯りも入れるが、書斎の本棚は、文芸評論がみっちりと詰め込まれ、トリスタン先生も著作も多い。どうやらここでトリスタン先生は仕事をしていた模様。新人作家の投稿作や、大御所先生の未発表原稿も出てきた。亡くなった作家の貴重な原稿もある。エドモンド編集長がこの別荘を白警団に言わなかった理由を察した。ここは仕事上の機密情報ばかり。いくら白警団でも漏らしたくないのだろう。


「お、本棚見てみろよ。アンナ嬢の作品もあるぜ」

「本当?」


背の高いクリスが本棚の一番上にあるものをとってくれた。私のデビュー作だ。文芸誌で連載した作品もファイリングされてる。


どちらもよく読んでくれていた。付箋も貼り付けてられてる。


「よく見ろよ、アンナ嬢。なんで新作のゲラの方は、こんな涙の跡があるんだ?」

「え、どういう事?」


私はクリスからゲラを奪い、凝視した。タラント村の事件をモデルにして書いたミステリ。カフェ店長と未亡人が主役で、本格推理トリックは一切出てこないが、カフェ店長と未亡人がコツコツと聞き込みを重ね、過去に起きた行方不明事件を暴き、殺人事件も解決する話だ。


もちろん、全部がタラント村の事件を模倣している訳ではない。だいぶリアルと違う部分もある。特に、最後、犯人を大詰めるシーンは、全くの創作だ。未亡人が謎を暴き、犯人と直接対決するが、犯人は逆ギレ。殺されそうになった未亡人だが、カフェ店長が水と小麦粉を投げて犯人を撃退するのだ。これがクライマックスで、「明るみに出ない犯罪はないわ! 白状しなさい!」とカフェ店長の決めセリフもある。


なぜかこのセリフに、涙の跡がある。しかも赤ぺンで「懺悔したい。罪を告白したい」と書いてある。


はっとした。これ、私に送りつけて来たファンレターにもあった。しかも筆跡も同じ。タイプライターのように綺麗な文字だ。トリスタン先生は、何か、過去の犯罪を公表しようとしていた?


「どういう事? 私の作品がトリスタン先生を改心させたって事?」

「そうかもな。おそらくトリスタンは何か犯罪、後ろ暗い事を世間に公表しようとしていた。それが邪魔になった連中が殺したんだ」


クリスの声を聞きながら、休息に頭が回ってきた。トリスタン先生が殺された動機がわかった。光が見えた。今までは暗闇で手探り状態だったが、急に周りが明るくなったような感覚だ。


推理しろ、私。推理するんだ。トリスタン先生が公表しようとしていた罪は何?


今まで調べてきた事。気になった事。違和感を持った事も、全部思い出す。今はまだ証拠はなくてもいい。考えられる可能性は全部、思い出せ。


「もしかして、トリスタン先生。シビルを売春していた……?」


同じ女として考えたくなかったが、可能性は多いにある。シビルは十年前の疫病騒ぎで、トリスタン先生の支援を受けていたが、その時に愛人契約したのだろう。どちらが持ちかけたのかは不明だが、シビルがつけていたアクセサリーは成金風だった。ただのバー店長では買えないだろう。


それに、身体を売ろうとしたパウラの件もある。ギリギリでパウラは免れたが、追い込まれた女性は、判断力が低下し、似たような事をしても不思議じゃない。我が国は男尊女卑という現実もある。それにパウラを励ましたパーティーの件。あの時もシビルの様子が変だった。


ずっとシビルは男達と何股をかけていると思いこんでいたが、売春だったらしい。シビルが男装していたのも、社会的地位が高い顧客の名誉を守るため。何しろ、あアサリオン村は噂好き未亡人もいる。変装し、別人になりきっていた方が噂から守られるだろう。


私のデビュー作に怒っていたトリスタン先生も思う。二作目の作品では、過去の犯罪が明るみに出る描写もある。トリスタン先生の立場に立てば、私の作品、神の預言みたくて怖かったかもしれない。単なる偶然だが、懺悔すると手紙を送ってきても筋が通ってしまう。


トリスタン先生の行動だけ見たら悪い。弱い女性につけこみ、売春していたとしたら、同情はできないが、罪悪感は持っていたらしい。公表もしようとしていた。残念ながら、我が国の法律では売春は合法になっているが、殺されていいわけない。


犯人はシビル。売春を公表されそうになり、トリスタン先生が邪魔になって殺した。実行犯は、セドリック料理長、ジスラン支配人、ロドルフ先生。この誰かか、あるいは複数犯か不明だが。


動機がわかったら急に推理が捗ってしまった。マーガレット嬢の言う通りだ。小手先のトリックだけに気を取られていたのかもしれない。


「どう思う? この推理は?」


私は早口で推理を説明すると、クリスは拍手。埃っぽい書斎にパチパチと音が響く。


「素晴らしい、アンナ嬢。もうシビルが犯人で確定だろ。さっそく犯人とご対面して、吐かせろ」


そして極悪モードにスイッチオンするクリス。いつも以上に目が据わり、口元はニンマリと嫌らしい顔だ。


「まあ、たぶん実行犯はセドリック料理長だろ。アンナ嬢、俺と結婚しろ」

「どさくさに紛れてプロポーズするのやめない? そう何度も言われると慣れたわ」

「く、くそ……」


クリスはその場にしゃがみ、顔を真っ赤ににして悔しそうだ。パウラの言うように、この姿はとてもハイスペ経営者に見えない。実に残念だ。


とはいえ、もう犯人は確定した。証拠は無いが、動機から考えればシビルが犯人なのは確信がある。


「まあ、アサリオン村に戻りましょう。そしてシビルに会いに行きましょう」

「そうだな」


クリスは深く頷く。別荘を後にし、アサリオン村へ帰ろう。


いよいよ本格推理小説のように犯人とご対面だが、シビルの事情も理解できる。こちらも責めるつもりはない。説得できる可能性が高い。このまま事件も解決に向かうはずだ。そう信じていた。

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