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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第2部・アサリオン村編

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第19話 手がかり発見!

「奥様、お茶のおかわりはいかがでしょう?」


さすが、じいやだ。執事らしく、上品に給仕していた。じいやに丁寧に扱われ、未亡人達はすっかり上機嫌だ。私達に村の噂について教えてくれる事になった。


カフェの扉に「準備中」という看板も出し、コレット店長はやる気満々。クッキーやマフィンも振る舞い、ニコニコと笑顔だ。


マーガレット嬢はこんな空気に馴染めず、さっさと帰ってしまったが、クリスに釘も刺されているし、もう嫌がらせもしないだろう。


こうしてお茶や菓子を楽しみながら、未亡人達はトリスタン先生の噂を教えてくれた。


「まあ、トリスタン先生はこの村によく仕事に来てたのは事実ね。十五年ぐらい前からかしら。疫病の時は飲食店も支援してくれて、この辺りで悪く言う人はいない」


エメが言う。エメもトリスタンと挨拶する仲だったが、悪い印象はなく、紳士なイメージだった。


「私も疫病の時にトリスタン先生から支援してくれたからね。村人で恨んでいる人は少ないはず」


コレット店長もあのノートを確認しながら言う。


「特に隣のバーの店長、シビルはトリスタン先生のこと慕ってたな。あの子の両親が不当に逮捕された後も気にかけていた」


コレット店長の声を聞きながら、私は頷く。確かにシビルは私に対して感情的だったし、腑に落ちた。父親みたいな人が死んだら、冷静ではいられないだろう。


「ちなみにシビルの両親は? どうなった?」


クリスはそこが気になったらしいが、急に未亡人二人は痛ましい表情を見せてきた。


「あぁ、実は疫病広がったのはシビルの両親のせいっていう噂が広まって……。一家心中しようとして、一人娘のシビルだけが助かったんだよ」

「コレット店長、本当?」


これには驚いた。シビルの過去は悲惨だ。儚げに見えるルックスも、合点がいく。いわゆる薄幸美人だったのだろう。不幸な過去が色気を生むタイプ。


「両親なくして、一人で店も守ってきたからね。そうね、支援してくれたトリスタン先生のことは思い入れがある」


エメの声を聞きながら、シビルへの同情心が生まれてしまうから困る。私を迫害したのも理由があったのだろう。


「アンナ嬢、お涙頂戴ストーリーに気を取られるな。小説じゃないんだから。他にトリスタンの噂は? 行方不明になる前とかなんかないのか? お前ら、教えろ」


ここで初めて極悪モードを見せたクリス。未亡人二人はかえってケラケラ笑っていたが、コレット店長はクッキーをボリボリと齧ると、ポンと手叩く。何か思い出したらしい。


「そういえば、一カ月ぐらい前かなー? 別荘近くの森でトリスタン先生と少年が歩いているのを見た。望遠鏡でね、蒼い鳥を探していたのよ」

「やだ、コレット。蒼い鳥じゃなくて、望遠鏡で村人の噂を探していたんでしょうが」

「そうとも言うわ。でも、本当にこの目で見たんだからね!」


未亡人二人の大きな声を聞きながら、引っかかる。


「少年?」


少年といえば、じいやの主治医・ロドルフ先生とも関係がある。


これは何か手がかり?


「少年ってどういう?」


私は身を乗り出し、未亡人二人に詰め寄った。二人ともこんな私に大笑いしていたが、今はどんな手がかりも欲しい。


「そうね。色が白くて可愛い感じかな?」


コレット店長の証言ゲット。これはロドルフ先生の相手の特徴にも当てはまる。


それに少年だったら、トリスタン先生を撲殺し、別荘に運ぶのも不可能ではない。この未亡人二人やシビル、マーガレット嬢には難しいが、少年だったら可能性はある。この謎の少年、ロドルフ先生とトリスタン先生の繋がりは?


「まあ、いいじゃない。他にも色々噂があるから聞いて!」


コレット店長はそう言い、エメと一緒にペチャクチャと噂話を始めた。二人の強いエネルギーに、私達も押されてしまったが、手がかりが得られた。


まずは怪しい少年を見つけ出す事が最優先。あとはじいやに病院内のロドルフ先生の噂話収集も頼み、今後の方針も決まった。


「良かったな、アンナ嬢」


こうしてカフェを後にし、クリスとじいやを病院まで送り、村の中心部まで戻ってきた。


「ええ。これで手がかりが得られたけど、少年は誰かしら。トリスタン先生も男色だったのかしら?」

「さあ。確かに珍しくはないが……。パウラは心配だな」

「そうね。あの後、どうなったのかしら」


クリスもパウラについて気になっていた。ロドルフ先生が男色かどうかは決定的ではないが、パウラの失恋は濃厚だ。


この後、パウラの家に戻り、励まそうと考えたが。


「あれ? パウラいる?」


部屋にパウラがいない。てっきりここに戻ってきているものと思ったが、誰もいない。リビングの本棚を見ると、恋愛小説だけが片付けられ、ゴミ置き場に出してあるのも不自然だ。


「まさか、パウラ。何か変な事しようとしている?」


嫌な予感がした。ただでさえ、ジスラン支配人から嫌がらせも受け、不安定な状況だ。思い詰めて変な事をする可能性はゼロじゃない。


クリスも同感だったらしい。珍しく慌てた様子だった。


「早く! アンナ嬢、パウラを探そう!」

「ええ!」


クリスに手を取られ、一緒に探し始めたが、見つからない。村のあちこちを探したが、どこにもいない。ホテルにも広場にも別荘近くにもいない。気づくともう夕方近い。


「どうする? もう白警団に頼るべき?」


悔しいが、パウラの命を思うと、そうするしかない。


「そうだな。仕方ない……」


クリスも同意。結局、別荘近くから白警団に向かう事になったが、もう夜が近い。不安になるなという方が無理。自分はともかく、パウラが傷ついている所は見たくない。涙目だ。


「大丈夫だ、アンナ嬢。きっとパウラは見つかる」


こんな時、クリスの声が優しいから困る。

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