第18話 アサリオン村ゴシップコミュニティ
マーガレット嬢に案内された場所は、別荘周辺のカフェだった。シビルのバーも側にある。バンガロー風の小さなカフェで、窓が大きく、野鳥観察もできると売りにしていた。他にも野鳥の絵画、鳥デザインの手芸品などが集まり、蒼い鳥伝説のポスターも貼られていた。カフェの椅子やテーブルも切り株風でセンスがいい。
全体的に素朴なカフェだったが、私達が入店すると、雰囲気が変わる。切り株風のテーブルで談笑していた女二人の表情が変わった。
一人は見覚えがある。村の衣服店の店長もエメだ。金髪で派手目なマダム風の女。
もう一人もマーガレット嬢のバックにいた女だ。こちらもマダム風ではあるが、髪色は地味で、体格もぽっちゃり系。首には小型望遠鏡もぶら下げていた。マーガレット嬢によると、コレット・バイエという女で、このカフェの店長。二人とも未亡人で夫の遺産で道楽商売をやっていると紹介された。
マーガレット嬢は渋々、私達の事情を説明。一応間に立ってくれる自覚はありそう。顔は苦虫を噛み潰した様子だったけれど。
私達も自己紹介した。濡れ衣が着せられ、困っている。白警団は頼りにならないし、自分達で犯人を捕まえるつもりだと言う。未亡人二人とも反応は鈍い。マーガレット嬢も白けた表情だったが。
「クリス・ドニエです」
クリスが自己紹介したら、未亡人二人の目はハートになった。特にエメは「やっぱりあなたイケメンね!」とベタベタ触り、警戒心を解いた模様。
一方、コレットの方はじいやが気に入ったらしい。「紳士で素敵!」と騒ぎ、どうにか未亡人二人とお茶会を始める事に成功。タラント村人の時もクリスやじいやの協力でリズ達と仲良くなれた。この路線で対応するのが適切だろう。コレットに出されたお茶を飲みつつ、私は深く頷く。
もっとも未亡人二人にベタベタと触られ、根掘り葉掘り色々聞かれているクリスは、決して上機嫌ではなかったが、どうにか顔を引き攣らせ、営業スマイルを作っていた。極悪とはいえ、さすが経営者といえよう。営業スマイルに限ってはこなれていた。
じいやもすっかり未亡人二人と打ち解け談笑している。編み物やカフェの料理について盛り上げていたが、マーガレット嬢は終始不機嫌そうだった。ぶすっと無言で、一言も何も言わない。とはいえ、ここまで紹介してくれた事は感謝だ。
「マーガレット嬢、ありがとう。助かった」
「成金の盗作令嬢なんかに言われたくない」
「盗作していたのはセニクよ……」
案外、口の悪いマーガレット嬢。一応、事実でない事は訂正するが、清楚なお嬢様ぶっているより良いかも。よく見ると、吊り目だし、毒舌クールキャラの方が合うかもしれない。
こうしてマーガレット嬢のおかげで村人と接点が持てた私。コレット達はクリスとじいやと話し続けていたが、雑談しに来たわけでもない。
私はペチャクチャと話し続ける未亡人二人に近づき、本題を切り出す。事件について何か噂は知らないか。トリスタン先生について何か知らないか等聞くと……。
未亡人二人はニンマリと笑った。顔立ちは似ていないが、その笑顔は双子のようにそっくりだった。
「私達を舐めないで。何年アサリオン村に住んでいると思っているのよ」
「そうよ、エメの言う通りなんだから!」
コレット店長はそう言うと、フンと鼻の穴をふくらませた。そしてカフェの厨房の方から、一冊のノートを持ってきた。黒皮の表紙でかなり分厚い。角は擦れ、小口は手垢がつき、かなり年季が入ったノート。表紙には「アサリオン村・ゴシップコミュニティの記録」と書いてある。
まさかこの二人、村人のゴシップを収集して楽しんでいる?
コレット店長の首にぶら下げている小型望遠鏡も、野鳥観察ではなく、噂収集に使ってる?
ずっと村人の視線を感じていたのも、まさか未亡人二人が見ていたから?
「ええ。そうよ。こんな娯楽のない土地ですもの。噂話大好き!」
コレット店長は無邪気に笑い、じいやもクリスもタジタジだ。こんな男二人は初めて見た。どちらといえば、二人とも冷静なタイプなのに。
「ねえ、アンナ嬢も知りたい?」
エメもゲスっぽい目を見せてきた。
とんでもない二人に出会ってしまったらしい。二人が知っている噂話は、事件解決の手がかりになりそうだ。
実際、二人は白警団には何も情報を伝えていないし、聞き込みされても「何も知らない」と嘘をついたらしい。十年前、この村で疫病が流行った時、白警団は飲食店スタッフ達を不当に逮捕したらしい。貴族が経営しているホテルはスルーだったが、庶民の飲酒店だけ集中的に犯罪者扱いされ、今でも白警団に不信感があると言う。
「私の死んだ夫もここでカフェやってたけど、疫病の原因だって不当に捕まったからね。他の友達もそう。濡れ衣よ。以来、白警団なんか大嫌い」
コレット店長は口を尖らせ、お茶をがぶ飲みしていた。
思わず私はクリスと顔を見合わせた。これはチャンスだ。私は深呼吸をし、一度落ち着くと覚悟を決める。
「エメ、コレット店長、噂について詳しく教えて。お願いします。どんな噂でもいいの!」
この話を聞き、私は頭を下げた。
マーガレット嬢は息を呑んでいる。貴族の令嬢としては信じられない光景なのだろう。マーガレット嬢が誰かに頭を下げるはずが無い。
私だって本心では未亡人二人に頭を下げるなんて恥ずかしい。できればしたくないが、推理のためだったら、何でもできそうだ。
この時、少しマーガレット嬢やクリスの気持ちがわかった。私も好きなものだったら何でもできる。恋のためにおかしな行動をとってしまうのも、不自然ではない。




