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作家令嬢の田舎追放推理日記〜「推理なんてやめろ」と言われましたが、追放先で探偵はじめます〜  作者: 地野千塩
第2部・アサリオン村編

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第6話 村人の洗礼と迫害

「弱ったわ……」


白警団から出られた。とりあえず、濡れ衣はらせたかもしれないが、ジ・エンドかもしれない。


その後、アサリオン村の駅に向かおうとしたが、なんせこの土地に土地勘などない。迷ってしまった。今はじいやもいないし、頭も回らず、ポンコツまっしぐらだ。この村はタラント村と違い、規模も大きい。観光地でもある。迷う要素は多いにあった。


汗を拭きつつ、歩き回り、村の中心部まで到着。ここは商業施設や広場、ホテルなどもあり、観光客も多い。観光客から道を教わり、なんとか別荘地まで方向転換し、歩く事に。じいやが入院している病院も不明だし、今は別荘に戻る事が一番だろう。


「へえ。村にはこんな伝説があるのね」


その途中、村の広場を通り過ぎる。広場には屋台が並び、アイスクリームやフルーツジュースが気になるが、今は無一文だ。それは我慢して通り過ぎようとしたが、広場にある看板に目が止まった。


村には幻の蒼い鳥伝説があるらしい。大昔、この鳥を助け、保護した村人が大金持ちになった逸話もあり、子供向けに「真面目に善行しましょう!」とも書いてある。また、そんな蒼い鳥を見つけたら、必ず幸せになるらしく、捕まえようとする人も多い。広場の中央に鳥の銅像も建てられていたが、観光客のカップルが、キャッキャと騒いでいた。


「蒼い鳥を捕まえて、あなたと幸せになりたいわ」

「ははは。ちょうどバードウォッチングもするし、明日、一緒に探そうか」

「わあ、ありがとう」


カップルはそんな会話の後、イチャイチャし始めた。周囲の目線も気にせず、熱く抱き合い、頬もスリスリと寄せている。


「わ、わ。これ以上は見ていられないわ」


恋愛偏差値ゼロ以下の私には、目に毒だ。長時間見られるものではない。一瞬、こうしてリアルで見たら恋愛小説も書けそうな考えも浮かんだが、ぶんぶんと首を振る。


未知な世界だ。あのカップルがしている事は、令嬢御用達の性教育で知っていたけれど、机上の知識とリアルで見るのは違うらしい。


私は早歩きで広場を後にし、村の北部の別荘地へ向かう。だんだんと商業施設などもなくなり、道も補正されていない。田舎らしい畦道になってきたが、また背後から何か視線を感じてしまう。


自然豊で観光地のアサリオン村。幻の蒼い鳥伝説もあり、基本的にはのどかな場所。殺人事件があったものの、まだ村人に詳細は伝わっていないはず。第一発見者の私とて、よくわからない。それなのに、この視線って何?


まるで村から歓迎されていない空気。先程、すれちがう農民にも睨まれたし、どうも雰囲気が暗いような?


そんな事を考えながら、再び別荘地周辺のカフェやバーの前につく。


カフェは営業中らしい。バンガロー風の外観にカフェからは、おば様方の笑い声が漏れ聞こえるが、バーの方はしんと静か。今日も定休日らしく、入り口も閉まっていた。


バーも大きな店ではなく、大人っぽく落ち着いた外観だ。グレーの壁が上品。店名はアサリオン村BARという。何の捻りもない店名で、外観の割に惜しい気もしたところ、入り口側のチラシを凝視した。


まだトリスタン先生が行方不明になったというチラシが掲示されていた。改めてよく読むと、最後に行方不明になったのは、この別荘地周辺。数日前の話だったらしい。


また、トリスタン先生はこの村が関係者がいたらしく、縁もあるとか。商業施設、観光業にも多大な寄付をし、村人にも好かれていたという。


「そんなトリスタン先生が殺された理由って何だろうね?」


確かに文芸評論家としてのトリスタンは、厳しい人だった。私の作品も酷評されたが、正確な評論だった。他の文芸作品でもそう。おかげで作家たちから信用され、トリスタン先生に好評を受けるのは名誉でもあった。トリスタン先生が推薦する本は売り上げも倍以上違う。酷評されたからといっても、著しく売り上げは落ちない。それどころか逆に話題になり、部数が伸びたりするのだ。


要するにトリスタン先生に目をかけられるのは、良いことだったのだ。作家や出版関係者がトリスタン先生を殺しても何の得は無い。


「考えられる動機は仕事関係ではなさそうね。私生活の交友関係か、逆恨みか、お金関係のトラブルか……」


出版関係者からはトリスタン先生の人柄は良いとも聞いていた。確かに人嫌いで偏屈ではあったらしいが、才能ある作家も目にかけていたと聞いた。根は優しい人だという。そんなトリスタン先生が殺されたのは変だ。


例えば文芸サロンのセニクのような輩は殺されても仕方ないが、トリスタン先生が被害者なのは違和感がある。私の作品もとても真面目に読んでくれた。事件に巻き込まれるようなタイプに見えない。


「それに、何でこのバーにだけはチラシが貼ってあるのかしら? カフェには貼ってないし、この店だけ貼ってある?」


その事も気になった。単なる事件のチラシの割には、情報量も多いし、この店主はトリスタン先生の知り合いだろうか。


何か知っているかもしれない。私は反射的にバーの扉をノックしていた。


「はい? お客様?」


扉はすぐに開いた。若い女が出てきた。化粧は濃いめで、金髪は青みがかっている。体型も細身で、美人だったが、どうも雰囲気が暗いというか、儚げな美人だった。肌も雪のように白く、余計に儚い。「美人薄命」という言葉が浮かんでしまったのは、失礼だろうか。


「実は私、アンナ・エマールというものです。トリスタン先生の……」


最後まで言い切れなかった。なぜか儚げ美人の店主に水をぶっかけられた。突然の事で、私の目は点になっていた事だろう。頭から水が滴ってくるが、驚きで現状が把握できない。


「あんたがトリスタンを殺したんでしょ! 来ないで! 殺人犯!」


また水をかけられ、追い出された。濡れ鼠状態で別荘に逃げ帰るが、白警団が調査中で入れない。立ち入り禁止のテープが貼ってある。


その上、野次馬もいっぱい。野次馬たちは私を見つけると、ザワザワと騒ぎ始めた。


「あいつが犯人らしいぜ!」

「本当!?」

「石投げようぜ!」


濡れ鼠状態の上、石も投げつけられ、逃げる他ない。


この時、自覚した。アサリオン村からは一切歓迎もされていないし、むしろ余所者として迫害対象らしい。白警団から出られても、噂が広まっているのだろう。濡れ衣は全く晴れていない。


タラント村でも似たような目にあったけれど、あの時はじいやがいた。クリスもなんだかんだで助けてくれた。


今はそのクリスから逃げた事を心底後悔していた。この状況は非常にまずい。孤立無縁。別荘に入れないから、依然と無一文。


ジ・エンド?


そんな言葉が頭から離れないから困る。

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