番外編短編・おもしれー女
クリス・ドニエは若き天才経営者と呼ばれていた。
今日も王都で開かれた伯爵家のパーティーに参加中だったが、実に退屈。人脈作りのために来てみたが、あっという間に貴族の令嬢に取り囲まれ身動きが取れない。
どの令嬢も化粧が濃く、香水の匂いもきつい。ドレスも派手だが、目は燃えている。何としてもいい男を捕まえたい野心で。
吐き気がする。
こんなクリスは庶民出身だった。庶民時代は、ルックスも垢抜けず、お金もなかった為、貴族連中には見下されていた。
それが今、手の平返しを受けている。
「うるさいな。俺は甘やかされた貴族のお嬢様方は興味がない」
そう言うと空気は凍った。どうでもいい。元々お高くとまった貴族など好きではない。
「全く。なんだよ」
ぶつぶつ文句を言いつつ、立食パーティーの会場へ。
テーブルには豪華な食事、菓子、酒が並び、クリスも人脈作りに精を出すが、楽しくない。
貴族連中の歯が浮くようなお世辞もつまらない。あからさまに嫉妬心を向けてくる者もいる。メイドに態度が悪い貴族も多く、ため息しか出ない。
「あら、メイドさん。ジュースを運んでくれてありがとう」
そんな中、メイドにちゃんとお礼を言う令嬢がいた。
確か名前はアンナ・エマール。成金一家の娘で、クリスも顔と名前ぐらいは知っていた。
「ところでメイドさん、このジュースに毒物を入れるとしたら、どんな時にタイミングがあると思う? 私、本格推理小説家になりたくて、毒物の研究もしているの」
アンナは実に生き生きと推理について語っていた。
当然、メイドはドン引きしていたが、クリスは興味を持つ。
ルックスも落ち着いた美人だが、ドレスや化粧は控えめ。
そんな令嬢の口から毒物?
どういう事だ?
これは気になるではないか。クリスはアンナに近づき、改めて自己紹介をした。
「以前、うちに来たことがありますでしょう。覚えていますわ」
「は? 二年ぐらい前のことだぞ」
クリス自身はエマール家に行った事は忘れかけていたが、向こうは覚えていた。
「私、推理小説家を目指していますから。人の顔と名前を覚えるのも得意ですわ」
「そうか、なるほど。ちなみに好きな推理小説は?」
すると、アンナは暴走機関車のように好きな推理小説について語っていた。目もキラキラと輝き、早口で捲し立て、よっぽど好きらしい。推しの推理小説も今度送ってくれるとも言う。
「アンナ嬢、君はおもしれー女だ」
「は?」
目をぱちぱちとさせ、絶句しているアンナ。これを見るのも結構楽しい。クリスは思わずニヤニヤしてしまう。
以後、クリスは何らかの理由をつけ、エマール家に出向き、アンナと話す機会を無理矢理作っていた。
もっとも話す内容は推理の事ばかりだが。それでも笑顔で好きなものを語るアンナは、気になって仕方ない。




