第40話 事件の後の村長選挙
事件から数日たった。村は大騒ぎ。まずギヨームが捕まり、森も掘り起こされ、ついに長年行方不明だったコリンの白骨遺体も見つかった。
ギヨームとコリンは元々親しかったそうだが、お金や女のトラブルで揉め、殺害し、あの森に埋めたという。
以後、コリンの幽霊や夢を見るようになり、オカルトにハマっていた。あの土地もコリンの呪いがあるかもしれないと、クリスタルや変な石で清めたかったらしいが、親戚のセニクにこの件がバレ、脅されるようになった。
またあの森にオルガの工房もできた。村長は銀貨伝説と絡め、発掘までしようとしている。困ったギヨームはオルガに脅迫状を出しつつ、村長殺害機会を狙う。ちょうど妻のリズが旅行中に村長殺害を決行した。
もっとも彼に誤算があり、シャルルが行方不明になり、疑われている事は幸運だった。また村にやってきた作家令嬢、つまり私もシャルルを疑っているようで油断していたが、元村長秘書のロゼルは銀貨伝説の村長の意志を引きつごうとしているではないか。親村長に立候補しているが、これは阻止出来ないと判断し、オルガの工房を放火。
そんな彼にも誤算があった。セニクだ。あのセニクに推理され、全て暴かれそうになり、殴り殺そうとした。そして殺人事件現場をクリスタルや変な石でお清めの儀式もしようとしたが、そこに私が登場。捕まり、今に至る。
ちなみセニクも脅迫や殺人事件の隠蔽工作に加担したと捕まったが、彼は貴族の男。世間への公表は遅れる見込みらしいが、ギヨームもセニクも容疑を否認し、モイーズにも逆ギレしていると聞いた。
「お嬢様、執筆の方はいかがですか?」
「ええ、じいや。とっても筆が進んでいるわ」
そんな喧騒をよそに、私は別荘に引きこもり、新作の執筆に取りくんでいた。正直、万年筆を握りすぎて手が痛い。目が痛い。それだけ集中して書いている私に、じいやは心配し、よく部屋に来てくれる。
「これは、オルガが焼いたシフォンケーキと紅茶です」
「わあ、じいや。ありがとう。少し休むわ」
温かい紅茶とシフォンケーキの甘い匂いに釣られた。じいやと二人で休む事に。
「オルガはどう?」
美味しいシフォンケーキを食べつつ、気になる事があった。
ギヨームが逮捕され、オルガは失神するほどショックを受けていた。確かにオルガにとっては優しいおじさんのギヨームだった。ショックを受けるのは無理がない。
「大丈夫ですよ。シャルルが励ましています。今はシャルルにいちゃんって一緒に遊んでますから」
「それはよかった……」
ひとまずホッとする。結局、別荘でシャルルを管理人兼コックとして雇う事に。オルガもこも様子では、別荘でメイドとして雇った方がいいだろう。これにじいやも賛成した。
「ところでお嬢様。本当にリズやカリスタをモデルに推理小説かくんですか?」
「ええ。といっても、まだ送る出版社とかは決めていないけどね」
「リズが隣国の出版社に口をきいてくれるそうです。あと文壇サロンもセニクの逮捕で大変だという噂も聞きましたから、もしかしたら、戻れるかもしれません」
じいやの穏やかな声や笑顔を見ていたら、心底ホッとしてきた。これだったら、作家業も希望が残っているだろう。
ふと、温かい紅茶を飲みながら考える。クリスがした賭けだ。結果、賭けは私の勝ち。出版社をくれるという約束は、今はどうでもよくなってきた。
クリスは今、コリンの件や母親、母親の親類のケアの為、村を離れていた。
事件解決後、クリスとろくに話していない。思えばクリスがいなかったら、解けない謎ばかりだった。おかげで賭けに勝っても嬉しくない。微妙。それにクリスの嫌味っぽい顔が毎日見られないのも、少し物足りない。
物足りない?
それって寂しいって事みたい。まるでクリスが恋しいみたい。そんなわけない。慌てて、この思考を頭の中から追い出す。
「そういえばお嬢様。村の広場では村長選挙の結果が出るらしいです。これから午後三時ぐらいから」
「そうなの?」
「執筆ばかりだと頭がパンクするでししょう。少し野次馬に行きますか?」
「そうね」
村長選挙は、ギヨームの逮捕により、カリスタの圧勝だと言われてはいた。といっても何事にも番狂せはある。一応泡沫候補も出ていた。
「じゃあ、じいや。二人で見に行ってみましょうか?」
「ええ、行きましょう」
という事でじいやと二人、村の広場へ。広場はもう多くの村人で押し寄せ、役場のダニエルが警備員をしたり、椅子を並べたり、雑用に追われている。
「ダニエルは相変わらずね」
「そうでね。あ、ロゼルもいますよ」
広場に開票会場も設置されていたが、ロゼルも忙しそうに働いていた。村長の横領は、立件できるか微妙だが、ロゼルもこの事件で少しは改心したのかもしれない。今まで以上に真面目に働いているように見えた。
ほとんどに村人が広場に集結した頃、定刻になった。開票が始まったが、予想通りカリスタの圧勝だった。
「嬉しいです。これからは女性が住みやすい村を目指すからね。私の運営も女性によく働いてほしいと思う」
カリスタのスピーチが始まったが、会場の隅にいるロゼルが泣いているのが見えた。これはもうロゼルは改心したと見ていいだろう。カリスタと一緒に仕事をすれば、シャルルへの想いも忘れていくかも知れない。
新村長はカリスタになった。同時にカフェ運営は難しくなった為、リズやオルガ、その他村の女達で共同経営に変わっていくらしい。また、政治への意見交換などもできるイベントもカフェで定期的に開くとカリスタが宣言して、開票が終わった。
「カリスタ、おめでとう!」
私も村人に混じり、カリスタに拍手を送る。村人からたくさん花束を受け取ったカリスタは、笑顔ではにかく。
「アンナ! あんたも頑張って。推理小説書くのよ。汚いおじさんに負けるんじゃないからね!」
そして花束を一つ、私にもくれた。白い花のそれだった。花の良い匂いがする。
「ええ、カリスタ。私は負けないわ。また作品書くからね!」
まるで私も祝福されているみたい。カリスタの当選は、自分の事のように嬉しいし、新作もバリバリと書いていきたい。
「カリスタ、本当におめでとう!」
また祝福の言葉を送ると、事件の影は限りなく薄くなっていた。




