第41話 追放ざまぁをいたしましょう
なぜか私は文壇サロンにいた。王都のあの豪華なティールームだ。
紅茶はもちろん、ケーキスタンドのスコーンやプリン、プチサイズのカップケーキなど、お菓子もどれも一流だ。
文壇サロンで偉そうにしていたセニクの姿はない。まだ世間に公表されていないとはいえ、噂は流れ、他の文壇サロンの面々も恐怖で顔が引き攣っていた。
なぜか別荘に文壇サロンの連中から手紙が届き、渋々、久しぶりに参加している訳だが、以前と様子が違う。
「アンナ嬢! 悪かった!」
涙目で謝ってくるおじ様もいる。額や頬に汗もうき、貧乏ゆすりもしている。落ち着かない様子だったが、事情を話してくれた。
セニクが捕まった噂が流れ、文壇サロンの面々も怯えているらしい。
「実はセニクが脅しで得ていたお金で、我々も賭け事や風俗通いをしていた! この事がバレたら、我々も作家生命が打たれる。アンナ嬢、どうか黙っていてくれ!」
そういう事か。だから命乞いをしているのか。情け無い。こっちが恥ずかしくなる。私は咳払いをし、紅茶を啜る。
「お願いだ! もうセニクの件は推理しないでくれ! 黙っていてくれ!」
ずっと謝っているおじ様。というか命乞い? 私はどう対応するべきか悩むところ。
「お願いだ、推理しないでくれ!」
でも、前と違う意味でそう言われるのは、悪い気分ではない。
「どうしようかしら。村ではセニクが殺人事件に関わったという噂もあるわ。もちろん、根も葉もない噂だけど、人の噂って怖いわ。もう王都でも広まっているんじゃなくて?」
私は紅茶をゆっくりと啜り、優雅に微笑む。
「やめてくれよ! もう推理とかやめてくれ! お願いだから! そうだ、出版社に口きいてあげる! アンナ嬢、仕事もらえるぞ!」
なんて提案されたが、興味はない。あれほどの事をされ、笑って許せるほど私はイージーでもないんだから。
「そういえば、私の友人のクリス・ドニエがセニクの親戚の会社の人員を全員引く抜くとか。あなた、そういえば会社持ってたわよね?」
ゆっくりと微笑みながら、クリスの名前を出すと、向こうはさらに怯えてきた。プルプルと震えている。指先や下唇まで震えている所は、実に情け無い。
「でも、真実は必ず明るみに出るでしょう」
そう言い、この件は保留でもいいか。実際、ゴシップ記事ではセニクの盗作も暴かれ、私の名誉も回復しつつある。それにタラント村の事件を解決した名探偵とも噂がたっているし、もう文壇サロンの汚いおじ様達に興味はない。
「アンナ嬢。来たぜ。文壇サロンに出席中だって聞いたぞ」
そこにクリスが登場。仕事や私事で王都に帰っていたクリスだが、思わぬところで鉢合わせだ。なぜか懐かしいとか、ホッとするといった思考になってしまうから困る。
村にいる時と違い、仕立ての良いスーツに身を包み、今は経営者らしいルックスに変わっていたが、その姿だけでおじ様達は威圧を受け取ったらしい。さらに顔を青くさせ、汗だくになっていた。
「俺の名前を知ってるか? クリスだぜ。クリス・ドニエだぜ」
その言葉だけで黙らせているんだから、もう私はどうでもよくなってきた。それよりも別荘に戻り、執筆の続きがしたいし。主人公のモデルになったリズやカリスタからも取材がしたいし。
「まあ、クリス。汚いおじさんに関わるのは時間の無駄」
「それもそうだな。これから俺もタラント村に行こうと思う。ようやく休暇が取れるし」
「そうね。帰りましょう」
「それにダニエルもアンナ嬢にサイン会やり直してほしいって言ってたしな。タラント村のが静かだし、執筆環境も良いだろう。さあ、帰ろう」
命乞いを続けるおじ様たちを無視し、私とクリスは文壇サロンから出ていく。
扉の外は明るい。春の日差しが降り注ぎ、風も爽やか。
隣を歩くクリスの左手薬指にはまだ指輪がある。夫婦のフリをしたダミーの指輪だったが、謎。
一体どういうつもりでダミーの指輪をつけているんだろう。
推理大好きな私だけれども、この謎はわからない。
どうやって推理しよう?




