第39話 犯人を捕まえます!
息を切らしながら走っているというのに、全く疲れない。
王都で作家業をしていた時は、推理小説の取材や体力作りのために、運動や護身術もやっていたが、今はサボっていた。身体は確実になまっているはずなのに、犯人を捕まえられると思うと血が騒ぐ。
こうして村長の本邸まで走った私。案の定、鍵が開いている。リズというか、この村の防犯意識の低さにはため息が出そうだが、そんな事はどうでもいい。
「誰かいる?」
本邸はしんと静かだったが、もう薄暗い。陽は落ちかけているが、一応声を出しながら、本邸に入った。
まずは事件現場へ向かうが、誰もいない。ただ、家具やテーブルが荒らされている。これは誰かが何かを探した後か? 力のないリズの仕業には見えない。
「何なの、これは……」
セニクが言うように犯人、ギヨームが何か探ってる?
もそかしたら、村長が書いたロゼルの手紙を探してる? または村長の横領の証拠?
確かにそれがあれば、シャルルに罪を押し付けるのは可能だ。残念ながら、それらのものは全部リズが隠蔽工作してしまった後だ。
今更ながらリズの行動にもため息をつきつつ、村長の部屋がある二階へ上がろうとした時。
「ギヨーム!」
犯人と鉢合わせしてしまった。しかも向こうは、クリスタルや変な石を両手に抱え、青ざめている。
「何しているの?」
「う、うるさい!」
変な石を投げつけられ、寸前の所で命中を逃れるが、ギヨームの顔は真っ青。震えている。とても中年男性に見えない。子供みたいで、私は犯人と対峙している事を忘れた。
「ゆ、夢で村長が出てくるんだよ、毎日! だから現場をクリスタルで清めていたんだ!」
どうしよう。ギヨームがオカルト男だったのは間違いないらしいが、ここで推理小説のように犯人を詰める? オカルト男に理詰めで説得できる?
「アンナ嬢、お前にも悪霊ついてる! このクリスタルで一緒に清めてしまおう!」
私にすがりつくギヨーム。もうオルガに優しいギヨームはいない。選挙運動に熱心のギヨームもいない。シャルルの居場所を教えてくれた親切なギヨームもいない。
あの森に来ていたのも、オカルト的な事情? もし行方不明のコリンを殺して埋めていたとしたら、まさかまさかオカルト的な儀式でもやりたい?
「ぜ、全部知ってるのよ! コリンを殺したのもあなたね! コリンや村長の呪いは、そんな変な石では誤魔化せない。自首しなさい!」
私の声は震えていた。推理小説のようにビシッと決めセリフなんて言えない。
「コリンも村長もさぞ無念だったでしょうね? 怨霊と化してるわ!」
「う、うるさい!」
あろう事かギヨームは、変な石を全部私に投げつけると、猛ダッシュで逃げた。
「待ちなさい!」
変な石でもぶつけられると痛いものだ。それでも逃げるという事は、絶対に犯人だ。私の推理は間違ってなかったらしい。
「待てー!」
ギヨームも脚が速い。まるで火事場の馬鹿力の如く、猛ダッシュ。
「待ちなさい! コリンのことも全部推理しているわ! 村長を殺したのも放火したのもあなたね!」
ギヨームの背中目掛けて吠える。
「うるさい! 推理作家の女ごときの分際で!」
さっきまでは怯えていたギヨームだったが、逃げならも暴言は忘れない。
「推理なんてやめろ、くそ女!」
これには何かがキレた。ある意味セニク達に言われるより犯人に言われた方が許せない。
「絶対捕まえるわ!」
私はさらにスピードを上げギヨームの背中を追う。もう靴は脱げ、髪もぼろぼろだったけれど、途中でセニクを介抱しれいるクリスとも合流。
「あの男よ! 絶対捕まえるわ!」
「おお、それでこそアンナ嬢だ!」
クリスと共に走るが、いつの間にか村長の本邸周辺から村の中央まで来ていた。広場にも入っていた。同時に他の村人も参戦し、ギヨームを追っている。たぶん、村人達は野次馬だろう。おそらく詳しい推理なんて知らないが、それでも心強い。
他にもカリスタやリズもこの流れに参戦。案外脚が速いリズは、私達より一歩前進。
「わー、楽しい! やっぱりギヨームが犯人だったのね! 捕まえるわ!」
リズは大笑いだ。
「絶対このクソ男尊女卑ギヨームも捕まえるから!」
そう叫ぶカリスタの目は真っ赤に燃える。もっとも私も決して優しい顔をしていなかってと思うが。
「待ちなさい、ギヨーム! よくも推理なんてやめろとか言ってくれたわ! 絶対許さないわよ!」
私はもう村長とかどうでもよくなり、大好きな推理を下げられた事が一番にくい。さらにスピードを上げ、リズと並走した時、ちょうどギヨームの服に手が届き、そのままギヨームを押し倒した。
汗だく、息が切れ、ボロボロになっていたが、リズとカリスタがさらにギヨームを押し倒し、もうギヨームは袋のネズミ状態だ。
最後にクリスがギヨームを蹴り上げ、ようやく彼は捕まった。
「何だよ、この怖い顔の女どもは! なんだよ、この金髪のイケメンは! こえーよ! 助けてくれよ! わかったよ、吐けばいいんだろ!」
そうしてギヨームは村長や放火、コリン殺害も吐いた時、ようやく白警団のモイーズが登場。
あろう事かギヨームはモイーズにも悪態をつき、公務執行妨害の現行犯で捕まったが、村長殺人事件や放火事件、コリン殺害も調査されるだろう。
「やったわ、リズ! カリスタ! 犯人が捕まったよ!」
「アンナ嬢! 最高!」
「そうよ、アンナ!」
手を取り合い、大はしゃぎする私、リズ、カリスタ。
「決めた。私、リズとカリスタをモデルにしてこの事件を小説にするわ。そうね。村で疎まれていた未亡人とカフェ店長がコンビを組んで、村の事件を解く。女が書く女のための推理小説よ。最高じゃない?」
そう宣言すると、野次馬からも歓声と拍手が。
「アンナ嬢、やっぱりお前はおもしれー女だな」
クリスの呆れた声は、野次馬の歓声にかき消され聞こえないが、これって大勝利?
きっとそうだ。
あとはもう、この事件を推理小説にして書くだけ。




