第38話 追放ざまぁへの道のりです
野鳥の鳴き声がうるさい。風の音もざわざわとし、陽も暮れかけていた。
図書館はすでに休館時間だった。人気もなく、職員がいる気配もない。田舎の図書館が早く閉館する事を失念していた。
「アンナ嬢、気を落とすなよ。セニクのおっさん、他にエッセイや後書きで語っていた事思い出せるか?」
図書館の門の前で頭を抱える私。一方、クリスは冷静だった。
「まって、今、思い出すわ」
エッセイ本だけでなく、文壇サロンでのセニクの発言も思いかえす。
文壇サロンでは作家の経済問題もよく話題になっていた。公務員などと比べ、作家の安定性は低いので、投資や土地転がしもよく話題になっていた。文壇サロンはお金の話も多かったのだ。文芸や芸術の話題は少なく、正直、俗すぎる話題でついていけなかったが、セニクは経済的な事は妙に余裕だった。
元々は貴族のボンボンであったセニク。だから余裕があると思いこんでいたが。そう言えばセニク、「毎月不労所得が定期的に入ってきるんだわ」とニヤニヤ笑っていた。
「不労所得? なんだそれ、引っかかるな」
クリスと私は、図書館から河辺の道を歩く事に。セニクはエッセイで釣りが趣味とも言っていた。可能性は低かったが、河辺にセニクがいる事も考えていた。
「そう。やけに余裕だったけど、今思うと妙よね。貴族のセニクがそんな事わざわざいうのは」
「もしかして、ギヨームを脅してたんでは? おそらくコリンの事件を突き止めたんだ。で、黙っている代わりにお金出せって脅した。筋は通る。メイドの証言とも一致するんでは?」
その発想はなかった。さすが性格がよろしくないクリスらしい発想だが、だとしたら、セニクが行方不明になっているのも、ギヨームを脅し続け、逆に報復されたから?
「本当、バカなおじさんね、セニクは……」
それが事実なら呆れてくるが、可能性は高い。あの汚いおじさんなら、脅しも朝飯前かも知れない。
「アンナ嬢、これは諦めるな。セニクも脅迫罪で逮捕できるかもしれん」
クリスは実にご機嫌だ。口笛まで吹いている。口角がいつも以上に上がっているが、実に悪い顔。
「アンナ嬢を追放したおっさんに、ざまぁって言えるぜ。追放ざまぁだ」
「何それ?」
「言いたいだろ、ざまぁみろって」
「そうだけど、あなた、だいぶ性格がよろしくないわね。前から知ってたけど」
「当たり前だろ。性格が良い経営者がどこにいるんだよ」
クリスはまた口笛をふくと、自身の金色の前髪をかきあげた。左手で。まだダミーの指輪をつけている。一体どういうつもりだろう?
それに、クリスとも賭けをしていた。シャルルは犯人だったらクリスの勝ち。それ以外だったら私の勝ち。
今のところ、賭けは私の方が勝ちそう。クリスと仮面夫婦になる確率は低くはず。それなのにダミーの指輪をつけ続け、余裕たっぷりのクリスを見ていると謎が深まる。
そもそもなぜ私に別荘提供?
口も性格も悪い。顔と仕事以外は取り柄のない男に見えたが、私への態度は謎が多い。こうして私と二人っきりにいる時、機嫌は良くなっているのも何?
この謎は解くべき?
推理作家としても何故かあまり解きたくない謎だと思った時だった。
「クリス! あっちの河辺見てよ! セニクが倒れている!」
河辺に男が倒れている。しかもよく見たらセニクではないか。
私達がセニクに駆け寄ったのが、言うまでもない。
セニクは頭を殴られた模様。頬も赤く腫れ上がり、血も流れている。口元も血が滲み、私が文壇サロンでボコボコにした光景を思い出す。あの時と同じ。命には別状はないが、病院へ運んだ方が良いだろう。
クリスと私は冷静だった。まずはクリスがセニクを背負い、病院まで連れていこうとしたが、ぎゃーぎゃー騒いで拒否される。
「ギヨームに殺される! どうしよう!」
そう泣く姿は、とても大作家先生に見えないものだ。小さな子供みたい。
「ギヨームに脅されてたのね?」
「ああ」
もっとも私がこれまでの推理を話すと、親に叱られた子供のように頷いている。十年以上前、コリン殺害をギヨームだと睨んだセニク。以降、脅しつつ不労所得を得ていたが、ついに相手に報復されたんだとか。村長やオルガの事件もギヨームが犯人だと推理し、さらに脅そうとしたら、上手くいかなかったと泣いているではないか。
「なので俺の推理は当たってる! 当たってるのに、なんで報復されるんだよ!」
騒ぐセニク。耳がキンキンした。
「推理を脅す目的に使ったからでしょ。報復されて当然でしょ」
こんなセニクでも、推理については案外カンが良かったが、動機が間違い。かけ違えているボタンみたい。動機が悪いと、過程がいくら正しくてもゴールを見間違うのだろう。
それに助けようとするクリスのまで悪態をつくセニク。さすがに呆れて物も言えない。こんな汚いおじさんに追放された事を気にしていたと思うと、バカバカしくなってくるが、今は事件解決が先だ。
「ギヨームはどこに?」
「村長の家だよ! 何か証拠品が残っていないか不安で探しに行ったさ」
「そう」
ただ、ここまで自白したセニクは情状酌量がるあるだろう。
セニクはクリスに任せ、村長の本邸に向かって走る。
「おい、アンナ嬢! 一人で乗り込むなって!」
背後からクリスの声が響くが、ようやく真犯人がわかった。一刻も早く捕まえないと!
普段は冷静な私。王都では氷の令嬢なんて言われていたけれど、胸が熱くなる。私の推理は間違っていなかった。
あとは犯人を見つけるだけではないか。あと一歩!




